5歳児オリンピックプロジェクトの後編です。前回も長かったですが、今回はさらに長くなりそうです。
集団としてのまとまりを手に入れた子どもたちは、いよいよ競技へと集中していきます。それでは最後までご覧ください。
#4
第四回です。七夕まつりや水遊びをしている頃は、わりと固定メンバーで遊ぶことが多かったのですが、このプロジェクト期間は、いろんな子と遊びたいという想いがそれぞれの子に生まれてきて、遊ぶメンバーが流動的になるという現象が起きています。人間関係の幅が広がり、興味が広がってきているからです。
画面から伝わりますでしょうか。今までより親密になっている様子が。なんていうんでしょうね。距離が近くなって緊張感が減ってリラックスしているような雰囲気ですよね。
時間いっぱい練習というか試合をできるようになりました。それなりに盛り上がり、それなりに喜んでいますが、突き抜ける感じがありません。
前回の一件で「みんな一つ」になった結果、チームで分かれても「みんな仲間」になってしまう。自分のチームと相手のチームというより、同じチームメイトが2つに分かれて練習試合しているから両方応援するし、どっちが勝っても負けても何も思わないよね、って感じです。
なかなか難しいです。仲良くなると競争心が生まれない。良いことなんですけどね。
#5
五回目、自分のチームと相手のチームを意識しやすいように、2人組で対決するという練習方法をとってみました。
これがうまくいきました。2人組なら仲間感を強く感じるし、相手も2人だから認識しやすい。どっちが勝ったか、負けたかを強く実感できるようになりました。
そうすると喜び方も変わってきます。ご覧の通り、勝ったら全身で喜びます。どういう喜び方なのかわかりませんが、面白い動きなので取り上げてみました。すごく良いですね。
さきほど、私も同じように跳んでみたんですが、こういうポーズにはなりませんでした。皆さんも広いところでやってみてください。
こちらはハードル走です。それぞれがルールを意識して、どうすれば速くなるのかを何度も何度も試します。真剣そのものです。体育の時間ではなく部活の雰囲気と言えば伝わりますかね?競争はしていますが、戦っているのは自分自身。遊びがスポーツになった瞬間です。
真剣だからこそ、うまくできなかったときに涙が出る。負けたから悔しいんじゃない、不甲斐ない自分に悔しいんです。自然と駆け寄る仲間たち。違うチームだろうが関係ない。仲間であり、競争相手。そのバランスがわかってきました。
「そうだよね」
「うんうん」
「次はうまくいくよ」
「ほら、次の試合が始まるよ。どっちのチームを応援する?」
5歳児ってこんな完璧なフォローをできるんですね。話を聴き、励まし、方向付けをする。
これを読んでいる保育士さんに聞いてみたい。
こんなにかっこいい5歳児に出会ったことあります?
私はありません!(断言)
#6
いよいよ最後。気分は最高潮です。
子どもたちの熱意に応えるべく、「職人」と言われている手先の器用な保育士に作ってもらったメダルです。
「オリンピックなのにメダルがないのって変じゃない?」
「変だよね。」
第一回の時にそう言っている子どもたちの声がありました。そうだよね。そりゃそうだ。子どもの疑問をそのままにしません。きっちり作らせてもらいましたよ。私は作ってないけど。感謝です。
このメダルを見せたところ、目が輝く子どもたち。
「頑張るぞ!」
「負けないんだから!」
ハートにますます火が着きました。
戦場へ向かう小さな戦士たち。背が伸びたなぁと思いました。あと半年経ったらランドセルを背負う背中です。
まずはコーン取り競争です。前回の2人組ではなくチーム戦にしていますが、今日はチームとしてのまとまりを感じます。この動き見てくださいよ。バスケ選手みたいじゃないですか?
勝利の雄叫び。奥では負けた子がしょんぼり。遠慮して喜ばないのは逆に相手に失礼。全力でぶつかった証拠です。
4人チームなのに6人いますね。そうです。全く関係ないチームも喜びの輪に入ってくるようになりました。喜びを共有したい。他チームの勝利も嬉しいんです。
皆さんは気付いていますか?
ちょっと前までは1人でガッツポーズで飛び跳ねていたんです。
今はどうでしょうか?
そうです。仲間で抱き合って喜びを「共有」しています。
1人で喜ぶのではなく、みんなで喜ぶ方が何倍も嬉しい。
そういう体験って貴重ですよね。こういうの、なんて言うんでしたっけ?
「青春」
まだ幼児さんなんだけど、他に良い言葉が浮かびません。
ここに辿り着くまでにいろんなことがありましたね。
競技に集中する2人。
今までよりも高く跳べている気がします。
あの日の悔し涙があって、今日のその笑顔があるんです。過去の自分を乗り越えた瞬間です。
こういう素敵な瞬間に立ち会える喜び、これは保育士の仕事の一つの醍醐味じゃないかと思います。その喜びを自分たちだけで感じるなんて勿体無い。この感動を皆さんにおすそ分けさせてください。
「やったー金メダルだ!」
「銅メダルの色、すごく綺麗じゃない?銅メダルで良かったー」
「銀メダルかっこいい」
誰1人、嫌な気持ちになっていません。全力を出し切った結果に悔いはないんですね。勝利を目指して全力を出したのに、勝敗よりも大切なものを掴み取ったんです。
これにてオリンピックプロジェクトを閉会します!
東京都オリンピック・パランリンピック準備局のサイトによると、オリンピックの精神とは「スポーツを通して心身を向上させ、文化・国籍などさまざまな違いを乗り越え、友情、連帯感、フェアプレーの精神をもって、平和でよりよい世界の実現に貢献すること」と書いてありました。
今回のオリンピックプロジェクトでは、オリンピックの精神そのものを体現したかのように、スポーツを通して友情や連帯感を育むことができました。
プロジェクト保育は子どもたちの力でプロジェクトを成功させる過程で成長することを目指すものですが、心の成長という最も難しいところを子どもたちはやってのけたのです。
つい熱く語ってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?
ここで裏話というか解説を一つ。
この時期、日常の遊びの中では、子どもたち同士のトラブルが増えたり、仲間意識が高まったり、非常に濃密な関係性の変化が繰り返されていました。人間関係に敏感になり、仲間にうまく入れなくて涙したり、仲良くなって喜んだり、時には保護者の方に悩みを打ち明けたりといったこともあったかと思います。
実は、5歳児は人間関係に悩む時期です。言語能力や知恵がついてくることで、遊びたいものがズレたり、集団遊びの内容が複雑になっていきます。
今までは、なんとなく「みんなで遊ぶ」というニュアンスでした(3歳児や4歳児の遊びを参照)が、興味も遊びも人間関係も一年間で急激に高度になる5歳児では、「自分の興味重視でバラバラに遊ぶ」という段階の子、「みんな一緒に遊びたい」という段階の子、「ついたり離れたりのほどよい関係で遊ぶ」という段階の子が入り混じるので、人間関係に悩みやすいのです。発達段階というか、成長の過程で起こる現象です。
このプロジェクトで行われた、バラバラ、みんなひとつ、ほどよい関係・・・というふうに集団の関係性が変化していく様子は、まさに5歳児の人間関係スキルの発達の変遷を私たちは凝縮して見ているようなものです。
こういう発達段階の変化を知らずに保育をしていると、トラブルという現象だけに着目して指導したり、叱ったりということになります。それでは子どものまっすぐな成長を邪魔することになってしまう。
もしかしたら5歳児の保育で一番難しいのは、こういう人間関係のトラブルに対する関わり方かもしれません。正解がないですからね。保護者の方とこういった状況について話をさせていただき理解し合えたことも、この子たちが成長する環境作りとして必要なことでした。ありがとうございます。
さて、長くなりすぎたので、このへんで終わります。次回の5歳児は超大型企画「クリスマス会プロジェクト」になります。楽しみですね。