4歳児と5歳児合同で行う遊園地作りプロジェクトです。このシリーズはスタートする時の計画と最後の回での着地の仕方がまるで違うという珍しい形になりました。まずは導入の第1回の様子をご覧ください。それでは、新シリーズ、スタートです!
♯1
導入回では、全員のイメージの共有を狙います。様々な遊園地の写真やパンフレットなどを用意しておき、自由に眺めてもらいます。
なぜ遊園地をテーマにするかというと、以前に5歳児クラスに「何をやりたいのか」を聞いたところ「遊園地」が出てきていたからです。保育内容は、子どもの興味からスタートするのが基本です。良い保育計画を立てられるかは、子どもたちの興味関心を理解できるスキルが必要になります。
プロジェクト型の保育ではない通常の保育の中でも子どもたちがやりたいと言ったことを行なっています。例えば今年度であれば「スーパーマリオ」は秋の企画で、「流しそうめん」は夏の企画で行なっています。
自然と集まってきて、何人かで話をしていますね。個人にならずに子ども同士の関わりが活発なのが、この園の子どもたちの特徴の一つです。
写真や画像を用意しないで遊園地を作ることになった場合、遊園地に行った事がない子はイメージがわかないし、行ったことのある遊園地ごとに雰囲気やアトラクションが全然違うから、同じイメージを共有しにくい。だから写真や画像を共有することで、過去の体験ではなく、今の体験を子ども同士で共有していくことをねらいとしています。
スタートの環境設定としてはこういう感じです。遊園地のイメージをみんなで共有したら、そのイメージがあるうちに、園にあるもので遊園地に見立てて遊んでみる。その上で後日行う第二回からチームごとに分かれて遊園地を本格的に作っていくという計画を保育士は立てています。
こちらはメリーゴーランドですね。ゆらゆら揺れるロッキングの木馬を使っています。座るところに半円の緑のブロックを置いていますが、少しでも実際のメリーゴーランドの馬のイメージに近づけようとしていますね。これを置くことでグッとメリーゴーランドっぽくなります。
あるものを組み合わせて工夫して遊ぶ。試行錯誤する力がついていく。これが問題解決する力の基本となります。
ダンボールの取り合いの喧嘩から、引っ張り合いに。そのうち引っ張り合ってぐるぐる回る遊びへ展開。喧嘩していることも忘れて楽しんでいます。
そこからコーヒーカップを作りました。コーヒーカップ型のぐるぐる回るやつ、遊園地にありますよね。大人が乗ると結構酔ってしまう、あのアトラクションです。
ダンボールの中に入って、外から他の人に回してもらう。さっき取り合っていたぐるぐる回す遊びから着想を得て、遊園地作りというイメージと融合して遊びが生まれています。
さらに遊びが進化して、ダンボールを揺らして落ちるスリルを味わう遊びへ。危険なので保育士が支えに行ってます。危険を察知する能力が保育士になければ、こういう自由遊びは成立しません。
危険だと気付いた子が床にクッションがわりにプラポイントを敷いています。これが体験から学んだ危険予測に基づいた問題解決能力の発揮ですね。さすが年長、5歳児です。
安全に遊ぶことができるように工夫できるのも、子どもに身につけさせたい能力の一つですね。
奥の鏡の前ではビルディングブロックを大量に使って、家を作っています。最後に丸を飾って「時計」と言っていました。おそらくディズニーランドの「イッツ ア スモールワールド」だと思います。カラフルなところもそれに近い。
4月の345歳児合同プロジェクトでは1人でレゴブロックで遊んでいた子が、秋になったら最初から2人で大きいブロックで一緒に遊んでいる。こういうシンプルな成長は見ていて本当に嬉しい気持ちになります。
こちらはジェットコースター。滑り台を使って作っています。高い所から滑り落ちるという遊びですが、案外、遊園地の本質はここにあるのかも知れませんね。上から下へ。日常で味わうことのできないスリルを体験する場所が、遊園地なのかもしれません。
こちらはお化け屋敷。箱の中から顔を出して担任を驚かせています。わざわざ遠くにいた担任の保育士を別の子が呼びに行っています。
「誰に見せたいのか」というところに、子どもたちと保育士の関係が表れています。誰でも良いわけじゃないんです。
様々なアトラクションが生まれましたが、やはりコーヒーカップが一番人気です。大声をあげて安全に落ちるのを楽しむという動きがある遊びなので、部屋中に声が響いて全体に影響を与える。5歳児がやっているということもあり、4歳児たちからの憧れの視線も集めている。
僕も入れてと5歳児の左の子が話しかけますが、順番待ちが多いのと、盛り上がって声が届かないために、なかなか自分が入ることができません。そのうち、ふてくされて端っこの方へ行ってしまいました。
このように、集団側は仲間はずれにする気がなくても「仲間に入れてもらえなかった」と入れなかった側の子どもが受け取る場合が多々あります。子どもは注意の範囲も狭く、情報の統合が悪いので、周囲の状況に気が付かないことが多いからです。学年が下になればもっとこういうことが増えます。
順番を待っていれば、そのうち乗ることはできる。だけど、その前に諦めて被害的に感じてその場から離れてしまっている。こういうことは保育園ではよく起こる。順番待ちで我慢する力や先を予測するスキルが足りないと集団にうまく入れない。そうすると「僕はいつも1人で遊んでいる」とか「仲間に入れてもらえない」という言語表現をすることがあり、それを聞いた大人はドキッとする。大人は小学生とか中学生のいじめのような仲間はずれを自然と想像してしまいますが、幼児期の仲間はずれにはそういう性質は非常に薄いのです。
ここで集団側を叱るのも違うし、外れた子に説明しても理解できないだろうし、なかなか対応が難しい場面です。
では、どうすればいいか。それはこの後、この子が私たちに教えてくれます。
ひとしきり端っこで体育座りでいじけた後に、何かを思いつき、部屋中を回って黄色い丸を持ってきました。
「はい、お金です」
「ありがとうございます。こちらでお待ちください」
見事に仲間に入ることができました。新しい「お金」という概念を遊びの中に持ち込むことによって。
コーヒーカップに入ることができました。嬉しそうですね。これで遊園地遊びの中にお金やチケットという概念が子どもたちの中に共有されたのです。
自分のアイデア一つで世の中のルールを変えてしまうという、すごい解決方法。物々交換の社会から貨幣社会へと人類が進化したのと同じです。
保育士が介入しないことで、自分で問題解決をすることができました。そして、お金の概念を受け入れる仲間たちの柔軟性も成功した要因の一つですね。
自分で解決した時だけ、人は自分に自信が持てる。それを私たちは狙っているわけですが、いつもできるわけではないので、保育士が介入すべきかの判断はいつも迷います。
私たちがあの子を信じて待つことにより、自分で解決できた。仲間もそれを受け入れた。この瞬間が私はとても好きです。
コーヒーカップの隣では、4歳児の女子を中心に、高いところにみんなで座るという遊びが繰り返し行われていました。コーヒーカップ遊びのようにギリギリ落ちるか落ちないかを楽しみたいわけですが、積極的に身体を動かさない遊び方です。4歳児は以前もダンボールの中から出ない遊び方が多かった。動かない4歳児女子たち。ここからどう変わっていくのか。
4人乗れないことで落ちて泣いたりいじけたり。こちらもさっきのコーヒーカップと同じです。仲間外れという気持ちはない。ただ4人で乗るには不安定なスペースしかないだけ。でも仲間に入れてもらえないという気持ちになる子も出てくるでしょう。
そこに5歳児女子が登場。足場を作り、座るスペースを広げ、乗るのを手助けする。全員を座らせるという動きを見せます。大人が解決しないのに、子どもたちが解決していく。こちらも良い感じです。
ちなみに何が行われているかというと「同じことを一緒にする」という気持ちの共有を体験する遊びになっています。心を満たしているわけですね。遊ぶというと何かをするというイメージを大人は持ちますが、「何をするか」が大事なのではなく「誰とするか」が大事だとこの子達は感じているんです。そういう時期なんです。発達段階的に。今は「人」を意識している。
ジェットコースターが進化し、シートベルトがつきました。ジェットコースター遊びをしている子はさっきと変わっていますね。遊ぶ人が入れ替わり立ち替わりですが、人が変わってもジェットコースター遊び自体のレベルはなぜか少しずつ上がっていくのが面白いところです。
その横で展開していたメリーゴーランド。ジェットコースターのシートベルトを見て、自分たちもシートベルトを使用しています。
良いアイデアは近いところから伝染していく。
「休憩入りまーす」と行って黄緑のマットの中に入るメリーゴーランドのスタッフになりきる子どもたち。他のところは作って遊ぶだけでしたが、ここは遊園地のスタッフを再現して遊んでいます。作り出す遊びに加えて、演じるというごっこ遊びが混ざっているんですね。
こんな感じで、遊園地っぽい遊びが各所に作られています。導入の遊びとしては大成功じゃないでしょうか。それぞれが工夫して遊んでいましたね。遊園地というテーマだけ与えて、遊び方は自由にさせる。これも遊園地の絵や写真を最初にじっくり眺める時間があったからできたことです。
課題として上げるなら、それぞれのアトラクションが並行的に展開されていること。コーヒーカップとジェットコースターとメリーゴーランドとお化け屋敷、それぞれが独立して遊んでいて、そこに直接的なつながりが出ていません。
それが第二回以降にどうなっていくのか。変化を見ていってもらいたいと思います。毎回そうですが、分析してみると大人側が色々考えさせられる内容になっています。子どもは最高の教師とはよく言ったものです。