イメージの共有に時間を費やした3回の導入回を終え、いよいよクリスマスツリー制作に入っていきます。やってるうちに楽しくなってきたのか、飾りやプレゼントを個人で作るのではなく、みんなでツリーを作ることに子どもたちもモチベーションも移動してきました。このまま5歳児のクリスマス会はツリー作りで行くことにしましょう。
♯4
前回自分たちで描いた絵をおさらいし、クリスマスツリー作りに入っていきます。まだ全員でまとまって動けるレベルではないので、チームを3つに分けていきます。
はっぱチーム、みきチーム、レンガチームです。自分がやりたいチームで進めていきます。やりたいものをやるのが一番ですから。意欲が大切です。
それぞれが必要だなと思う材料を持ってきて各自が勝手に作り始めました。そうです、第一回の飾り作りと同じレベルに戻っています。そう簡単に成長してなんでもうまく行くわけじゃないですよね。
はっぱチーム。女の子も提案をするのですが、男の子の方が自分の意見を押し通して提案を却下。結局、言われた通りに動く女の子。これはちょっと厳しいかもしれない。険悪になるかも?と思って見ていたら、
「これはどうするの?」
「なるほど、すごーい」
普通に質問して、普通に褒める。男の子の方もだんだん意見を聞くようになっていきます。純粋さで相手を変えていくとは、なかなか見れるものではありません。すごいですね。はっぱチームはうまくいくかもしれない。
レンガチーム。左手前の子が率先して動き、ダンボールにレンガを描いている。右の子は基本的に相手に合わせて動くタイプなので、様子を見て手伝っていくつもりのようです。奥の子は何をすべきかわかっていない。自由工作だと思って好き勝手1人で作っている。
全員がバラバラですが、一緒にやろうという動きを誰もしないし、注意するとかもない。それぞれが自由にやっているだけで、そこに関わりはない。「対話がない」状態です。場所は共有していても心は共有していないわけです。
協同的な遊びとは、主体的・対話的で深い学び。今日のレンガチームは主体的ではありますが、対話がない。自由保育をしている園でありがちな状態です。もう少し様子を見ていきましょう。
何を作ったのか定期的に全体に発表する場を設けています。
何を作ったのか聞かれ、何も答えられなくなっていますね。そうです。自分が違うことをしていたことに、ここで初めて気がついたんです。誰に言われるわけでもなく、注意されるでもなく、教えてもらうわけでもなく、自分で気付く。それが一番良いんです。これが「深い学び」です。深く学んだことはしっかりと自分の中に体験として落とし込まれます。
3チームが作ったものが具体的にどうやって合体するかを見せようと担任が実践したところ、みきに貼ってあった可愛らしいキャラクター、なんか小さくて可愛い、あれですね。あれに全員が注目。「可愛い!」と興味が移ってしまいました。嫌な予感。
みんな廃材コーナーに突撃して可愛いキャラクターを「夢中になって」探します。はい、「夢中になって」は鼓笛の時に説明したとおり、子どもが一番輝く瞬間ですね。エネルギーもすごいから止まらない。集団の意識がそっちに流れていく。
キャラクターを探して切り取って貼る。これに夢中になってしまいました。クリスマスツリーを作ることは忘れられてしまいます。
全チーム、キャラクターを貼っていく遊びが進んでいきます。はっぱやみきにも廃材や切ったものを適当に貼っていきます。まずいですね。
唯一これは違うんじゃないかという顔をしている中央の立っている子も、みんなに声をかけて止めるほどの意思というか勇気が育ってません。立ち尽くしています。
ここで初回のクリスマスツリー作りが終了。なかなか難しい。
♯5
本来は自分たちで気付くの待ちたいところですが、本番までの時間がないため、少しだけ担任から話をします。クリスマスツリーのイメージの共有をもう一度だけ行いました。はっきりキャラクターは貼りませんとか言ってしまえば楽ですが、そういう指導はせず、あくまでもクリスマスツリー作りだったよねという感じです(伝わりますか?)
確かにそうだったなーという感じで、また普通にキャラクターを探さずに土台を作り始めました。「3歳児クラスさんが飾り作るんだもんね。私たちはツリーを作るんだよ」と言う子がいて、ああそうかという顔をした子もいました。ほとんどの子は理解したようです。
みきチーム、3人協力して作っていますが、1人参加できていない子がいます。前回のキャラクターを切って貼るという遊びが楽しかったのか、それをやろうとしています。
「一緒にやろうよ」と声をかける右の子に対して、「一緒にやってるじゃん」という顔をする奥の子。そうなんですよね。「一緒にやる」って難しいんですよ。それぞれが楽しいことしていて大きな枠組みとしては工作しているんだから一緒にやってるじゃんと言われたら、まぁそうなんですよね。
「自分がやりたいことを押し殺してやりたくないことを一緒にやることが正解なのか?」というとんでもない難しい問いかけをぶつけられた気がしました。
今回のプロジェクトのブログでは、これに対する答えを示したいという想いがあります。この子に注目して最後まで見ていただけると理解が深まると思います。奥の子が最後にどうなっているのか。ワクワクしながらお読みください。
理解度は人によって違います。ほとんどの子が前回の間違いに気付き、やるべきことを理解し、意欲も持てた。しかし、そうではない子もいる。みんな一緒が絶対に良いわけじゃない。多様性の理解が叫ばれる現代で、「やりたいことが違う」時にどうやって共に生きていくのか。
この子達は無理に誘わない。しかし、誘うことは定期的に行う。なぜなら一緒に遊びたいから。先生に言われたからとか、決められているからとかじゃない。この子が好きだから一緒に遊びたいだけ。でも、相手の「今は」一緒にやらないという気持ちを尊重して一歩引く。だけど近くにいることでいつでも一緒にやれるよ、という受け入れの意思は示している。
6歳児がそういう選択をしたんです。この複雑な関係性、文章にすると難しいですね。ニュアンスで感じてください。簡単に言えば、いい感じ、ということです。
はっぱチーム。右の子は色画用紙ではペラペラだったから自立しないことに気付き、裏面に段ボールを貼ることを思いつきました。左の子はギザギザが足りないことに気付き、画用紙を切って貼ることを思いつきました。それぞれがそれぞれに説明し、「わかった。頼むね」と了解し合って役割分担し始めた。
気付く力も行動力のある2人だからこそ、できたことです。「一つにならなくて良い。認め合えばそれで良い。」これも共に生きていくための、一つの正解のようにも思えます。
レンガチーム。右の2人は「一緒に塗ってるー!」と笑いながら塗っています。はっぱチームやみきチームと違い、「一緒に同じことをすること」に価値を見出している。
左の子は様々な素材のものを使ってレンガを表現しようとしています。本来であれば、全面を同じ素材や表現でレンガを作るのが望ましいと大人は考えると思います。統一感がないと変だよね、とか。
だけど、それぞれのアイデアや気持ちを踏み躙ることなく、お互いに尊重し合いながらレンガを作るという共通の目的はぶれていない。せっかくのアイデア使おうよ!そういう前向きな気持ちを感じる。「表現方法は違っても同じ方向を向いていれば良いじゃないか。」そんなメッセージなんじゃないかと思いました。
3チームとも奥が深いことをしていますね。
はっぱチームは伸ばして後ろにダンボールを貼って補強する。
みきチームは太くして丈夫にする。
レンガチームは外面を完成させる。
それぞれの狙いはある程度達成できました。しかし、合わせてみると、長すぎる葉っぱをみきが支えられず、せっかく作ったみきがレンガの中に隠れてしまうということにみんな気付きました。
3チームがバラバラに考えて改善していってもダメだ。お互いのことを考えて作らなければ。そういう思いが少し芽生えます。試行錯誤というか知恵というか、そういう工夫するスキルが育っていかないと改善はできない。
みきチーム。みきを伸ばす必要があるとわかりましたが、3人ではうまくできません。下のみきを支える、接続部分を支える、貼る、3人ではこの3つしかできない。上のみきを支える人が欲しい。
そこにはっぱチームの子が自然に「手伝うよ」と手を差し伸べました。これでみきを伸ばすことができます。ついにチームを超えた関わりが生まれました。自分の仕事だけしていれば良いのではなく、全体のために仲間のために自分のできることをしていこうという気持ちが育っているのです。優しさが育っているとも言える。視野も広がっている。
ここで時間切れです。今回、途中で分割するか迷ったくらい長かったですね。
深い話になったんじゃないでしょうか。大人としても考えさせられるテーマが含まれていますよね。
次回はさらに成長を感じられるお話になります。長くなりますがお付き合いいただけると嬉しいです。