3歳児クラスでは年長クラスのような自分たちで作り上げるプロジェクト保育をすることは難しいため、現実的には日常の延長の連続性のある保育となります。プロジェクトの練習、準備段階のようなものです。
乳児クラスから進級したばかりの3歳児クラスではテーマを「大きいお部屋」にしました。大きな幼児室で生活がスタートしたので、広く部屋を使うという遊びを通して、視野を広げたり大きく運動することを楽しむことが保育者のねらいとなります。ちなみに子どもたちにはこちらのねらい・意図は伝えません。どう展開するか分かりませんが、保育者は子どもたちについていきます。
まずは導入です。保育者がお部屋の中にあるものを指示し、みんなでそれを探すと言う保育士主導のゲームが始まりました。ウォーミングアップのようなものです。
全体では盛り上がりましたが、見つけることができない子が拗ねてしまい、一旦仕切り直し。子ども達に何をしたいか尋ねると近くにあった「おもちゃで遊びたい」と言うので自由遊びを開始しました。
棚からおもちゃを出して遊び出しますが、目の前のおもちゃに夢中で周囲を見ていません。このまま個人遊びで今日の時間は終了。
終了後、園長と担任でミーティングです。何をすれば遊びが深まり、展開するのか。このクラスの子たちは何に興味関心があるのか。1時間くらい話し合い、このクラスの子が一番大好きな遊びである、おままごとで進めることにしました。
遊びの環境設定は、その場のひらめきだけではうまくいきません。しっかりと振り返り、計画を立てる時間が必要です。そして1人でもダメです。職員間でも「主体的・対話的で深い学び」が必要なのです。
手前がキッチンやテーブルや食器のある「おうち」、真ん中がレジやカゴや品物がある「お店」、奥が魚を釣ることができる「池」を設定したおままごとです。ここでも手前の「おうち」が大盛況。近くのものに引っ張られてしまう様子が分かります。
この日の終盤、部屋のはじっこから園長に向かってダッシュする遊びが始まりました。ダイナミックな動きと歓声に周囲も気付き、軽いブームになりました。子どもに「まわりをよく見なさい」と大人が指摘するのではなく、周囲を観察すると楽しいことがあるんだという体験を繰り返すことで、自然と周囲をよく見て動ける子が育ちます。
こんな感じで部屋を大きく使う遊びが行われ、保育者が設定したおままごととは関係ない遊びによって「大きいお部屋」のテーマが達成されるという面白い展開になりました。
前回のダイナミックな動きの遊びの影響もあり、第三回では「ティー、ティー」と言いながら部屋中を列になって練り歩くという謎の遊びがブームになりました。時間差でメンバーが入れ変わり、ほとんど全員が参加する事態になりました。
ただブームに乗るだけでは何も考えないで周囲に流される子になっているだけだという評価もできるかもしれません。しかし、よく観察してみると各自が自分のやりたいことに集中することもできていました。
こちらは魚釣りの釣竿4本が絡まった糸を、なんと1人で解くことができました。10分以上時間をかけていましたが、諦めることなく取り組んでいました。学びに向かう力が発揮された瞬間です。試行錯誤する力がある子は小学校の勉強にも向き合える子になるのです。考えるのが好きな子に育つように工夫しています。
釣竿で釣竿が釣れることを発見していました。これは磁石の性質の理解です。「何がくっついて、何がくっつかないか」を様々なものをくっつけて実験をしていた結果です。
魚釣りの池を作っていた養生テープを剥がして綱引きが始まりました。小さく部屋の隅っこのおもちゃで遊んでいた子どもたちとは思えないほど体全体を使った集団遊びが増えています。
第四回では集団遊びや個人の遊びも展開されていましたが、担任の保育士に甘える様子が多く見られました。子ども主体の保育をするために一歩引いて見守る対応が多かった担任の保育士は子どもの様子を感じ取って対応を変更。話しかけてくる子どもたちに応答するように自らおままごとに入り、子どもと同じ目線・立場で遊び込む方法を取りました。おままごとは深まり、遊びはより楽しいものになっていきました。
1人担任ではこの方法は取れません。今回は園長が全体把握を行っていたため、担任が子どもの遊びに全力で入ることができたのです。これがチーム保育です。合図をした訳ではありません。お互いの意図を理解しそれぞれが自然と動くことが大切です。
肩を組み窓の外を見ながら会話を楽しんでいました。ちなみにベランダで干していたパラバルーンが風で揺れる様子を見ていたようです。ただ洗って干すのではなく、子どもが見えるところに干すのがポイントです。何が子どもの成長を促進するか、何に興味を持ってもらえるかわかりません。刺激は多い方が良いのです。
ままごとも深まり、あまりにもお店が繁盛しすぎて品物がなくなる事態に。お部屋全体を使う遊びはうまくいったみたいです。
保育の方法論とは一つではありません。最後の担任のように、時には全力で子どもと遊び込むと言う方法も有効なことがあります。
例えば今回の遊びの展開の起点となったのは「園長に向かってダッシュする」という遊びでした。これも「園長先生」という環境が子どもと関わった結果生まれた遊びです。子どもだけで生まれた訳ではありません。ただし、園長から声をかけたり遊びを誘導したりはしていません。園長はただそこにいるだけで、子どもたちが走ってきたのを受け止めただけです。主体性は子どもにあります。そこにいるだけという関わりです。
子ども主体の保育をするといっても、保育者が関わってはいけないということではないのです。子どもたちが求めているのに相手をしない保育者が正しいとは思えません。必要最低限の関わりで最大限の教育的効果を発揮するにはどうしたら良いかを常に意識して私たちは保育をしています。
大切なのは子どもが何を学んでいるのか。その視点です。