4歳児プロジェクトの「設定お買い物ごっこ」の後編です。設定の中で遊ぶ体験は子どもたちをどう成長させるのか。

 

お金は平等になっても世の中が平和になることはありませんでした。お店を乗っとられた個人商店は再起を誓います。

 

#3

 

今回加えた「設定」は「おうちコーナーの設置」です。お店しかないから争いが起こるのではないか、家庭を用意することで遊びに変化が出るのではないかという担任のアイデアを採用しました。

 

考えられた陳列

3回目になると、なかなか考えられた陳列になってきました。カテゴリーごとに分かれて置いてあります。ここでは大型店が物を独占せずに他店に分けてあげる様子が見られました。

 

「みんなの分!」と言って、かごやトングを全店に分配していきます。

 

おお、やっとそういう感じになってきましたね。自分のことだけでなく周囲のことを意識してきました。

 

個人商店にさらなる悲劇が

個人商店は元々3人で営んでいました。最後まで個人商店を1人で守ってきた店主が、スマホをいじってニートになっていたもう1人に店を乗っ取られるという、まさかの展開が。

ニートがやる気になったのは良いことなんですが、今まで頑張ってきたのは僕だぞという悔しさが画面から感じ取れますね。しかし、喧嘩をせずにぐっと堪えて引くことができました。こんな場面にも子どもの成長を感じることができます。

 

ちなみにもう1人は前回大型店でバイトをして生きる道を選びました。彼にもさらなる悲劇が待っています。

 

 

不正は許さない

一方、こだわりの店では大型店が勝手に商品を持ち出すことを止めていました。

なんでもありの遊び方から、しっかりとルールを守って遊ぶほうが楽しいという雰囲気が生まれてきたようです。

これ以降、持ち出しは無くなりました。争わない方が楽しい。そう思ってきたのかもしれません。

 

おうちコーナー成功

自分の店に商品を並べたいから争いがあったわけですが、おうちコーナーを設置することで、お店の競争から離れ、純粋におままごとを楽しむことができるようになりました。みんな買い物をしたらおうちに「ただいま」と戻っていきます。

 

これを読んでいる大人の皆さん、人生は仕事だけじゃだめなんですよ。家庭が大事だということを子どもたちが私たちに教えてくれてるんですね。多分。よし、今日は私も仕事を早く切り上げて、早めに家に帰ろうかな。

 

こだわりのお店、ここに極まる

無言で黙々と魚を捌き、野菜の下ごしらえを始めるこだわりの店のオーナーと料理人。

 

やばい、かっこいい。

言葉で語らない。味で語る。

自分の店がどうあるべきか、ここにきて何かを掴んだようです。前回、料理の研究してましたからね。

 

おままごとの顔じゃないですよね、職人の顔ですよ。遊びって面白い。

 

 

絶望の個人商店

大型店のバイトを辞め、個人商店に帰ってきました。しかし、久しぶりに戻った商店には、何も売るものが無かったのです。途方に暮れてみんなに背中を向けています。

 

みんな遊びに夢中でそれに気付いていません。悲しすぎる展開で第三回は終了です。

 

 

#4

 

最終回ですが、今回は何も「設定」を加えません。最後に何が起きるのか、私たちも子どもたちを信じて見守ります。

 

シンプルに隠す

個人商店です。物を取られる前に壁の中にアイテムを隠すというシンプルな作戦に出ました。さらに、乗っ取られないように(侵入されないように)お店の大きさを小さく設定して流しなど高さのあるものでガードしています。そして流しとコンロを独占することで業務も独占する。料理系の仕事はこれで個人商店しかできなくなります。

 

個人商店が生き残るための最高の作戦を立てたようです。

 

これ、幼児が考えたにしては頭が良すぎませんか?どこかで経営学とか学んだんでしょうか。

 

 

厨房として生きていく

そして独占したコンロと流しを使い、大型店に隣接して厨房として存在感を出しています。左奥に見えますでしょうか、自信に満ちた顔が。ここで大型店と個人商店が業務提携を結び、共存する未来を作り上げたのです。

 

パートナーもできました

一生懸命働いていると良いこともあるようです。パートナーができました。2人で店を切り盛りしています。1人で個人商店を守っていた苦労も、これで報われたのではないでしょうか。

 

3店をつなぐ存在

個人商店が復活したのには、もう一つ理由がありました。それは、個人商店が乗っ取られた後に大型店でバイトすることで経営を学び、個人商店に戻ってきたときに商品がなくて売ることができなかった悔しさを知った、真ん中の店員さんの存在です。

 

「ビンゴやってまーす」

「〇〇君のお店今なら空いてるよー、どうですかー?」

 

3店にお客さんが均等に行くように全体に声をかけていたのです。自分が受けた悲しみは、他の人には感じさせたくないという、優しさ溢れる素晴らしい行動でした。

 

そのおかげもあって個人商店は成功。大型店とも仲良くなった。そして自分自身はこだわりのお店の店員さんとして落ち着きました。3店を渡り歩いた経験は伊達じゃない。職人は隣にいますし、オーナーも自分の店を安心して任せているようです。

 

 

おうちに戻る

3つのお店でそれぞれ買い物をしてきて、おうちに戻ります。買ってきたものをみんなでシェアして「いただきまーす、むしゃむしゃむしゃ」。時間ギリギリまで笑い声が絶えずにおままごとをすることができました。

 

 

 

いかがでしたでしょうか?

なんともうまい具合にハッピーエンドになるものですね。感心します。

 

前半で他店の物を持って行ってしまうという行動や、乗っ取りが見られていましたが、悪気がある行動ではありません。自分のお店をよくしたいということだけを純粋に突き詰めていくと、他店の利益や他人の気持ちを考えない経営になる。いわば、当たり前のことです。大人も子どもも変わりません。

 

「意地悪しないで」「分けてあげて」「返してあげて」と大人が叱るのは簡単ですが、それは一方的に大人が押し付ける解決であり、子どもの中に不満が残ります。なぜなら、これは「おままごと」という経営ゲームであり、その意味では子どもたちは間違ったことはしていないからです。

 

大切なのは最低限の関わり(設定)を入れることで遊びを変化させるヒントを用意して、子どもたちの成長を促すことです。直接的に変化させるのではありません。

 

3回目までのうまくいかなさをしっかりと覚えていた個人商店の子どもたちは、4回目で自分の力だけで未来を切り拓き、解決をすることができました。しかも、それは自分の店の成功というゴールではなく、3店全部が幸せになるという結果にたどり着きました。

 

とんでもなくすごいことです。こういう結末に子どもだけで辿り着いたということが私は嬉しいのです。

 

今回は個人商店に大きく焦点を当てた説明になってしまいましたが、大型店内にも様々なドラマがありましたし、こだわりのお店も面白かったです。全部を紹介できないのは残念ですが、なんとなく子どもたちが遊びによって成長していく様子を感じ取っていただけたら嬉しいです。