2歳児と3歳児の合同自由遊び。前回は3歳児の成長を十分に感じられる内容となっていましたが、第3回では2歳児の成長の様子を中心に解説していきたいと思います。優しさを感じると人はどう変化するのか。それではご覧ください。
♯3
前回の流れから、ダンボールと風船に人気が集中しています。3回目なので、慣れてきているので前回までの遊びを思い出せる子が増えているようです。
プラポイントで天使の輪っかを作っています。前回、3歳児がこれをやっていたのを見て、真似をしています。このように数日経ってから遅れて模倣するというのが、子どもの遊びではよく見られます。
つまり、前回の子どもたちの優しさが、今回にもつながっていく可能性が高いということです。
誰が説明したわけじゃないのに、この子が小さい丸を集めていることをみんなもうわかっている。第3回では、みんなが積極的に集めてこの子に渡しています。
言葉で説明はしていない。みんながそれを見ていたわけじゃない。それなのに、数日経ったのに、みんな同じように対応しています。集合的無意識という考え方がありますが、それに近い。無意識の世界の奥底では、みんな繋がっているという心理学の概念です。なぜかみんな同じイメージを持つことがある。例えば、世界各地の神話はみんな同じようなストーリーになっていますが、どこかで意識がつながっているんじゃないかという説ですね。
集めた丸をカーテン裏に隠す。これも前回の流れと同じですね。前回はここで、2歳児クラスの優しさに触れることができました。今日も一緒に遊んでいます。一度仲良くなれば関係が急に変わる。これが子どもの世界です。一回の遊びが世界を変えるんです。
2歳児が来てダンボールの中に入られる。プラポイントの丸を取りに来る。ということは、それ以外のものを使って遊べば良い。それぞれが明確にそういう分析をしているわけじゃないんですが、実際にはそういう遊びの選択になっています。
これが、知恵というものです。知識と経験から試行錯誤して新しい解決策を見つけていく。遊びたいように遊ぶのではなく、ちゃんと考えているんですね。
そして3歳児女子チーム、今までは2人組で遊ぶことが多かったのに今日はみんなで遊んでいます。ここでのポイントは、第一回と第二回で泣いていた子が赤ちゃん役になっていて、その周りに他の子たちが壁を作っていること。つまり、この子の安心できる心理的な安全基地をみんなで作ってあげているというわけです。
第一回で自分のために壁を作っていた子も、今日はお友達のために壁を作っている。自分のためではなく、人のために動いている。小さな変化がこんなところにもあるんです。
初回では1人遊びしかできなかった2人。第三回になると、手を繋いで一緒に遊ぶことが増えました。言葉も増えたし、遊び方も柔軟になっています。膨大な量になってしまうのでブログでは内容を厳選してお伝えしているので全員の成長を細かく伝えることができていませんが、本当は一人ひとりに成長が感じられる瞬間がいっぱいあるんです。
前回、みんなの優しさに触れたカーテンコーナー。今日も2歳児クラスのみんなで、いないいないばぁで遊んでいます。
いないいないばぁ遊び。赤ちゃんにとって相手が見えなくなるということは存在も無くなってしまうような認知になります。いなくなっちゃった!やっぱりいた!そう繰り返しをすることで、一度見えなくなっても相手が存在することは変わらないんだという確信ができていく。例えばお母さんが違う部屋に行って見えなくなっても「存在することは変わらないから、心配しなくて良い」という安心感に繋がっていく。これがいないいないばぁの教育的効果です。
この場所でいないいないばぁを繰り返すということは、仲間との絆を確かめ合っているのかもしれません。
この子は今まではカーテンの中に入っているだけでした。今回は、自分がカーテンの外に出て、中にいる子を脅かしています。ついに、逆の立場になって遊ぶことができるようになりました。脅かす方と脅かされる方。2つの視点を手に入れた瞬間です。
立場を変えて物事を考えることができるようになってきたというサインです。相手の気持ちを理解することができるようになったということ。大きな変革が、この子の中に起こっています。さなぎから蝶になる。それくらいの変化です。
この遊び方が出てきたということは、これから相手の気持ちを理解した動きが見られるかもしれない、ということが予測できます。
みんなが集まってくる。遊びの中心にいる。そうすれば、誰かの遊びに割って入る必要がない。だって、ここにいれば楽しいから。
笑顔が連鎖する2歳児クラスの仲間たち。その中にいれば、みんな笑顔になっていく。変わっていく。
みんなを笑顔にする。そっちの方が何倍も楽しい。
笑顔をもらうだけじゃなくて、今回は自分からみんなを笑顔にしていきます。優しさが、笑顔が、時間と場所を超えて繋がっていくんです。保育園での生活が、子どもたちにたくさんの影響を与えているのがわかります。
私たち保育士は、もっと気を引き締めないといけない。こんなに貪欲に、真っ直ぐに、子どもたちは環境に影響されているのだから。
前回から続いていますが、3歳児のこの子たちがやりたいのは「四角い箱を作る」こと。協力して一つの箱を作っていきます。
平面を組み立てると立体になるという不思議。これが立体的に物事を認知する視点や様々な方向から考えていくことができるようになる視点になる。遊びというより、図形問題の勉強です。
赤ちゃんになった子をみんなでジョイントマットで囲うように大きな長方形の箱を作っています。
そこに2歳児のあの子がやってきましたが、今回は壊すようなことはしません。前回の最後で、争わないという解決策を身につけた3歳児女子。今回もマイナスの感情を出さずに、穏やかな気持ちで接しています。
壊さないでね。
わかったよ。
言葉を交わしていないのに、そんな対話があったような気がします。
3歳児が箱を作っていたのをこの子は見ていない。いないいないばぁをしていたからです。私はこの子の動きを今回は完全に把握していましたので、間違いなくこの子は誰が作っていたかを見ていない。
たまたま見つけた立体の箱。子どもがそれに興味を持つのは当たり前です。偶然にも3歳児が別の場所に移動していて誰もいません。当然ですが、その箱を手に取ります。
悪気はない。誰が作っていたとか、誰かが遊んでいたとは思っていないんです。これは事件の予感。
先ほど手を繋いで遊んでいた2歳児の男の子2人のところへ。衣装ケースの上に何かあるという話になり、箱の上に乗って、衣装ケースの上に何があるのかを覗き込みます。
そういう使い方があったか。なるほど。でも危ない。崩れるんじゃないかと大人なら思う。でも子どもは予測していないから危険なことにも平気でチャレンジする。
崩れるんじゃないかと思って、私は急いで支えられる位置へ移動します。
もちろん体重にジョイントマットが耐えられないので箱が壊れてしまいました。すると中から、風船やプラポイント(天使の輪っか)が。作った3歳児たちが宝物として隠していたようです。
見えないものが急に出てくるわけですから、手品や魔法みたいなものです。自分の想定外から現れたものなんて、面白いに決まってる。
そこへ箱の持ち主の3歳児が帰ってきました。目が合う2人。
3歳児「・・・。」
2歳児「・・・。」
全てを理解する2人。
すぐに1人で箱を直し始めるという、まさかの展開に。
これまでのみんなとのやり取りで学んだ、2つの視点。自分の視点と相手の視点ですね。これができたから、箱を壊された子の気持ちを想像することができた。自分がやってしまったことの重大さを自覚することができた。だから、直そうとする。
自分でやってしまったことは、自分でなんとかする。
このプロジェクトを経験しなければ、この子はこういう結果には辿り着かなかったんじゃないでしょうか。
そこへ戻ってきた2歳児の仲間たち。3人で箱を直し始めます。これもすごい展開。そうです。箱を直すという目的に向かって協同的な関わりをしながら目的を達成しようとしている。
はい、プロジェクト型の遊びになっているわけですよ。2歳児が。保育士の促しなんてなくても、こういう展開になるんだということを私たちは知ることができました。
子どもを無意識に下に見ている大人って多いなと思うんです。でも、こんなことができる大人がどれだけいるんでしょう。損得なしで協力する。誰かのために躊躇なく行動する。私たちはもっと子どもを尊敬しても良いんじゃないかと思います。私は純粋に子どもたちを尊敬しています。
宝物を戻すのも忘れない。きっと、これはお姉さんたちが大切にしていたものだから。
ちゃんと元通りに直していきます。
自分でやったことの責任を取れるのが大人になるってことかなと思いますが、こういう体験を小さい時から積んでいけると、素敵な大人になるんじゃないかなと考えています。責任を取る。やってしまった失敗を自分で取り戻す。素晴らしい展開です。
衣装ケースの上にあったのは、小さなホウキとチリトリ。5歳児が掃除で使うものです。それを手に取り、2歳児たちが遊び始めます。
今までは誰かの遊んでいたものに興味を持って入って行った。しかし、今回は自分でおもちゃを見つけてきている。誰かの物を取るのではなく、自分で発見する。今までは誰かが使っているものに興味を持って模倣する遊び方でしたが、今回はそうではない。自分で遊びを創造している。大きな変化を遂げています。
成長が止まりません。
いいなぁ、私もやりたいなぁ。
そんな表情ですね。
基本的には独占しますが、たまにやりたい子に貸したりもしていました。そうやって物の貸し借りのスキルも身につけていきます。
それでもやっぱりというか、なぜか上に乗りたがる。箱に入りたがる。
それを注意する仲間が。前回、ダンボールの中からお友達のために出てきた子です。あれ以来、なんだか正義に目覚めたのか、みんなのために行動するようになりました。
指差して指摘しています。「乗ったらダメだよ!」
もう一つのホウキとチリトリが欲しくなり他の子を追いかけ出したのを、身を挺して止めています。
力づくじゃないってのが良いですね。あくまでも相手に触らない。実力で止めずに目の前に立ち塞がるだけ。あくまでも行動を止めるのはその子の意思に委ねている。これはすごいことですよ。
大人なら、安易に子どもを触って止めてしまう。まず間違いなく。保育士だってそうしちゃう。だけど、それは子どもの主体性を、子どもの意思を認めない対応になる。大人はルールと禁止を押し付ける。自分で行動をコントロールできるようにならないと教育にならないから、自分で自分の身体を止めるという経験をたくさん積めるようにしていくことが大切です。
それが2歳児たちの中でできているんだから驚きです。
誰に何をするわけではない時は、温かく見守ります。というか、むしろ椅子が崩れ落ちないように支えているのがわかるでしょうか?
上に乗りたい子だから椅子の上に乗るかも。そんな予測がちょっとあるのかも知れません。私もそれを予測していたので、支えられる位置まで接近しているから、この写真が撮れているわけです。
必要以上に止めたりしていないのがすごい。ちゃんと相手が何をしようとしているのか、その子の意思や興味を理解しながら自分の対応を変えている。止めるべき時だけ止める。あとは見守る。
保育士はみんなこれを見て学んでほしいですね。これがあるべき保育の姿です。
他の子も同じように、止めたり、説得したりしています。前回は1人で動いていましたが、もう仲間がそれを許さない。みんなで仲良く遊ぶために関わり合っている。2歳児クラスが一つになっています。
加害者になりそうだから止めているわけじゃないんですよ。ここも大事なポイントです。2歳児のみんなには加害者も被害者もない。ただみんな仲良く遊びたいだけ。誰が悪いとかじゃない。みんなで楽しい気持ちで遊ぼうよって、そんな感じです。それが良い。とても良い。
お片付けはみんなで一緒に。仲良く運ぶことができています。写真に写っているのは2歳児の担任。いつもそばにいてくれる保育士がいるから、安心していられる。そういう効果ももちろんあります。子どもたちだけの力でこうはならない。毎日の保育士の努力が、子どもたちの優しさや愛を育んでいるんです。
2歳児クラスだけじゃなく、3歳児も一緒になって運んでいます。クラスを超えて、心が繋がってきている。協力することが楽しいという体験になっています。
さて、第3回が終わりました。どうだったでしょうか。第2回と第3回はセットですね。明らかに続きになっていました。面白いですね。
1人でコントロールできない場合、その解決方法は環境で調整することです。仲間同士で指摘し合い、協力し合う。時には止めたりする。それが集団というものです。全部を1人でやることはない。1人に責任を押し付けることはない。全員で育っていく。そういう保育園にしたいと私は思っています。集団で解決できるようになれば、そのうち個人でもできるようになっていくものだからです。
個人の成長もありながら、集団としても成長を感じた回となりました。ほとんど最終回みたいな雰囲気ですが、次回でラストになります。
優しさに包まれた2歳児3歳児合同プロジェクト。完結編へ続きます。