4歳児おうち作りプロジェクトの「ストーリー分析」による解説、いよいよ最終回です。解説を始める前にこれまでのあらすじを振り返っておきましょう。
<これまでのあらすじ>
あるところに動物(ネコ)と人間が仲良く暮らす家がありました。農業が始まりパン屋と共に生きる人々。そのうち産業革命が起こって動物はいなくなり、人々は汽車を作るほどに科学技術が発展しました(♯1)
人間たちは学校や公園を作り、パソコンを作るまでに発展していました。しかし、資源の所有権争い発端に戦争が起こり、世界は崩壊。店が壊れ落胆するパン屋の前に女神が現れ、祝福を受けるのでした(♯2)
復興を誓い家を作る人々の前に謎のロボットが現れ、人類に戦いを挑みます。家を守りながら戦う人々。全人類が力を合わせ、ついにロボットに勝利します。平和になった世界で人々は外の世界に目を向け、新天地へ旅立っていくのでした(♯3)
新しい土地へ移住する人々。そこは動物(ネコ)が人間を支配する世界でした。神様の力を借り、ネコから教わり成長する人間たち。水害の危機を種族を超えて対処したことで人間もネコもロボットも仲良くなり、差別のない世界になったのでした(♯4)
あらためてまとめてみるとすごい展開ですね。4歳児による壮大な大河ドラマは今日、最終回を迎えます。
人類の行き着く未来とは?
それではスタートです!
ネコと人間が共同でおうちを作り始めました。空間の使い方は遊びの分析に大切な要素です。保育室の一番はじっこに作られています。そして今までで一番大きいおうちです。
これにより、部屋全体を使った遊びが展開されそうだということが予測されます。また、ここでブロックを大量に使っているため、もう一つのプラポイントという遊具を中心に遊びが動いていくことも予想できます。遊びを見ているときに、常に先を予測しながら見ておき、それが正しかったかを毎回確認していくと先読みの精度が上がっていきます。
「見てー、ユニコーン!」
ユニコーンにまたがる水筒屋さん(元建築家)。
ユニコーンってご存知ですか?額の中央に一本の角が生えた馬に似た伝説の生き物です。角には解毒作用があると言われています。
そのユニコーンが呪術師の結界で封印された園長に向かってくるのです。ネコが支配している世界は、伝説の生き物も住んでいるんですかね。もはや何でもありですね。
ユニコーンに連れてこられた人物が、次々と結界を破壊していきます。
「園長を助けるぞ!」
「おりゃあああ」!
全ての結界を破壊してくれました。これで私も自由に写真を取りに動けます。ありがたい!
結界がなくなり、各自が自由に行き来ができるようになりました。
結界として使っていたプラポイントをみんなが自由に使えるようになり、遊びの幅が広がっていきます。
ここから一気に展開が加速していきます!
毎度お馴染み、ロボットとの追いかけっこ。
あれ?さっき結界を壊してくれた子の肩に緑の丸いものがついていますね。
これって・・・みなさん、覚えてますか?
そうです。「女神」の羽根(翼)です!
彼は建築家の弟子だと思っていましたが、もしや天界の住民?「天使」?
今までの彼の行動を思い出してみましょう。建築家の建築を手伝い人類の発展に貢献し(#1)、「みんなやめるんだ!」と戦争を止めようとし(#2)、「ロボットが来たぞ!」と人類の協力を促し(#3)、「紙を持ってくるんだ!」と水害を食い止め(#4)、ユニコーンに乗って園長の結界を壊しにくる(#5)。
ここまで人類が来れたのは、彼が影で導いていたから。そう思わざるを得ません。いつだって彼がみんなの中心にいました。影の主役が最終回で大活躍です。
天使がいるのなら、もしかして・・・と探してみるとやっぱりいました。
「女神」再登場です!
人類のために自ら捨てた羽根(翼)が復活しています。この画像では天使の輪がありませんが、後でつけてました。
前回は担任や園長が神様の役割でしたが、今回は神様的な役割も子ども自身が担うようです。ネコや塔は第一回の再現、学校や女神は第二回の再現です。
謎の乗り物に乗っている天使に戦いを挑む人間たち。
それを見てスーパーカーに乗ったロボットが右手に武器を装備して加勢します。人類の敵だったロボットと人類が最強の敵と戦うために共闘しています。漫画とか映画でよくあるライバル同士が手を組むという展開ですね。テンションが上がります!
人類最後の敵は、天使や女神といった神々だったのです!
この戦いについては第三回の再現です。ということはそろそろ話が終わるのではないかと予想できます。
「できた!巨大ロボットだぞ!」
自らをさらに改造するロボット。
天使の乗り物を奪う建築家たち(人類)。
武器や乗り物を奪われ弱体化する天使たち。
一進一退の攻防が続き、決着がつかないまま時間だけが過ぎていきます。
戦いの果てに、ロボットは天使と仲良くなり、一緒におうちを作り始めます。よくよく考えれば今まで人類のために行動していた2人が仲良くならないはずがありません。この2人は本当に優しい子たちですからね。
第三回でロボットと人類が戦った時はお互いに仲良くなるところまではいきませんでした。その再現である今回は、決着の仕方として仲良くなるところまで進んで終わっています。遊びが一巡して深まって成長する。ここでもそれが見られているということです。
久しぶりの登場、パン屋です。ネコと人間の作ったおうちに侵入したロボットを呪術師が結界で捕獲し、パン屋が銃口を突きつけています。
もうパンをこねるだけのパン屋じゃないぜ、俺は大切な人を守れる男になったんだ!
そう言ってるような気がしないでもないです。
パン屋とロボットの熾烈な争いが続きます。
争いは全て終わったはずなのに、一体なぜ2人が争わなければいけないのか?
実は・・・
パン屋はロボットから女の子を守るために戦っていることがここで判明。
前回、愛を知ったロボットは人間たちと仲良くしたい気持ちが強くなっています。しかし不器用なロボットの行動(幽霊だぞー!と脅かしている)は、女の子を守りたいパン屋からすれば、戦うべき相手なのです。
特に「女神」を守ろうという気持ちが強く、逃げる女神、追いかけるロボット、間に入るパン屋という構図が度々起こります。パン屋は過去に女神に恩がありますからね。恩はきっちり返す男、それがパン屋です。
戦いの後、仲良く水筒屋でお茶を飲む2人。
効いたぜ、お前のパンチ
お前もなかなかやるじゃないか
そんな会話をしているような気がします(妄想)。男の友情ってやつですね。
隣には女神の姿が。分け隔てなく人々に愛を与える女神。流石です。
第一回ではひたすら1人でパンを焼くという一人遊びをしていたパン屋ですが、最終回では戦いの果てに仲良くなるという密度の濃いコミュニケーションができるまでに成長しました。
神々との戦いの後、建築家は「お姫様」を乗せて旅に出ます。何かを作ることを自分の人生としていた建築家も、やはり大切な人を見つけていたのです。
お姫様ですが、今日はなぜかみんなに「姫!」と言われていました。今まではネコだったんですけどね。ネコに姿を変えられていたお姫様だったんでしょうか。
この子は「建築家の弟子」として人類を支え、ロボットから守る壁を建築してきました。
遊びを中断して入口まで迎えに行く子どもたち。とても仲が良いクラスです。
最後はみんなでぐるぐる回るという謎の儀式に。
お祭りみたいなニュアンスでしょうか。楽しくてしょうがないって感じですね。
「芝居や小説などの最後の場面」のことを「大円団」言いますが、このストーリーの最後の場面が「集団で大きな円になる」つまり「大円団」になっています。
不思議ですよね。辞書的な意味と実際の最後の場面が完全にリンクしているんですから。遊びの世界ではこういう不思議なことが起こったりするんです。
以上、全五回にも及ぶ「人類の歴史」がテーマの壮大なドラマ。いかがだったでしょうか。
最後に少し解説してみましょう。
一つ目。4歳児というのがポイントです。4歳児はリアルとファンタジーの間で生きています。例えば「トトロが窓のところにいた!」と1人が言えば「僕も見た」「私も!」と賛同する子が続々出てきます。現実との区別が50%程度だという研究もあります。つまり、4歳児の遊びだからこそ、今回のようなリアルに近いファンタジーの世界観が作られたのです。
3歳児であればもっと訳がわからないストーリーになります(3歳児の家族おままごと参照)。5歳児になるとリアルおままごとになりやすいです(子どもらしい自由な発想が減り、つまらなくなる)。4歳児という絶妙な年齢での遊びだから、このようなお話になったのだと言えます。
二つ目。前半と後半の比較。前半は遊びに入り込んでいましたが、第四回からは園長や保育士に関わるなど遊びに入り込めずに若干の飽きが出ています。後半(第4〜5回)は前半(第1〜3回)の再現が多く、内容が深まっているとはいえ、目新しいことは出てきませんでした。失速したように感じた人もいると思いますが、それは遊びに入り込めていないからです。全員が遊びのゾーンに入らなければ奇跡や魔法のような展開は起きません。
3つ目。クラス全体の変化について。このプロジェクトを始めてから、子どもたちがとても仲良くなりました。失速の原因の一つが実はここにあります。実は、ロボットを追いかける遊びはプロジェクトの時間以外も頻繁に起こっています。つまり、ここでご紹介している時間以外もこの人類の歴史再現ドラマのような遊びは日常で続いていたのです!
こんな感じですね。その結果、飽きが来るのが早くなりました。ブログ用の写真を撮っていない時、園長が見ていない合同保育中などに遊びが深まったりしていたようです。そうすると、プロジェクトの時間では遊びがこれ以上深まりにくくなります。
これは悪いことではありません。むしろ、日常の遊びが深まり、子どもの成長を促進する環境を作れたということは大成功であると言えます。私たち大人の前で起こることが全てではありません。子どもは見えないところでも成長しているのです。
解説はいくらでもできてしまうのでこれくらいにしておきますが、この「ストーリー分析」で皆さんに伝えたかったのは「大人が保育(子育て)を楽しむ視点で遊びを見ることの大切さ」です。
主体的・対話的で深い学びの保育や教育とは、成長しやすい環境を設定した後はできるだけ子どもの世界で遊ばせ、学ばせるものです。つまり、保育士や教師が必要最低限の関わりをすることになります。これは「子どもと関わりたい!」という自分の気持ちを優先したい大人には良さが伝わりにくいのです。
直接関わることだけが唯一の楽しみ方じゃない。遊びの観察だけでもこんなに楽しいものなんだ、ということを皆さんに伝えたかったのです。保育士や大人が楽しんで観ていること、笑顔で見守っていること。それが子どもを伸ばす環境になっていきます。
ご家庭でも公園で遊ばせている時間とか家の中で遊びを見守っている時間が苦痛の方はいませんか?観察を楽しむのが苦手な方も多いんじゃないかなと思います。
子どもの世界はこんなにも豊かで面白いんです。「妄想力」を働かせて遊びをじっくり観察してみましょう。新しい発見が、子どもの成長が、そしてたまに奇跡や魔法のような不思議な体験に出会うことがあるかもしれません。