345歳児合同で行う異年齢多人数遊びの解説、第二回です。前回はコーナー遊びという分断されがちな遊び環境の設定から、コーナーを飛び越えて人と人がつながっていく姿を見ていただきました。

第二回では視点を少し変えて、ブームの融合をテーマに解説していきたいと思います。

 

♯2

 

流れに身を任せる子達

遊びが始まった直後に、子どもたちがどこに行くのか。見ていて面白いポイントです。黒ひげコーナーは一番奥にある。つまり、とりあえず奥まで行ってみる子が集まる。途中を見ないで終点まで行ってみるタイプです。

動きが多いので周囲の注目を浴びるので、全体の遊びの方向づけをしてくれることが多い。

 

集まっているのは5歳児メインですが右奥で3歳児が真剣に見ています。どうやら興味を持ったようです。お兄さんたちの遊び方を見て学びます。観察遊びです。見ているだけというのも遊びになります。体は動いてないけど、脳が遊んでるんです。

 

記憶が残りやすい子達

こちらは前回の遊びの続きを行う子達。記憶が残りやすいタイプです。同じ遊びを繰り返しがちな子達ということです。行動パターンが定着しやすいので、良くも悪くも無難にまとまるかもしれません。

新しい遊びを創り出すことが苦手ですが、こういう子たちがいてくれるのでブームがしばらく定着して集団遊びに広がっていく。

 

ちなみに前回と環境設定を変えてあります。左奥のダンボールです。前回の最後、ダンボールに新聞紙を入れる遊びが盛り上がったので、今回はダンボールを増やして遊びを刺激することにしました。ただし、「ダンボールがあるよ」と保育士は子どもたちに言いません。

 

誰かがダンボールに気がついて遊び始めるのを待ちます。直接的に大人が遊びを誘導するようなことはしません。遊びとはいえ、子どもたちで作り上げる時間がプロジェクト保育です。

 

新しく生み出す子達

こちらは前回なかった遊び、カーテンに隠れて誰かに見つけてもらう遊びです。5歳児ですね。運動に引っ張られすぎず、前回の遊びにも引っ張られず、その時の気持ちや興味で遊ぶタイプです。

 

集団の中でトリッキーな動きを見せるいわゆるジョーカー的な役割です。思いもよらないことをすることがあるので、こういう子をきっかけに遊びが一気に展開することがあります。みんなが自由すぎると集団が崩壊しますので、これくらいの割合がちょうど良い。

 

前回と同じ展開

インフルエンサーが遊ぶということは、遊びの主導権をインフルエンサーが握るということ。自分のやりたいように遊びたい子からするとストレスになる。左側の2人が遊び方で揉めてしまいました。

 

遊びは崩壊。このあと全員この場から移動して自由スペースに移動します。前回と同じですね。破壊の後に創造が起こる。変化が期待できる。

 

仕事終わりに銭湯に入って疲れを癒すサラリーマンの顔

というわけでインフルエンサーがダンボールを発見し、中に入り始めました。この子が最初にダンボールに気がついてすぐに中に入るだろうということを保育士に予測として伝えていましたが、その通りの展開になりました。

 

こういう感じで最初のおもちゃや空間の設定から、遊びがどのように広がっていき、最後はどうなっていくのかを私は常に予測しています。前回も「一人遊びがなくなる」のを予測していました。

 

子どもの予測ができるから、何も声をかけずに信じて待つことができる。もしくは必要に応じて最低限の介入ができる。子どもの予測ができなければ最適な保育環境を作ることはできません。

 

この子の良いところは、どんな状況でも楽しいことを見つけて、心の底から楽しめるところ。この子が楽しんでいるから、みんなやってみたくなる。

 

女子の力(集団の力)

インフルエンサーが始めた遊びを、4歳児女子が集団で遊び出す。これも前回と同じ展開ですね。ただし、1つの箱に2人入り、それをみんなで運ぼうとする遊びになっていますので工夫も見られます。模倣ではなく、遊びが少し深まっている。

 

基本的におままごとが多い子達でしたが、いつもの遊びではない方向へ動き出しています。ダンボールがあると体全体で遊び出すからです。

 

 

ダンボールブーム

全クラス巻き込んでのダンボール遊びが始まりました。中に入る、運ぶ、隠れる。

 

記憶中心で前回の続きを遊んでいた子達の自由スペースで、カーテンで隠れる遊びをしていた子の「隠れる」という遊びを取り入れて、黒ひげにいた目立つ動きをする子達が遊ぶ。それにより遊びが活性化され、ブームが起きています。

 

遊びが融合していく様子がわかります。様々な特徴、個性を持つ子が集まって遊ぶからこそ、こういう遊びの展開が起こるわけです。一人でやりたい遊びをしている時より、こうやっていろんな子たちの個性がぶつかって遊びが弾けていく感じが、私はとても好きです。きっと子どもたちも同じです。だからこうなっていく。

 

 

読書ブーム

黒ひげから移動してきた子もダンボールに入ります。右の男の子です。ここでダンボール内に本を持ち込み、読み始めました。ダンボールに入って本を読む。この姿にみんな興味を持ち、本を読む子がどんどん増えていきます。みんな、やってみたくなるんでしょうね。

 

お金を貯めるチャンスです!

3歳児も読んでますね。家計診断を。え?

 

家計診断?

 

幼児の雑誌になんでこんな特集ページがあるのか謎ですが、お金のやりくりに興味を持つことは良いことかもしれませんね。実はアメリカのある場所では幼児期からお金のリテラシーを遊びの中で学ばせていくという教育をしています。

お金の使い方は社会との接点の持ち方や自己コントロール力と密接に結びついています。お金の使い方が上手になるのは生きていく上で重要なスキルです。

 

 

園長もおもちゃの一つ

3歳児が園長にまとわりついてきて、登り始めました。まぁ、いつものことなんですが。どこにいても子どもたちが集まってきてしまうので、私が保育室に入ると遊びが中断してしまったりすることもあります。先日、小学校の授業参観に行ったら卒園児が授業中に廊下にいる私のところに来てしまうということがありました。

 

子どもたちは遊びに集中していれば私にくっついてこないので、遊び込めているかの一つの目安になります。つまり、今現在、3歳児が遊べていない。

 

前回、新聞紙を投げたり箱に入れたり、絵カードと新聞紙でピクニックごっこをしていた3歳児。それは3歳児のレベルに合っている遊びです。

 

しかし、今日の遊びは箱に入るか読書をするのが全体のブームです。ダンボールの個数に限界があり、4歳児と5歳児がダンボールを独占してしまって3歳児は遊べない。文字もそこまで読めないから読書にも限界がある。

 

だから園長のところに集まってくる。これは必然です。

 

場所にもブームがある

しばらく私の上に登ったり髪の毛ぐしゃぐしゃにしたり、抱きついたりと遊んでいましたが、スッと私がその場から自然に離れると、そこに集まっていた3歳児たちだけで会話し、遊び始めました。

 

大量の絵カードを持ち歩く子もいれば、新聞紙で飛行機を折る子もいる。それぞれの楽しみ方ですが、確実に一緒に遊ぼうとしている。

 

もちろん、これも私の保育スキルです。園長にみんなで登るという「遊びの共有」「楽しさの共有」を体験すれば、私が抜けても「楽しさの共有」のイメージが残るので一緒に遊べる。

 

そして、その「楽しさ」のイメージのようなものは場所にも宿ります。前回もそうでしたね。この位置で遊びが盛り上がったことで、この後、人がここに集まってくる。この場所がブームになる。

 

3つのブームの融合

3歳児が作ったブームの場所に、黒ひげで揉めてバラバラになって遊んでいたインフルエンサーのダンボール遊びと、もう一人が始めた読書。この3つが融合しました。

 

黒ひげで揉めてバラバラになった2人の遊び(ダンボールと読書)が、場所を時間を超えて繋がるのが面白い。

 

この場所にダンボールを並べ、読書をするという遊びが最新のトレンドになったんです。5歳児が遊びを牽引します。右端では3歳児が羨ましそうに見ています。ここでも観察遊びです。本当はダンボールの中に入ってみたいけどできない。いつか入りたいと夢見ている。4歳児女子を3歳児がこれもまた入りたそうに見ています。まだ3歳児が遊びにうまく入れていないということです。

 

 

ブームの影響はここにも

4歳児と5歳児のほとんどが自由スペースに移動したことで、人気だった黒ひげのコーナーが空きました。ずっと5歳児がやっていた黒ひげを見ているだけだった3歳児の男の子、やっと自分で遊ぶことができました。

 

ただし、他の子たちも集まってきてしまったので思うように遊べません。そう、自由スペースで遊びに入れなかった3歳児がここに集まってきます。

 

 

気が付かないほどの集中

今まで遊び込めていなかった3歳児の女の子。黒ひげで盛り上がっていたコーナーにやってきて、積み木で遊び始めます。集中して積んでいく。やっと遊びに集中し始めました。

 

しかし、遊びの時間はおしまい。みんな集合しています。遊びに集中していて集合に気が付かない。それだけ集中力を発揮している。もうちょっと早くこの場所に来ていれば問題なかったんですが、片付けの時間です。集合の号令を無視する形になっている。

 

声をかけるのか悩む保育士たち。これも普通は声をかけると思います。100%声をかけますよね、大人は。でも違う。自分で気がついて自分で乗り越える体験が欲しい。

 

この子を見守る私を見て、同じように声をかけずに心の中で「気付いて!」と願いを込めて見守る保育士たち。

 

 

どうしたら良いの?

進行を行う担任も、この子が遊んでいるのを見て、次に私と目を合わせ、そしてこちらに背中を向けて集まった子どもたちに話を始めました。担任の背中は「その子は園長先生に任せます」と私に言っています。無言でやり取りをする私たち。私たちに言葉は必要ありません。信頼とはこういうことです。

 

さて、この子も積み木を片付けて後ろを振り返って、すぐに気がついたようです。

 

みんな座っている!?

なんで?

 

足がすくんで動けない。自分でみんなの方に歩いていけない。

 

目には涙。

 

笑顔の連鎖

担任の合図で移動を開始した瞬間、5歳児が集まってきて、固まってしまった3歳児を巻き込んで園長にくっついていきます。わざとふざけて、倒れそうになって支えて、みんなで笑い合い、この子も笑顔になりました。

 

そうです。この子たちが来てくれると私は信じていました。

 

担任は私たちに背を向けて子どもたちに話をしていましたね。つまり、子どもたちの正面に、遠くで固まるこの子がはっきりと見えていた。必ず気にしてくれる子どもたちが出てくる。私はそういうふうに子どもたちを育てています。放っておくはずがない。

 

場所のブームが作られる前、園長の周りでこの子は笑っていた(スクロールして写真をもう一度見てください)。この子を笑顔にするには園長を巻き込むのが一番良い。経験上みんなそれを見て知っている。そこまで意識してやっているわけではないけど、無意識の世界で私たちは繋がっている。最善最速の方法で、笑顔を作っている。

 

「大丈夫?」とか声をかけることが優しさじゃない。マイナスの気持ちに寄り添うんじゃなく、プラスの世界に自然に連れていくやり方。とても素敵な解決策だと思います。

 

ただ自分たちが楽しければ良いんじゃなくて、みんなで笑顔になりたい。そういうことを考えられる子どもになってきています。とても嬉しい出来事でした。

 

 

第二回は以上となります。

 

いかがでしたでしょうか。第二回はブームの融合をテーマにしつつ、最後は子どもたちの優しさに繋がっていくところを解説させてもらいました。

 

前回と同じように、破壊の後に創造があること、インフルエンサーから始まって女子の集団の力でブームが作られること、遊びが影響しあって変化していくことなどがよくわかる回だったと思います。

 

さて、今回は遊びが大きく展開していくことはなく、ダンボールを使った遊びが深まっていません。これからって感じですね。

 

つまり今回は次回以降の「つなぎ」の回です。連続で遊びを行っていると、大きく動く回と動かない回があります。その流れを読むのもまた保育士の遊びの環境作りには必要なスキルです。遊びは「その日」で評価するのではなく、次の日の予測や前の日を含めて「流れ」で評価していくわけです。

 

伏線をいくつか張っておきました。次回以降に今回の遊びがどう影響していくのか、もうしばらくお付き合いください。