令和5年度の最後のプロジェクト、お別れ会シリーズです。今年度は3歳児4歳児5歳児をクラスごとに分けず、それぞれが好きなグループに分かれて遊ぶという設定で行います。この一年を締めくくるような素敵な展開が待っています。それでは、行ってみましょう!
♯1
このプロジェクトを開始する前に、子どもたちに何をしたいかを聞いていました。その中から「ポケモン」「鬼」「遊園地」の3つを取り上げます。
5歳児クラスの子どもたちが3歳児クラスの時の運動会のダンスがポケモンでした。そういえば、最近の遊園地作りプロジェクトでも「ポケモンドロボー」の展開がありましたね。
4歳児クラスの時の発表会の劇は桃太郎でした。5歳児クラスになってからは七夕まつり楽器作りプロジェクトで鬼滅の刃の曲に合わせて合奏をしています。小学校の芸術鑑賞会に参加させてもらった時に鑑賞した劇は「泣いた青鬼」です。鬼は5歳児クラスの子どもたちにとって馴染みのあるモチーフです。
遊園地は秋のプロジェクトで5歳児クラスのこの一年を象徴するような遊びの展開が見られたテーマでした。
つまり、5歳児クラスが卒園するにあたり、保育園生活を象徴する3つのテーマの遊びを題材として選ぶことになりました。保育士が決めたのではなく、子どもたちから出たテーマがこうなっているのは面白いですね。お別れ会に相応しい内容になりそうです。
グループ分けは自由です。クラスも関係ないし、そのグループが何人でも良い。初回を見ると、遊園地が大人気で鬼が少ないですね。3歳児は文字を読めないから、ちゃんと正確に選んでいるわけじゃない。でも大丈夫。毎回グループを変えることができる設定で行っていきます。
鬼グループが何をするかを話し合っている間に、ポケモングループが使えそうなものを園内に探しに行きます。
3グループにはそれぞれ、3クラスの担任がついています。子どもの力で解決するプロジェクト保育ですが、鬼グループは4歳児しかいません。子どもだけで進めるにはまだ力が足りない。保育士が引き出しながら進めていきます。そこをやりすぎないように関わるのがとても難しい。誘導しないように、押し付けないように、でも崩壊しないように環境を作る。保育は奥が深い。
遊園地グループは遊園地遊びで使えそうなものを乳児クラスのお部屋から探してきました。何を使うかを話し合うのではなく、実際に体を動かし、見つけて、運ぶ。3歳児クラスの子が多くいるなら、こうやって言葉に頼らない体験型の進行をしていく必要があります。
先日、雑誌の取材を受けた時に、3歳児クラスでプロジェクト型の保育を行なっている園は見たことがないというお話をいただきました。理由は簡単。やるのが相当難しいんです。
このダンボールは23歳児合同プロジェクトで子どもたちが使用していたダンボールです。この子たちもうっすら覚えているのかもしれません。その時のアイテムを残しておくと、のちの遊びに影響を与える可能性があるので面白いんですよね。
ポケモングループは色画用紙の切れ端を使い、ペープサートを作っているようです。棒の先に自分で描いた絵を切り取ったポケモンをくっつけていく。
子どもたちの自由にさせているので、初回では各自が自分で作りたいものを作る流れになりやすい。最初から協同的な関わりにはなりません。個人の意欲を満たし、個人の限界をそれぞれが感じてからが本当の勝負です。最初から結果を焦ってはいけない。
鬼グループ。話し合いをしてからスタートしたのに、各自が作りたいものを自由に作っています。子どもの興味関心が必ずしも目的と一致するとは限りません。話し合ってこれを作ろうと決めても、それを現実的にどうやって組み立てていくかの段取りや道筋を考えて行動するのは大人でも難しい。
特に今回の鬼グループは5歳児がいない。4歳児だけでは厳しいものがあります。見ているとポケモングループ以上にバラバラの個人制作になっているだけです。
ポケモングループ。3歳児が切るのを自然とサポートする5歳児。こういう展開を期待して3クラス合同のグループにしています。
遊園地グループも同じようにガムテープがくっついてしまってうまくいかない3歳児を5歳児がサポートしています。
そのあとは3歳児同士で助け合い、さっきのようにならないように工夫してガムテープを使用しています。助け合いの心は5歳児から3歳児へ。優しさは伝わっていく。
クリスマスマーケットの余韻が残っているのか、自然と丸くなってみんなでお絵描きをする3歳児クラスの子どもたち。
何をするかの目的は全く共有できていないけど、みんなでやりたいという気持ちは共有しているんです。これはこれで地味にすごい。うちの保育園しか知らない保護者の方だとピンとこないかもしれないけど、これ一つとってもすごいことなんです。もっと個人主義の遊びになるのが幼児なんですから。
45分ほど準備に費やしてからグループごとに発表をします。こうやって他のグループのやっていることをお互いに知ることで、発見や想いを共有することができる。そうすると相互作用が活発化されて全体の遊びのレベルが上がっていく。
遊園地グループの発表ですが、特に何かをやったわけじゃないのでなんとなくの発表で終了。ちなみに発表内容も誰が言うかも、子どもたちが考えてやっています。
鬼グループは個人が作ったものを順番に発表するという形になってしまいました。個人個人がやりたいようにやっただけの並行遊びなので2歳児レベルです。
このプロジェクトを個人で作ったものを発表する遊びだと思っている子が多い。子どもは体験で理解するから、言葉の説明は意味をなさない。体験を繰り返させるようにするために準備と発表を繰り返す設定にしているんです。
保育士が誘導しないので、気づきが遅くて停滞する可能性があるのがプロジェクト保育です。教えたいけど教えない。保育士には我慢する力が必要です。
ポケモングループの発表はみんなでペープサート。ストーリーもないし、動きもない。ただ作ったものを白い布の上から動かすだけの発表。だけど、自分たちで作った感じはある。みんなで発表した感覚も得られる。
そして、これを見て遊園地グループの子も、鬼グループの子も理解するわけです。ああ、この時間はグループで何かをするんだな、と。子どもが子どもに教えてもらって成長していく。これが「主体的・対話的で深い学び」の形です。
一度発表が終わったら、再度グループ分けをします。どこに行くのも自由。同じところでも、違うところでも。流動的にすることで、主体性を発揮させ、様々な子ども同士の関わりを促進します。
5歳児が卒園する前に、たくさん一緒に遊ぶことが目的の一つですので、このようなやり方にすると学べるし関わりも促進できるしで、一石二鳥です。
最後に次回どうするかを話し合って終了。例えば、あれが必要とかこれが欲しいなどの意見があれば、次回までに保育士が用意しておく。そうやって毎回アップデートしていきます。
こんな感じで数回繰り返していきます。遊園地やクリスマスマーケットでは園長の私がメインでやる場面も出ていたので、今回は私が前に出ないことも意識して進めています。保育士の育成も兼ねているわけです。
♯2
第二回のスタートですが、前回休んだ子はどういうことかわからない。戸惑う子に教えてあげる子が出てきます。こういうのも子ども同士の関わりを促進する良い機会です。保育士が助けすぎない方が良い。理解するのが目的ではなく、成長することが目的だからです。結果ではなくプロセスを重視する。
人は困るから自分で解決しようとする。人は困るから助け合おうとする。大人が安易に助けることでその成長可能性を奪っていけない。
遊園地のジェットコースターのレーンにしたいというので長い棒をたくさん用意してみました。しかし、レーンとしては使わずに遊び出す子どもたち。遊園地グループは3歳児クラスが多いので自由に動いてしまいがちで、人数も多いのでまとまりが起きにくい。
ポケモングループは「ポケモン探し」を作ることになったようで、ダンボールなどの素材を持ってきました。クリスマスマーケットのお菓子の家作りでやった「○○探し」の派生ですね。探すポケモンを作るのと、隠す場所をダンボールで作るということなんだと思いますが、考える前に行動してしまうのが子どもです。ポケモンを描きたいので、ダンボールや半透明の緩衝材に描き始めてしまいました。
意味を理解していた子もいたと思うのですが、ほとんどの子が自由にお絵描きをしてしまったので自分が間違っていてお絵描きすれば良いんだと思ってしまったんでしょう。周囲の空気や流れを読んでしまい、正解から遠ざかる。大人でもよくあることです。
逆に人数が少なくて5歳児が多い鬼グループは順調に進んでいます。鬼のパンツを作って、実際に鬼役の子に試着しながらサイズ調整をしています。5歳児の力は偉大です。
ポケモングループの5歳児たちはダンボールに描いたポケモンを切り取ろうとしていますが、うまく切れない。ダンボールが硬すぎる。何も考えずに描いて切ったという経験が「ダンボールには切り取るものは描くべきじゃない」という発見に変わります。人は体験で変わる。これで良いんです。
人は年齢を重ねるごとに失敗を恐れてチャレンジしなくなる。失敗しないように立ち振る舞う人は成長が遅くなるんです。小さい子はたくさん失敗するから成長スピードが速くなる。失敗しても諦めないでチャレンジすることが大切だという意味はここにあります。
鬼のパンツで切り取った余った部分で紙芝居ごっこをしています。それを見て他の子が紙芝居を作ることを思いつきました。前回と今回で描いていた鬼の絵。これを紙芝居に流用していきます。偶然が遊びの流れを変えていく。過去の遺産を活用する。これが創意工夫です。
こちら遊園地グループの5歳児。ガムテープでアイテムを繋げていく行動に出ます。3歳児たちにガムテープを配布していますね。自分で作るのではなく、みんなで作る。そういうイメージがお菓子の家を作ったことで確実に存在しているからできることです。
体験は人を変えていく。
鬼のお面が完成しました。こちらも主役は4歳児で、作った5歳児は脇役になっています。最初の計画通り、鬼のお面とパンツを作ることができたようです。
そのグループを構成する子の年齢、能力、意欲、人数、やる内容によって、結果に辿り着くスピードも学びも変わります。それを理解して環境を作れるかが保育のスキルになります。だからクラス合同の異年齢の活動は難しい。今年度最後の最後のプロジェクトは保育士にとっても難易度が高いものになっています。
私たち保育士もチャレンジする。挑戦して失敗して学んでいくのは私たちも同じです。子どもに負けていられません。
ポケモングループ、一部の5歳児だけは成功しています。ダンボールに描いて、切って、ダンボールの中に隠して貼り付ける。ちゃんとポケモン探しの意味を理解し、工程も理解し、実践できている。これをみんなに広めることができれば良かったんですが、それより自分たちが作ることが楽しいが勝っている。もちろん、楽しいからやるで良いんですが、見ているこちらとしては全体に影響を与えてくれることを期待してしまいますね。
今回は全体にこれが広がらなかったけど、成功例の見本を作ることはできました。これをみんなで振り返れば、「こういうことか」というイメージを共有し、次に活かすことができる。5歳児が全体に進むべき方向を示すことができる。そう。子どもの力で解決していくのです。
遊園地グループの発表では、なぜか3歳児の子がダンボールを滑り台の出口に置き、トンネルを作っています。この発表の場でこれを披露したことで、次回からダンボールを広げて使用するとか、トンネルにするというイメージが子どもたちの中に共有されるはずです。
振り返りの時間はすごく大切なんです。遊んでいる時は自分の遊びに集中しているから、周囲の良さを取り込むとかじっくり見るのが成立しにくい。発表の場では他者の行動や考えを吸収しやすい。
ポケモングループの発表。やはりそれぞれが作ったものを発表する流れになり、まとまりもないし、面白さも感じない。見ている子たちも飽きている感じがしますね。
それに比べて鬼グループ。紙芝居、鬼のパンツ、ダンスとまとまりがある発表を見せてくれます。観客が食いついている様子がわかりますね。
こうやってどういう遊びの方向性が楽しいかを実際に感じてもらうのが良いんです。保育士がこれが楽しいよと言ってもダメだし、強制的にやらせてもダメなんです。
というわけで、またグループ分けの時間に。ポケモンが一気に減ってしまいました。子どもって正直ですね。鬼が増えています。楽しいところへ子どもは流れていく。教育したいなら、楽しくすること。それがこういう流れを見ているだけでもよくわかります。
♯3
第3回。遊園地グループでは3歳児考案で踏切みたいなバーが登場しました。子どもたちがこの装置に「レディーゴー」という名前をつけました。これにより、滑り台を自由に滑るのではなく、係員の指示でスタートするというルールが生まれています。「自由に1人で遊ぶ場所」から「ルールが存在して2人以上で遊ぶ場所」へ。より遊園地に近くなってきました。
鬼グループ。紙芝居に力を入れているようです。手前が4歳児と5歳児。奥が3歳児です。描くときは床に制作シートを敷く。3歳児の方がルールをしっかり守っています。4歳児と5歳児ははみ出さずに描けるから、シートは必要ないと自分たちは思っている。だから用意をしないんですが、その違いが2つの場所を分ける結果になってしまっている。3歳児が独立して作業することになってしまいました。
仲間はずれにしているとか、そういうことじゃないんです。その行動の意味を深く理解することが重要です。
ポケモングループ。ダンボールは切りにくいので牛乳パックに描いて切り取ることにしたようです。しっかり前回の反省を生かしています。
手前がポケモン作り、後方がモンスターボール作り。話し合って2つに分かれて分業することになりました。前回の反省を活かし、バラバラではなくみんなで作る意識が強くなっています。
遊園地グループ。5歳児の男子たちが、ダンボールを千切る遊びに夢中です。全く遊園地と関係ない。下の学年のサポートをするわけでもない。感覚遊びですから1歳児レベルに戻ってしまっています。
その間に3歳児と4歳児でレディーゴーの改良やジェットコースターの制作が進んでいます。もしかしたら、5歳児が遊びの中心にいないから4歳児が活躍できるということなのかもしれない。
モンスターボールを新聞紙で大量に作った後は、ダンボールで土台を作っていきます。こちらも4歳児中心です。4歳児の主体性が発揮されてきましたね。
鬼グループ。離れて描いていた3歳児。何を描いたかを私に見せてくれました。「おーろだ」「ながぜ」「にじ」。3つのクラス名をハートが包んでいます。本当はおーろら、ながれぼし、にじ組。文字はちょっと違うけど、そんなことはどうでも良い。君のその心が私にはすごく嬉しい。
その3歳児が作ったもう一つの作品がこちら。5歳児が私に見せてくれました。
おーろだのハートをめくると・・・
もう一つのハートが出てくる。3歳児がこれを作ったのか。
「4歳児5歳児クラスが発表会の劇でやったアナと雪の女王のオラフのセリフ、真実の愛とは自分よりも誰かのことを大切に思うってことだよ、っていうのを描いたんだって。すごいよね。」
・・・マジですか。
私たちが子どもたちに一番伝えたかったことが劇を見ていた3歳児にも伝わっていたってことですよね。演じてた子だけじゃなく、見ていた子まで伝わる劇。子どもの力ってすごい。
お別れ会プロジェクトの前にやった発表会もすごかったのでブログにしようかと思ったんですが、時間がなさすぎて泣く泣くカットしました。すみません。45歳児は「真実の愛」を、23歳児には「力を合わせれば何でもできる」という私たちのメッセージが込められた劇を演じています。
真実の愛とは自分よりも誰かのことを大切に想うこと。悲しんでいる子がいれば何も考えずに自然に相手に寄り添い、抱きしめる。エルサのために命をかけたアナであれば、劇ではない実生活でもご覧の通り。演じることで子どもはそのキャラクターを取り込んでいきます。
遊園地グループの発表では、レディーゴーがメインです。4歳児が係員となって3歳児が滑っています。5歳児は見ているだけ。
ポケモングループは5歳児中心。台はできたけど、ポケモンを設置することはできていない。大量のモンスターボールはあるけど、うまく活用できていない。まだ発展途上です。
鬼グループは紙芝居が本格始動。しかし、メインはそこではありませんでした。5歳児中心で紙芝居を披露した後、「こっちも見てください。すごいんだよ!」と観客に3歳児の作品をみんなに説明していました。
自分がやりたいことができれば満足というわけじゃない。3歳児の作品の凄さをみんなに伝えたい。自分よりも誰かのことを大切に想うこと。真実の愛です。
前回の発表でトンネルが生まれましたが、再びトンネルにしようとする動きが。次回へ繋がる動きになりそうです。
3歳児が抱き合いながら「俺たちは!」「強い!」と繰り返し叫び出しました。後方では4歳児も行なっています。これは5歳児クラスで今年度何度も行なっていた掛け声。心を一つにする魔法の言葉。
そして出てくる3歳児のオペレッタのメインテーマの歌の合唱。「一人ひとりは小さいけれどー、力を合わせればー、なーんーでーもー、でーきーるー!」
3歳児の女の子が作ったハートを発表で見て、発表会を思い出したのでしょう。そして、みんなの心が繋がってきた。
この後の展開が期待できそうです。
だって、この子達は「力を合わせれば何でもできる」んですから!
さぁ、グループ発表お別れ会プロジェクト、前半戦終了です。いかがでしたでしょうか。前半は子どもたちもまだ様子見というか、ウォーミングアップというところですね。
今回のプロジェクトは後半で徐々に変化していき、最終回で爆発する構成となっています。ぜひ最後まで読んでいただきたいです。