前回は345歳児合同での遊びを紹介しました。今回のシリーズはその続きになります。前回は異年齢のクラスでの関わりだったので単独クラスでの遊びがどうなるのかを見てみたい。前回の遊びの中から、「3歳児クラスの子どもたちの遊びが広がるものは何か」を担任と話し合い、新聞紙を使った自由遊びにすることにしました。

 

設定は自由遊びですが、遊びのイメージを共有して一緒に遊んでいく体験を積むことをねらいとしています。保育士が指示しないのに「勝手に全員で遊ぶ」ことが起こると良いなぁという感じです。

 

それではいってみましょう!

 

♯1

必要なのは広いお部屋と新聞紙だけ

環境設定は基本的に新聞紙だけです。前回の合同遊びで、新聞紙を投げたり箱に入れたり床に敷いたりというやりとりが3歳児によく見られたので、単独クラスでそれを行ったらどうなるのだろうという考え方ですね。

 

 

なぜか子どもは寝る遊びが好き

新聞紙を敷いて寝る遊び。新聞紙はなんでも良いわけじゃなく、子どもたちは選んでいます。これはディズニーチャンネルの広告が全面になっている新聞紙のようです。

 

新聞紙という素材そのものではなく、書かれている字や写真に興味を持っています。3歳児は興味関心が広がる時期ですから、こういった遊び方になりやすい。

 

 

新聞紙?あたしには関係ないわ

おもちゃが新聞紙しかないわけで、色々やってみた結果、「走る」のが面白いということに落ち着いたようです。

 

新聞紙の上を走って滑って転んだらどうしよう、とこちらはハラハラするんですが、3歳児クラスにもなれば「新聞紙を避けて走る」という芸当ができちゃいます。もちろん他の時間で運動能力を鍛えるような遊びをたくさんしているからできるわけです。

 

 

手を繋ぎましょう

そのうち、2人で手を繋いで走るという遊びに変わりました。男の子たちが遊びを引っ張っていきます。バラバラに遊ぶより誰かと遊ぶ方が楽しいというのがクラスの雰囲気として明確になってきました。

 

「狼が来たぞー!」

 

狼から逃げるという設定のようです。誰が決めたというわけではありませんが、遊びのイメージを共有しつつあります。いきなり、こちらが望んだ方向へ遊びが進んでいきました。良い感じです。

 

2人より3人

そして3人で手を繋ぐ遊びへ。女の子も入ってみんなで走ります。前回までの合同遊びが効いていますね。遊び方がクリエイティブで積極的になっている。人と繋がろうとする。人への興味が増しているのがわかります。

 

まずは人を好きになること。そうしなければ誰かと話したいとか遊びたいという気持ちが出てこない。人を好きにならなければコミュニケーションも上手にならない。

 

012歳児クラスで「人を好きになる」ような関わりをしてきたから3歳児以降の幼児クラスでこういう遊びが展開されるんですね。今までの積み重ねが、今日の子どもを作っています。

 

はぐしちゃおう

遊びが展開し、「手をつなぐ」から「抱きしめる(ハグする)」遊びへ。仲良しクラスですね。それと同時に走る遊びは一旦終わり、寝るなど静かな遊びに再び戻りました。

 

「動」から「静」へ。遊びは繰り返しながら変化していきます。

 

守りたい、その命

ちょっとした隙間を発見し、隠れる男の子。怯えた表情ですね。それを守る女の子。狼から身を守るために端っこに隠れています。走ってはいませんが、遊びの設定が続いています。

 

動きや場所が変わったのに狼から逃げるという「設定」の遊びは継続中です。こういうことって子どもの世界には結構あるんですが、大人はほとんど気付かない。

 

 

狼なんて怖くない!

狼が怖いので3人が身を寄せ合っています。どうすれば怖くないか話し合いが行われています。狼が怖いから身を守るというイメージを言葉で共有しようとしている。これは言語能力が高まってきた3歳児クラスだからこそできる遊び方です。

 

 

発見!

一方、こちらは足裏が黒くなっていることに気がつき、大興奮。その不思議を共有しています。左の子の表情に注目してください。良い顔してますよね。

 

「足が黒い」

「足黒い」

「足が黒いね」

「なんでだろう」

 

不思議を発見した時に、その気持ちを誰かと共有したくなる。それは人を好きだから。

 

なぜだろう?という「知りたい」という気持ちが自然に沸き起こり、自分で「理由を考えたくなる」。これが「勉強したい」という意欲の種になります。幼児期にはこれを育てることが大切です。

 

このエピソード一つとっても、今日の遊びが大成功だったことがわかります。

 

 

黒足の3歳児

どうしても足の裏が黒いという不思議を共有したくて、いろんなところへ行っていろんな人に教えます。その結果、みんなで自分の足の裏が黒いということを見せ合う遊びに変化しました。

 

保育士が子どもに関わりすぎる園ではこういう展開になりません。子ども同士で気持ちを共有する体験の前に、大人の保育士が話を聞いて気持ちを受け止めてしまうからです。

 

新聞紙を踏んだからインクが足裏についたんだという因果関係には誰も気がつきません。それもまた良い。いつかわかる。保育士から「なぜ足の裏が黒くなったか」は教えません。これも教えてしまう大人が本当に多い。残念なことです。大人からしたらインクがついたから黒いんだという「当たり前」なことだけど、子どもからしたら魔法のような「不思議なこと」です。簡単に説明してしまうと、子どものキラキラした目を曇らせることになる。

 

 

新聞バリケード

狼から身を守るためにバリケードを作ることにした3人。他の子たちが協力して見事なバリケートを作ってくれました。隠れる遊びと隠す遊び。守られる遊びと守る遊び。自然と協力して遊んでいますね。

 

そこへ「足裏が黒い」という不思議を教えに先程の男の子たちがやってきました。狼から守っていることを知らないので、バリケードを勝手に外していく。バリケードの中の子に足の裏が黒いことを教えたいんです。

 

それぞれの場所で展開していた2つの遊びが交わります!

 

 

愛、それは献身

バリケードが破られる理由を中にいる子たちは知りません。外の子は足の裏が黒いという不思議を共有したいがためにバリケードを外してますが、それは中の子たちにはわからない。ごっこ遊びの最中ですから「狼が家の中に入ってきたからバリケードが破られたんだという遊び」になる。

 

相手を抱きしめて自分の体を盾にして狼から守っています。迫真の表情です。狼役の人がいるわけじゃない。だけど、狼が襲ってくるというイメージは共有できている。子どもの世界の中では狼は確かに存在している。大人には見えない。トトロやネコバスは大人になると見えなくなるんです。

 

大丈夫?

その結果、守っていた子が倒れてしまいました(という遊びです)。

「大丈夫?!」

守ってもらった子が、懸命に呼びかけます。

 

後ろではバリケードの中で、怯えていた男の子が守られている(写真では見えません。バリケードの中にいます)

 

つまり、倒れている子は狼から2人の命を守ったのです!!

 

 

残骸の使い道

破られたバリケードの残骸。換気のために開けていた窓に向かって投げると本棚の上に新聞紙が乗ります。新聞紙を投げる遊びが始まりました。

 

 

みんなでる作る壁

みんなでバリケードの残骸を使って本棚の上に壁を作ります。つまり、小さなバリケードではなく、この部屋全体を守るための工夫を集団で行っているのです。窓からの侵入者(狼)を防ぐための工夫。これをクラス全員で協力して行っている。

 

得体の知れない恐怖(狼)とみんなで戦う。みんなで乗り越える。

 

そんな遊びで、今日はおしまいです。

 

 

はい。新シリーズ第一回でいきなり目的達成という、ありえないほど順調な回でした。大人が一切介入しなくてもイメージを共有してみんなで協力して遊ぶ。春の3歳児だって、ここまでできるんです。

 

さぁ、第二回はどうなるのか。

 

遊びは思いもよらない方向へ向かっていきます。