3歳児「作って遊ぶ」プロジェクト、後編です。

おままごとばかりの子どもたちが、自分で作ったアイテムをどう活用して遊ぶのか。興味と工夫に注目してご覧ください。

 

#3

 

第三回から「遊び」に入ります。テーブルだけセッティングしたら、あとは子どもたちにお任せでスタートです。店員さんをやりたい子とお客さんをやりたい子に自然と分かれていきます。

 

店員さんとお客さんに自然と分かれる

4歳児の「設定お店屋さんごっこ」と比較してみると違いが面白いですね。「いらっしゃいませー!」などの店員さんの象徴的な言葉や動きの真似が3歳児ではメインとなります。店員さんの仕事が何なのかという役割や仕事内容の理解が4歳児にはありましたが、3歳児はあくまで形を真似ている段階に近いのです。深い意味まであまり分かっていない。

 

強奪

なかなか面白い写真が撮れました。用意していた紙コップを全部持っていく子がいます。当然、店員さんから非難されているのですが、無視して持っていきます。

 

なぜなら・・・

 

ジュース屋さんがオープン

左奥を見てください。集めたコップでジュース屋さんをオープンしました。保育士は作ったもので遊ぶことを想定していましたが、早速、ラーメンでもなくお弁当でもない売り物をその場で製作してお店をオープンさせています。

 

こういう発想力や行動力、大切にしたいですね。これにはコップを独占されたみんなも納得です。子どもとは面白いもので、納得すると受け入れることができます。「でも独占は良くないよ」と大人は考えてしまいますが、良し悪しを判断するのではなく、その新しいお店を利用して遊ぶ方が面白い、そういう思考にスッとなれるのがすごい。

 

保育士や親は、固い頭で考えてしまい、大人である自分が正しいと思い込んでしまいがちです。しかし、子どもの純粋さや前向きさ、純粋さから見習うべきこともたくさんあるのかもしれませんね。

 

みんなは買ったものを持ち帰り、ピクニックをしています。

 

売り物がない

ピクニックコーナーはもうめちゃくちゃです。お弁当とラーメンの中身が散乱しています。遊び方が売り物のおままごとセットを使っている時のように雑な動きだから、器から簡単にこぼれてしまうのです。

 

人数分のラーメンとお弁当しかないわけで、すぐに売り物がなくなってしまい、店員さんをやりたい人たちは困ってしまいました。

 

すると、廃材コーナーに走っていき、自分たちで様々なものを持って戻ってくる子どもの姿が。

 

売り物を追加

すぐに活用できそうなものを集めてきて、お店に並べています。「ない」から「作る」。シンプルですが、とても良い解決方法です。工夫することを楽しんでいます。大人の指示のもとでしか遊べない子どもであれば、こういった発想は出てきません。

 

 

遊び方の広がり

バンダナを持ってきて、風呂敷のように商品を包み始めました。どんどん発想が広がっていくのがわかります。「あるもの」を「別の用途」で使用する。これも工夫の一つですね。周囲の2人も「なるほど」という表情で見つめています。こうやって誰かが工夫するのを見て、周囲の子どもたちも学習していきます。1人で遊ぶより、誰かと遊ぶことの良さがそこにあります。体験に深みと広がりが生まれるのです。これが主体的・対話的で深い学びの保育の良いところです。

 

 

掃除が大変

部屋全体に散らばった、ラーメンとお弁当の中身をみんなで拾います。特に、ミニちりとりを使うのが楽しくて仕方がない様子です。「拾う」のではなく「掃く」とか「集める」という作業を入れることにより、子どもの興味を引き出し、集中力を養います。

 

しゃがんだり立ったり、しゃがんだままの姿勢をキープしたり、右手のほうきと左手のちりとりでバラバラの動きをしたり。これは運動能力を鍛えることにもつながっています。

 

 

#4

 

最終回では前回使用した材料や道具を用意しておき、自由にお店のセッティングをしてもらうところから始めます。完全に自由遊びです。

 

即興で作れるようになりました

前回、コツを掴んでいるのですぐにお弁当やラーメンなどの売り物を各自が作り、テーブルに並べていきます。一度経験すると応用が効いて効率も良くなる。大人も一度経験した仕事は次にやるときに効率よくできたりしますよね。同じですね。

この「コツを掴む」っていうのは結構高度な技術です。本質を掴むというか、再現性を獲得するというか、うまく言葉にできませんが、複雑な認知と記憶と技術が組み合わさった物です。これを人は「できるようになった」という感覚として獲得するのです。

つまり、この子たちは「作って遊ぶ」ことを「できるようになった」のです。

 

 

ピクニックも上手になった

前回、中身が散乱してしまいましたが、買ってきたお弁当を使ってピクニックをするのも上手になって床に無駄にこぼさなくなっています。

これも工夫です、明らかに前回と違う。子どもたちの成長スピードに驚かされますね。

 

 

違う意味で驚いた

あれですね、褒めるとダメですね。口に出したわけじゃないんですよ。すごいなぁと感心していた私の顔を見て「ニヤリ」と笑ったかと思うとキャベツの千切りとして使っていた紙が、私の顔に飛んできました。

視界の片隅で、紙をちぎってダイブする別の子どもの姿が。

 

ああ、やっぱりこうなるのね。

 

ヤドカリ怪人

前回と同じように散乱するお弁当とラーメンの中身。物が入っていた段ボールをひっくり返し、中に入って遊んだり、紙を投げたり、やりたい放題です。

 

興味が感覚的なところや、視覚的なところに移ってしまったようです。そうなると、子どもの遊びはよりダイナミックに、より原始的なものになってしまいます。でもとっても楽しそう。

 

まぁ、考え方によっては散らかしている紙も、この子たちが「作った」物ですから、「作って遊ぶ」というねらいは達成していると言えるかもしれません。

 

 

恒例のお片付けタイム

散らかしても自分たちで片付けることまでセットにすることが大事です。行動の責任を取ることの体験となります。これで大人が片付けてしまうと、単なる「おふざけ」になってしまうからです。お片付けも、誰1人嫌がることなく行います。

 

むしろ散らかしてしまった罪悪感を自分で解消しているようにも見えます。自分で責任を取れるのが大人になるということですが、3歳児なのに、とても頼もしいです。なんていうのかな、信頼?「片付けておいて」とお願いしたら、完璧にこなしてくれるだろうという信頼。すでにその域に達しているんですよね。大人の中にもいますよね、手を抜いてサボろうとする人。そんな人はこのクラスにはいないんです。

 

 

さて、いかがでしたでしょうか。

 

第二回では紙テープをばら撒き、第三回では中身を散らかし、第四回では段ボールをひっくり返して紙をちぎって投げる。どれも最後だけ見れば、保育士のねらいと違う遊びに夢中になって、「失敗」したかのような終わり方になっています。

 

私たち人間は最後の印象に強く引っ張られて評価をする傾向にあるので、最後の様子から考えれば今回の遊びはどうだったんだろうかと考え込んでしまいがちです。

 

しかし、最後ではなく、途中の子どもたちの工夫や行動を丁寧に見ていけば、各自の試行錯誤する様子や変化に気付き、成長を感じることができます。

 

遊びをぼーっと見ているのではなく、個人個人の様子をしっかりと見ていくこと。それにより、私たちは子どもたちが個性を発揮する様子に気付けるのです。今回はストーリー分析ではなく、細かい工夫の様子を中心に取り上げてみました。また違った面白さを感じていただけたのではないかと思います。

 

また、3歳児では途中で別のものに興味が移って遊びがガラリと変わる様子をご紹介しましたが、先日の4歳児のお店屋さんごっこでは最後まで遊びの主題が変わりませんでした。ここに学年による成長の違いを感じることができます。集中力や自己コントロール力が違うと、遊びの方向性に変化が出てくるのです。

 

子どもの興味についていくこと、結果ではなくプロセスを重視すること。その大切さがわかるプロジェクトになりました。