ついに345歳児合同遊びも最終回になりました。

 

一つ一つのボリュームがあったので、なかなか書くのが大変でした。膨大な写真の編集と選別、入り組んだ人間関係や遊びの展開をできるだけわかりやすく整理していく作業。とても勉強になりました。子どもたちから大人が学べるって良いですよね。私にとっても思い入れのあるシリーズになりました。

 

それでは3歳児クラスの子どもの姿を中心とした最終回の様子をご覧ください。これまでとは違った驚きがあると思います。

 

それでは、いってみましょう!

 

♯4

同じ遊びを繰り返す子たち

前回同様、自由スペースに子どもたちが最初から集まる展開ですが、空いているからこそ自分の好きな遊びを思う存分することができる。これも賢い選択と言えます。

 

子どもが「一人」で同じ遊びを繰り返す場合、2種類の理由があります。一つは視野が狭いのでとりあえずいつもの遊びをしておくという「繰り返しの遊び」。もう一つは逆に「満足するほどやりきっていない遊び」。この子達は後者です。まだ満足するほど遊べていない。だからこれで良いんです。主流の遊びに毎回入ることが良いことじゃない。

 

「複数人数」で同じ遊びを繰り返しているときは人間関係の影響を受けている可能性が高い。つまり、やりたくないけど断れないとか、一緒に遊びたいだけで遊ぶ内容はなんでも良いとか。目的が人間関係になっている場合ですね。この子たちはそれではないです。

 

今回は一人遊びパターンの解釈で良いと思います。

 

5歳児女子の王国

前回とほとんど同じですね。前回と違うのはテーブルの上にまでダンボールを重ねていること。積み上げたダンボールの裏側で何かが行われているようです。

 

右では3歳児がまたティッシュの箱を集めて5歳児に渡すという「労働」を行っています。ただし、前回労働から解放された3歳児2人はここにはいない。でもこの子はまたこの場所に戻ってきている。労働から逃れられないとは、まるで私たち大人のよう(以下略)。

 

労働がいけないわけじゃないんですけどね。大人になったらほとんどの人間が毎日上司の指示で働くわけで、社会の縮図です。遊びも社会そのものというわけですね。子どもの世界を舐めてはいけません。

 

よく遊ばなかった子は大人になって躓くとか言いますが、これが理由です。遊びで大人の社会の疑似体験をしておいたかどうか。つまり、子どもたちは遊びの中で大人の世界のリハーサルをしているんです。ここでいっぱい失敗したり工夫したり。そういった体験をしていないと現実世界で挫折を味わうとダメージが大きすぎて復活できないこともあります。

 

子どもはよく食べて、よく遊び、よく寝る。それが良いってことですね。

 

財産の管理の遊び

5歳児の王国の裏側を見て見ましょう。どうやら周囲から集めたものを保管している場所のようです。絵本、トイレットペーパーの芯、ティッシュの箱、そして黒ひげの人形。

 

宝物を隠す遊びは子どもたちによく見られるテーマの遊びです。大切なものを隠す、守る。誰かから宝物を奪ったり交換したりする。財産の管理の遊びです。大人の世界を子どもの世界で擬似体験している。

 

この合同遊び、4回目にして遊びのレベルが高くなってきているのがわかりますでしょうか?2回目の時は箱の中で本を読むだけでしたからね。今日は大人の世界のリハーサルまでレベルが上がってきている。

 

表だけではなく裏側がある世界を作っているのも、空間の使い方としては遊びが深まっています。裏側に宝物を隠している。遊びの主戦場である自由スペースからは見えないというのがポイントです。なかなか考えられています。

 

 

黒ひげがいない

そういうわけで4歳児と5歳児の王国民に黒ひげを奪われ、仕方なく黒ひげなしで遊びを行う2人。そんなに主張しないタイプの2人ですから、あるもので工夫して遊ぼうとしています。

 

黒ひげの人形を入れる場所に積み木を入れて飛ばす、というやり方に気付きました。しかし、毎回同じ場所に剣を指すと飛んでいくことに納得がいかない。どうやら、場所を変更するやり方まではわかっていない。

 

2人でどうすればいいのか話し合い、実験しながら、黒ひげ危機一発の仕組みを理解していきます。3歳児と4歳児のコンビの誕生です。3歳児とは思えない試行錯誤がここに見られています。目立つ黒ひげの人形がないから、樽と剣の構造に注目できるようになったんですね。見た目の派手さではなく、おもちゃの構造に興味が湧く。

 

この3歳児は第1回からずっと黒ひげに夢中だった。でもその時はうまくいかなくて泣きながら保育士に助けを求め、積み木をテーブルの下に落とすという「かんしゃく」で気持ちと行動を示していた。でも4回目になって、泣かずに自分で解決しようと試行錯誤している。

 

たった一ヶ月でここまで子どもは変わるんです。

 

理由は黒ひげ危機一髪に興味があるから。「好きこそ物の上手なれ」ということわざがあります。好きなことは上達しやすいという意味です。遊びが子どもの成長を引き出している。しかもこれは90分の活動を4回、計6時間かかっています。1回の遊びで子どもを成長させようと考えるのではなく、複数回の活動で育てる。

 

「最後まで諦めない力」はこうやって育てます。無理やり最後までやらせるんじゃなくて、子どもの意欲を引き出して主体的に遊びを継続するような環境を作るんです。

 

 

閉じ込める遊びは続く

中に入っている子は前回と同じ。前回同様、ダンボールの中で本を読んで過ごす。それを5歳児女子と4歳児女子が見守るという関係性です。

 

「〇〇君は絶対に出たらダメだからね!」とダンボールの中の子に向かって何度も命令しています。監視は交代制のようですね。裏側で休憩している王国民も。コンビニバイトの休憩室みたい。

 

 

遊びは立体的に

一方、遊びの中心、自由スペース。ついに遊びは立体へ。ダンボールの中に入るのではなく上に座って本を読む子や、二階建てにして中に入る子が現れました。5歳児の遊びがここにきて急に広がっていきます。

 

3歳児中心に紹介してきましたが、実は5歳児の成長も感じたプロジェクトだったんですよね。あまり紹介できなくて申し訳ないです。

 

どんな位置にどういう大きさと形状のダンボールを重ねればいいのか。どのように人間が入れば倒れないのか。その試行錯誤を繰り返し、少しずつ上手になっていきます。

 

試行錯誤。部屋の反対側で黒ひげでも行われている。最初はほとんど工夫のなかった遊びしかできなかった345歳児が、今日は部屋の至る所で工夫しながら遊んでいるんです。

 

横に並べるのは二次元、平面の遊び。縦横とか前後に並べて遊ぶ。それが前回までの遊び。今回は縦横とか前後に比べて高さが加わって三次元つまり立体の遊びに進化しています。王国も表と裏という概念が出てきていましたね。子どもたちの世界で、二次元から三次元へ遊びが深まっているわけです。工夫が文字通り「次元を超えて」きているのが面白い。

 

 

謎の新キャラ登場

3歳児女子。5歳児の王国に貢ぎ物を届ける道を新聞紙で作っています。絵カードもまた王国に渡さなければならないのか。

 

しかし、右手前、ダンボールに入って本を読む青いヘアゴムの3歳児。4歳児5歳児に独占されて3歳児が入ることを許されなかったダンボールに普通に入っている。違和感がない。すごく自然体。もしや気配を消せるタイプ?

 

 

王国への道を断つ

青いヘアゴムの子の影響でダンボールに一緒に入る遊びが展開され始めました。その場にいた3歳児4人が変わるがわる中に一緒に入る。床に散らばっていた絵カードや新聞紙も全て一緒にダンボールの中へ入れていく。

 

この遊びが始まったことで、結果的に5歳児の王国への道と貢ぎ物がなくなりました。

 

3歳児の小さな反抗。

 

この場所から、革命の狼煙が上がったのです(どーん!)。

 

 

僕の心も僕の身体も、僕のものだ

「僕は出ていく」

 

そう宣言し、ついに閉じ込められていた5歳児男子が自分の力で牢獄を出ようとしている。

 

第2回も第3回もそして今回も。連続3時間以上もダンボールの中にいた子が、ついに王国の女子たちの制止を振り払い、外の世界へ出ていく!

 

これはすごいことが起きる予感がします。

 

この支配からの、卒業

出ていく子を説得する王国民たち。しかし彼の決心は固い。この後、逆に王国のダンボールを奪い、自由スペースへ旅立っていきます。

 

閉じめられていた者の反抗。まさに革命。

 

そう、まさに今5歳児の王国で、革命が起こったのです。

 

 

相手の気持ちを理解するには同じことをしてみること

革命で地位を失った王国民。逆に自分がダンボールの中に入ってみます。相手の気持ちを理解するには自分が体験すること。同じことをしてみること。ダンボールに閉じこもってみること。

 

革命を起こされて、相手の気持ちに気付いた。ダンボールに入ることで自らの行為が相手にどういう気持ちを作り出していたのかを体験によって理解します。

 

前回解説した通り、閉じ込める遊びは役割をお互いに演じることで、それぞれの立場の気持ちを理解するという学びのある遊びになっています。しかし、どちらかがずっと閉じ込める方、閉じ込められる方になっている状態では、本当の意味でお互いの気持ちの理解にはならない。

 

だから、どこかで立場が逆転する必要がある。それが今回、子どもたちから自発的に、すごく自然に役割交代が行われた。

 

つまり、これで遊びが完成したんです。相手の気持ちを理解できたから、もう閉じ込めるような遊びはこの子達に必要がなくなった。ここから遊び方が変化するはず。

 

手前のダンボールに入っている5歳児は絵カードの食べ物を黒ひげの剣で切り分けて4歳児に分け与えるという遊びに変わっています。遊びが変化してシェアする雰囲気が生まれている。閉じ込めるという分断の構造から、物をシェアするという共有の構造に変化し始めている。

 

閉じ込める遊び(正確には力づくで閉じ込めているのではなく演技として、ごっこ遊びとして閉じ込めている遊び)は、大人からすると良くないのではないかと思うギリギリのラインを攻めているような遊びですよね。

 

保育士も、中にいる子が嫌がっているとか、出られないように物理的に閉じ込めているとか、そういう時は介入します。今回の遊びに関してはそれがなかったので注意深く見守っていました。そのおかげで子どもたちの成長を促すことができました。この見極めが難しい。おそらく園長の私がいなければ前回の時点で保育士は閉じ込める遊びを止めていたでしょう。それが正常な判断です。

 

「園長先生がいると子どもたちの遊びが全然違う」と保育士に言われますが、そうかもしれませんね。その場にいる大人によって子どもの遊びが変わるんです。同じ設定だったとしても、子どもの輝きが変わる。私は「その場にいるだけで周囲の人間が自然に成長できちゃう人間になりたい」と20歳くらいからずっと思ってましたからね。少しずつ私も、私の理想に近づいてきているのかもしれません。これもこの園の子どもたちのおかげです。

 

 

奪われたものは返してもらうぞ

革命を起こした5歳児とその仲間たち(3歳児)。一度は自由スペースに向かいましたが王国に戻り、3歳児に集めさせていたトイレットペーパーの芯を根こそぎ回収していきます。

 

動きに迷いがない。かっこいい。

 

自分の城を築く

そして革命軍は自由スペースに自分たちの城を築きます。取り返したティッシュの箱と新聞紙と芯が入ったダンボールをイスで取り囲み、守っている。

 

王国民がやっていた財産を守る遊びと同じです。より強力に守れるようにイスを防壁代わりに使っている。もう二度と奪われないように。

 

この後、このトイレットペーパーの芯、そしてダンボールは他の子たちに配布して、この城は崩壊します。みんなに分け与える。つまりシェアしている。回収したトイレットペーパーの芯は、みんなの手に渡っていく。金持ちの家から小判を盗んで貧乏人に配る、ねずみ小僧みたいな感じですね。いわゆる義賊です。

 

 

3歳児の遊びの進化

前回3歳児はトイレットペーパーの芯を重ねて遊ぶ「物としての遊び方」でした。しかし、今回は4歳児がやっていた「誰かと関わるための遊び方」に進化しています。メガホンのように使っていますね。

 

3歳児と5歳児で会話を楽しみます。この4回の遊びを通して3歳児が人と関わることを今まで以上に好きになってきていることがわかります。

 

革命により、一部に独占されていた物が、みんなに平等に行き渡るようになってきたからこういう変化が起こっている。

 

振り返れば第二回でダンボールで本を読むのを流行させたのは革命を起こした5歳児でした。実は、この子は影のインフルエンサーと言える存在だったんです。最初から周囲に影響を与える力を持っている。今度はメガホンブームを作り出しました。

 

 

「強制」から「対話」へ

閉じ込める遊びだった王国民も、革命児から再配布されたトイレットペーパーの芯を使って会話を楽しみます。一つのダンボールに3人で入って空間、遊び、気持ちをシェアしている。心の交流が活発化している。

 

革命軍がトイレットペーパーの芯をみんなでシェアした。王国民はそれを使って空間や遊びをシェアした。王国民も革命軍も、行き着く先はシェアする文化。分け合う、共有する気持ち。

 

閉じ込めて関係を断絶することを「強制」していたのに、今は「対話」をしている。それもずっと閉じ込めていた子からの贈り物によって。関係の変化は気持ちの変化を生み出す。

 

そしてよく見ると、革命のきっかけとなった青いヘアゴムの3歳児がダンボールの横にいますね。どうやらこの子がトイレットペーパーの芯をここに持ち込んだようです。王国民が笑って一緒に遊んでいるのは、この子のおかげでもある。

 

3歳児女子が作った道と貢ぎ物を断ち、革命の狼煙を挙げた青いヘアゴムの子。今度は崩壊した王国に潜入してメガホンを渡して対話を促し、王国民を笑顔にしている。

 

 

そして自分の城を以下略

3歳児2人でダンボールに入る。第一回からダンボールに興味を持ち、第二回から自分も中に入りたいと羨ましそうに見ていた子が、ついに3歳児2人で一緒にダンボールに入ることができました。

 

箱をシェアしている。5歳児から受け継いだ、人と気持ちを共有する大切さ。立体遊びがシェア、つまり共有する遊びへ少しずつ変化していく。

 

満足すると子どもは移動します。自分を成長させてくれる場所へ。

 

どこのだれかは知らないけれど

ダンボールから出て、積み木コーナーへ。第一回目に初登場した時も、ここの積み木コーナーでしたね。このように、遊びも一巡して戻ってくることがあります。一巡したということはレベルアップして戻ってきているということです。彼が作る次の作品に注目です。

 

そして手前にいるのは、革命のきっかけになった青いヘアゴムの子。何やらテーブルの左端の作品をじっと見ています。黄色と緑の作品はさっき自分で作ったもの。それを正面の椅子に回り込んでじっくり眺めています。自分の作品を眺める陶芸家みたいに。

 

 

平面から立体へ

第一回では色も関係なくただ平面で並べるだけで「全く遊べていない」と私に評価されていましたが、4回に渡って様々な遊びを経験した結果、今日は黄色と緑で立体的な作品を作っています!

 

一ヶ月でこんなに変わる?

これは見ていて私も震えました。

 

先ほど、青いヘアゴムの子がじっと見ていた作品にこの子が気付き、模倣して立体的な作品を作り上げました。自分なりに構造を理解した上で作っている。素晴らしい。

 

そしてそれは、青いヘアゴムの子がきっかけということです。青いヘアゴムの3歳児が今日何をしたのか、もう一度整理してみましょう。

 

3歳児女子を自然に集めて王国への貢ぎ物を止めさせて革命のきっかけを作り、5歳児の王国を崩壊させた。トイレットペーパーの芯を崩壊した王国民に渡して仲をとりもち対話を促して笑顔を作った。そして今度は革命軍の3歳児の男の子の成長を促した。

 

・・・これは偶然なのでしょうか?

 

 

タワー

男の子が作った緑と黄色の立体物(それはそもそも青いヘアゴムの子の影響)に触発され、3歳児の女の子がさらに立体的なタワーを建設します。この子は気づいていませんが、後方では王国民がダンボールでタワーを建設中です。つまり、空間を隔てて無意識に同じものを作っている。

 

この部屋の中でそれぞれが楽しさを共有してきているんですね。リンクしている(結びつく)というよりシンクロ(同期)している感じです。

 

 

タワーは倒れる運命にある

こちらは自由スペース。王国民と同じようにタワーを建設している。もはや部屋中で同じ遊びが展開されている。これが無意識に「遊び」「目的」「気持ち」を共有している状態です。

 

コーナー遊びで「遊び」「目的」「気持ち」がバラバラだった第一回から、4回目にしてついに、部屋全体が一つにまとまってきました。コーナー遊び(コーナー保育)をしている園の保育士が一番驚いているんじゃないかなと思います。普通の保育園なら、絶対にありえないことです。あえて個々のコーナー遊びから始めて最終回に全体で一つの遊びに収束していくことを狙った3歳児担任の保育計画はズバリ的中しました。すごい。

 

タワーを作るだけではなく、高く積んで倒れるのが面白いという遊びへ変化していきます。これは「失敗が楽しい」と思う体験です。結果ではなく、その途中が楽しい。工夫や、失敗が楽しい。そして失敗をみんなで笑う事ができる(共有できる)。こういう子がチャレンジする子に成長していく。勝ち負けじゃなく、成功失敗じゃなく、仲間で笑い合うことに喜びを感じる子になっていく。

 

大人が忘れている感覚です。失敗が宝物。これも以前お話ししましたね。

 

 

まさに神出鬼没

青いヘアゴム!

まさかここにも!

 

一体何者なんだ。もしこの子が周囲に変化を促す能力を持っているのなら、この後王国民たちに変化が訪れるはず。

 

解放する遊び

王国民の方も、タワーを作って不安定になって中の人が倒れてくるという、自由スペースの男の子たちと同じ遊びが展開し始めました。

 

閉じ込めて守るのではなく、閉じ込めた後に自分たちであえて壊して解放するという遊びになっています。破壊と創造を自分たちで行っている。相反する2つの役割を行う遊びになっている。すごい変化。

 

すでに青いヘアゴムの子はここにはいない。そういえばさっき3歳児が立体物を作っている時にも、あの子の姿はなかった。変化が起こっている時にはもう別の場所に移動しているのか。

 

どういうことなのか。何が目的なのか。謎は深まるばかり。

 

 

命を運ぶ遊び

破壊の後には創造。つまり、タワーが壊れた遊びの後には新しい遊びが出てくる。先ほどは閉じ込めるのではなく、壊して自由にする遊びになっていました。そして今度はダンボールの中にいる人を運ぶ遊びに変化しています。

 

運命とは命を運ぶと書く。つまり、命を運ぶ遊びは、運命を切り開く遊びの意味合いがある。さらに、不安定になって倒れそうになる子を支える遊び。つまり、助ける遊びまで進化している。

 

王国民の成長は止まりません。この子たちは遊びの中だけではなく現実世界でも、人と気持ちを共有したり相手の気持ちを考えられるようになってくるはずです。遊びは現実とリンクしています。

 

これも青いヘアゴムの子のおかげなのか?

 

見ぃつけた(ニヤリ)

王国民が運ぶ遊びに発展し、王国を離れていった後、誰もいなくなった裏側の宝物庫にあった黒ヒゲ人形に手を伸ばす青いヘアゴムの3歳児。

 

そんな、バカな!

王国民の遊びを変化させて宝物庫から引き離し、その隙に黒ひげ人形を奪うということ?!

 

計算しての行動じゃあない。それは間違いない。3歳児がそこまで考えているはずがない。それなのに、こんなにも自然な流れで事が進んでいっていいのだろうか。

 

もし、この黒ひげの人形を、あの黒ひげコーナーにハマっている3歳児に渡したとすれば?

 

まさか、いや、そんな。

 

黒ひげの帰還

渡してるぅぅぅぅ!!!

どういうことだ?!

もはや理解不能!!

 

この空間はこの青いヘアゴムの子の手のひらの上で転がされるように、運命が最初からそうだったかのように、ピッタリと収まるように動くものなのか。

 

偶然じゃない。

 

これは必然ッ!

 

黒ひげチーム。ついに本来の遊び方で遊ぶことが出来ました。随分長いこと遊んでいましたが、4回目にしてついにここまで来ました。ちなみに剣を樽に刺して黒ひげが飛び出すというのは縦横に加えて高さがある遊び。つまり3次元。見事に全体の遊びの方向性が同じになっています。

 

 

さらにダメ押し

もはや驚きを通り越して、「君ならそこまでやるよね。当たり前だよね」とか思っちゃう。

 

青いヘアゴムの子が一人で新聞紙で遊んでいた子のところに行き、芯の中に新聞紙を詰めてタワーを作る遊びを一緒にしています。タワー。高さがある遊び。三次元。2次元の平面である新聞紙遊びが立体的な遊びに変化した。そしてそれを一緒に作る、つまり「共有」している。これでこの部屋の中にいる子ども全員が「立体的な遊びを共有する」という状態になりました。

 

いやもう、すごすぎる。私が目指している「そこにいるだけで周囲の人間の成長を促す人」って、多分この子のことですね。案外近くにいました。

 

この子の凄さはとてもわかりにくい。いろんなところに出現し、いろんな子に影響を与えていたというのは「そうかもしれない」という視点でこの子を観察していかないと気が付かない。普通に考えれば、この子は特定の誰かと遊びを深めていないでフラフラしていた、という評価になってしまう。

 

こうやってこの日に起きた部屋全体の遊びを考察してみると、子どもの評価というのはとても難しいなと思いました。こういう素敵な子をきちんと評価できる大人でありたい。

 

 

滑り台作りへ

全体の遊びはいよいよ佳境へ。立体的にタワーを作って崩す遊びから展開し、ダンボールを半分潰して滑り台にする遊びになっています。4歳児と5歳児ですね。もう学年関係なくなっています。異年齢保育が完璧にできています。

 

ダンボールを潰すために上に乗って体重で潰すという遊びが広がっていきます。他の子も真似していく。この場所がブームになり、だんだんと人が集まってくる。

 

 

未来へ向かう

ダンボールに乗って潰すという「破壊」から、壊れないようにうまく上に乗る遊びへ変化していく。そして壊れないようにうまくダンボールに乗って窓から外の世界を見るという遊びを「創造」し、みんなで外の景色を眺めています。外の景色が素敵だなという気持ちを「共有」し、全4回にわたるコーナー遊びプロジェクトは終了となりました。

 

 

お疲れ様でした。長かったですね。過去最長のシリーズになってしまいました。やはり3クラス合同の遊びを解説するとなれば、複雑な構造や流れを説明しなければいけないので、写真の枚数も解説の文字数も多くなってしまいました。

 

最後には無意識に「遊び」「目的」「気持ち」を共有している様子がいくつも出てきましたね。プロジェクト保育とは「一つの目的に向かって子どもたちで問題を協力して解決していく遊びを使った保育」ですが、大人が設定した偽物の目的に向かって協力させるのではなく、子どもたち自身が遊びの中で自然に生まれていった「遊び」「目的」「気持ち」を共有したという今回のような体験が一番教育的です。

 

こういう体験を繰り返すことで、一体感が心地良いと思える子どもになっていく。協力することが好きになる。人と一緒にいたいと思うようになる。そして自分を好きになる。

 

青いヘアゴムの子が今回の主役のような扱いですが、革命軍や王国民、黒ひげチーム、タワーを作る5歳児など、それぞれが成長した最終回となりました。子どもの様子も第一回目とは全然違いますね。令和5年度のスタートとしては最高の出だしじゃないでしょうか。

 

ちなみに青いヘアゴムの「青色」ですが、空や海の色ですね。生命を生み出した母なる海の色。つまり「青(あお)」には「創造」「育む」という意味があったりします。まさに今回の遊びを創造し、周囲を成長させた様子と同じです。

 

そして「青」とは元々植物が青々と茂る様子も表していました。季節では春を表し、「青春」という言葉もここから来ているという話もあります。この遊びが行われたのは4月と5月。まさに春に行われた遊びでした。なかなか興味深い。

 

 

「異年齢で大人数の保育でも奇跡は起きるのか」をテーマにお送りしてきた今回のブログ、いかがでしたでしょうか。第一回で新入園児が勇気を出して遊びに入るとか、第二回第三回でメロンを捨てて過去を乗り越えるとか、第四回の青いゴムの子が黒ひげを戻すとか、奇跡はたくさん起きたんじゃないかと思います。

 

もしかしたら、いつだって子どもの遊びはびっくりするくらい面白いことが起きているのに、大人の私たちが見過ごしているだけなのかもしれません。子どもの様子をよく観察し、子どもの良さを発見することに力を注いでみるのも良いんじゃないでしょうか。

 

子どもを輝かすのが私たち保育士の役目です。

 

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

〜次回予告〜

 

コーナー遊びで大きく成長した3歳児クラスの子どもたち。

3歳児クラス単独遊びで成長が加速します。

 

王国民の労働から解放された子どもたちはどこへ向かうのか。

飛行機、メロン、革命軍、黒ひげ等に続いて続々登場する新キャラクター。

 

そして青いヘアゴムの子は再び奇跡を再び起こすのか。

 

次回、3歳児単独プロジェクト保育(新聞紙遊び)、乞うご期待!