自由工作は具体物が直接変化するので楽しさが分かりやすい

ピタゴラスイッチのボールが転がっていくコースを作るということは大変高度な思考と技術を要する遊びであり、幼児が簡単にできるようなものではありません。それは高低差や摩擦や重力や角度など様々な科学的な知見がなければ達成できません。今回、ピタゴラスイッチをやると決めても自由工作や水遊びに夢中になってしまうことは幼児期の子どもにとっては必然なのです。

つまり、違う遊びが展開されたことは悪いことではありません。指定したことと違う遊びをしていると知ったほとんどの大人は叱るか注意するのではないでしょうか。つまり、子どもの発達を知らなければ適切な遊びの評価ができないということです。

一番原始的な遊びは感覚的な遊びです。わかりやすく言えば、身体を使う遊び、水を使う遊びから具体物を操作する遊び、見立て遊び、ルールのある遊びと広がるわけですが、今回は水遊びという感覚遊びから色水の実験を通してアドリブ劇というルールやイメージの力を使う高度な集団遊びに向かいます。遊びの変化を感じ取ることができる、面白い流れとなりました。

仲間と過ごした時間が最高の宝物

今回は最終的に発表できるものができました。寄り道はしましたし、最初の計画とは違う形になりましたが、それは結果ばかりを重視する大人の硬い頭で考えた価値観の押し付けによる間違った評価です。どんな道を通っても子どもたちが楽しんで、様々なものを学んで、仲間と笑い合った。そのほうが何倍も大事ですし、何倍も成長するのです。結果ではなくプロセスが大事であるという視点を忘れてはいけないことを子どもたちが教えてくれています。

水遊びをしてくれた子がいたからジュース作りに繋がった

プロジェクト型の保育をすることの良さに「過去と未来を意識する子が育つ」という側面があります。前回の活動を思い出し、反省もしくは参考にし、修正を加えながら目標に向かって活動する。そういった力を育てることができます。連続性のある保育をしなければ、その場の感情や思い付きで行動する「考えない子」に育ってしまうかもしれません。私たちは「過去と現在と未来をつなげる」ように意識して保育をする必要があるのです。

子どもを𠮟っても叱っても行動が改善されないと感じたことはないでしょうか。それは子どもが自分で考えて学んでいないからです。何がいけなかったのか理解し、正しい行動を獲得するためには、子どもは膨大な時間がかかります。なぜなら言語での理解や正しい行動の組み立てをすることが難しいからです。子どもは反復して実体験として感覚で体験する必要があります。ほとんどの大人は室内の水遊びの時点でストップをかけると思いますが、自分でそれをしてはいけないという体験をさせることを私たちは選びました。

ご家庭では時間も場所も制限があるので同じようにはできません。家庭で自由保育をすると生活が崩れるのでおすすめはしません。保育園だからこそできるやり方です。

発表の後にお客さんに深く頭を下げて感謝を表す担任

保育者がポジティブに子どもの変化や成長を認識できるかどうか。これは子どもに直接伝えなくても重要なスキルです。なぜなら、ポジティブに子どもたちを見ている、安心してみている、成長を感じている、そういった雰囲気が保育者から自然と出ており、それが場の雰囲気を作ったり、子どもに伝わったりするからです。ただ保育を見守っているとか、ただ見ているとか、ただ一緒に遊ぶのではないのです。

自分で作ったおもちゃで叩くだけでも楽しい

お誕生日会で発表をするのが目的で、物を作るのは手段です。しかし、子どもにとって作るということは手段であって遊びの目的でもあります。混ざっているのが自然なのです。自由工作やジュース作りが目的になってしまっているようで、なんとなく発表も意識している。この状態が大事なのです。どっちが大事とかではなく目的も手段も同時に満たす最適解を見つけようとする。結果も大事だがプロセスも大事。これは頭で考えてできることではありません。これを成功させる重要な要因は一つ。「楽しむ」ことです。私は遊びには無限の可能性があると思っています。

第一回のこの瞬間、私は上手くいくと確信しました

単なる水遊びが劇中でジュースのプレゼントに変化し、片付け遊びが掃除のスキル向上につながり、ピタゴラスイッチと物語作りが融合する。大人が何も教えていなくても、子どもはちゃんと目的地に着地する。この変化が素晴らしいと感じられる保育者(大人)であってほしいと思います。結果を焦りすぎないようにしましょう。教師が生徒を信じていると成績が伸びるというデータもあります。保育者が子どもを信じることが大切なのです。

子どもの世界を邪魔してはいけない、ただいま成長中

水遊びはダメと言いながら拭いているという建前で自分たちが遊ぶ子たちがいました。いわゆる「ずるい」行動ですが、これも高度な工夫の上に成り立つ、思考の産物です。誤解を恐れずに言えば「悪いことをどうすれば合法的に行うことができるか(叱られずに批判されずにギリギリの遊びを楽しむにはどうすればいいか)」を考えるということは、とても難しく、そしてエキサイティングです。これは大人の顔色を窺って善悪を決める世界から抜け出し、子どもの世界を生きているということになります。

子どもの世界は混沌としていて何でもありの夢の中のようなところです。常識に縛られず自由な発想と行動ができる場所であり、様々な可能性を開花させる土壌があります。子どもの世界は、空を飛ぶこともできるし、お姫様にもなれるし、ヒーローになって怪獣もやっつけることができるファンタジーの世界なのです。ドラえもんやジブリ映画ではファンタジーの世界に冒険に行き、ちょっぴり成長して現実世界に戻ります。子どもの世界を生きることで保育園にいてもファンタジー映画と似たような体験をすることができるのです。

遊びで大切なことは夢中になることです。夢中で行うということは楽しいということ。楽しいから行っているので興味関心、持続力、集中力、試行錯誤など子どもの成長に必要なものが全て詰まっています。夢中になって遊んでいる時に子どもはより成長するのです。夢中になるということは周りが見えなくなっている状態です。周りが見えなくなるくらい夢中になるから新しい発見があり学びが深くなるのです。エジソンなどの偉人の伝記を読めばその効果がよく分かると思います。

遊び込めているか、そこをよく観察しましょう。遊べ込めていないのであれば何が要因なのかを分析し、どうすれば子どもの目が輝く環境を作れるのかを考えて実行していきます。

発表の質ではなく子どもが成長したかで考える

中盤にあまり動きのない「停滞期」みたいに感じる瞬間が保育者にありました。しかし、停滞しているように見えても子どもたちの中の何かが変化していることが、次の回で分かりました。大人はどうしてもその瞬間で評価をしてしまいがちです。動きがないようにみえても内面の変化があるかもしれないという視点を持っておくと、次の回の保育を見る視点が変わります。

保育士も教師も保護者の方もそうですが、子どもにまず結果を求めてしまう大人が本当に多いと感じます。できた、できないの評価は全てではありません。知識・技能の習得は子どもを評価する一つの視点でしかありません。思考力・判断力・表現力を育てる視点も同じくらい大切ですし、遊びや学びに向かう力も大切な要素です。最後までやり抜く力、優しさ、道徳心などの非認知能力もしっかりと育てるのが保育であり子育てです。

保育士は誰にでもできる仕事であると言う人がたまにいますが、ここまで深く考えてここまで心を使って仕事をする職業はそう多くはありません。ありがたいことに当園では保育の質の向上を目指し日々努力をしている保育士たちが多く在籍しています。私も日々勉強中です。私たちはまだまだ未熟な保育者ではありますが毎日の努力により、子どもたちの成長と笑顔が生まれる保育園を作りたいと思っています。

次のプロジェクトへ向けて再始動!

初回なので丁寧に解説をさせていただきました。いかがだったでしょうか。次からはもう少し肩の力を抜いてお話したいと思っています。