5歳児の運動会鼓笛シリーズも最終回です。最終回は運動会本番の様子をお届けします。練習開始からおよそ1ヶ月半。様々なことを乗り越えた5歳児の子どもたちは、ついに本番の舞台に立ちます。

 

それでは、舞台裏の様子からご覧ください。

 

保育士側もできることは全部やる

運動会や発表会は子どもたちが一番輝く場です。私たち保育士ができるのは、最高の状態にして送り出すこと。衣装が曲がっていないか、髪型は大丈夫か等、念入りに着替えと準備を行います。

 

一つにはちゃんとした格好で本番に臨ませるため。そしてもう一つは、それだけ私たち保育士が君たちのことを大切にしているよのメッセージを感じてもらうため。

 

安心と挑戦のサイクルで子どもは育つ。子どもたちにたくさん「安心」を感じてもらう。これから、大人数の前で発表するという「挑戦」をしなければいけないのだから。

 

 

優しさの連鎖

保育士から受けた「安心」はお友達同士へ。お互いの衣装のチェックやお手伝いが自然と起こります。この「挑戦」は1人ではなく、みんなで行うものだから。仲間意識が高まっています。

 

 

あの日の悔しさは忘れない

7月の七夕まつりで行った「きらきら星」の合奏はうまくいかなかった。十分に練習しなかったのもあるけど、ちゃんと成功させるという覚悟が足りなかった。あの時とは違う。挫折を乗り越えてここまで来た。

 

 

緊張に弱いのも乗り越えるべき課題

本番直前。外では園長が会場挨拶を行なっています。もうすぐ呼ばれる。緊張で無意識にお腹に手を当てる。表情もこわばる。こういう発表の場や緊張に弱い子にとって、今日は大きなプレッシャーとの戦いになります。自分との戦いです。

 

 

ブリンバンバンボン

そもそもの始まりは、誰ともなく歌い出し、踊り出したことがきっかけでした。当時流行っていただけかもしれない。ただのノリだったかもしれない。

 

だけど、あの時感じたクラスの一体感は本物だったはず。私はそれを忘れない。必ず、今日も一体感を持って発表をできると信じている。

 

 

スタンバイOK

壇上で司会をしている園長から紹介を受け、気合を入れる子どもたち。

 

ついにこの時が。

 

まずは「天丼マン」で行進しながら入場し、配置に着いたら「きらきら星」と「Bling-Bang-Bang-Born」を連続で披露します。全て子どもたちだけで行う。

 

静まり返った会場で、指揮者のホイッスルが鳴り響きます。

 

「ピー、ピー、ピッピッピ!」

 

 

小太鼓(左)

最初は大太鼓だったけど「太鼓が重くて痛い」と毎回言っていました。途中で楽器を変わってもらって小太鼓へ。裏方より前に出る方が向いている子なのかもしれません。小太鼓の練習時間は短くなったけど、立派にやり遂げました。

 

最後の夕方練習で指揮者が成功したのは、この子の笑顔があったからというのは間違いありません。

 

 

小太鼓(中央)

不安定な両サイドの女の子たちを気遣い、小太鼓チームの中心として機能していた男の子。いつも演奏が安定していたので「君がうまくやれていれば2人もできるので期待しているよ」と伝えていました。

 

みんなでやっていても、実は一人ひとり役割が違います。子どもたちそれぞれの良さや役割を見出す。それができれば保育はもっと素敵なものになるんです。

 

 

小太鼓(右)

大きな音が苦手だったり、休みが多かったのでなかなか覚えられず、間違って叩くことが増えていました。そこで練習後半で小太鼓2人に相談し、この子が覚えている「間違っているリズム」を「正しいリズム」として採用することにしました。逆転の発想です。2人は元々覚えていたリズムを捨てて、新しくこの子と同じ叩き方で覚え直したのです。

 

正しいも間違いもないんです。子どもたちが仲間のために変えたのなら、それは正解になる。

 

これも子どもたちのアイデア。素晴らしいチームです。仲間の気遣いを受け、本番でも楽しそうに叩いていました。

 

 

トリオ(3太鼓)

トリオのリズムは変則的で、どうしても覚えられず、何度やってもできない。仲間と一緒に練習する中で「これでどう?」と元々のリズムを自分たちで少しアレンジして習得しました。

 

いつもは元気なのに、実はプレッシャーに弱い。そんなところも持ち前の明るさで仲間と一緒に笑い合い、乗り越えてここに立っています。

 

 

シンバル(左)

鼓笛ではシンバルの2人は地味な役回りです。大体がシンバルのシャーンという音で一区切りになるようにリズムを構成しているので、シンバルが間違えなければ他のみんなの音も合いやすい。

 

それだけでなく、この子は明るく笑いを届けることで精神的にもみんなを支える存在でした。

 

 

シンバル(右)

この子の良さは他人のサポートで発揮されます。夕方の練習では毎回参加し、楽しい雰囲気を膨らませたり、他の子の練習を手伝ったりしていました。そういうみんなを支える存在はシンバルそのものです。

 

裏方に回る人が集団には必要なのです。縁の下の力持ちってこういうことだと思います。

 

 

中太鼓(左)

なかなかリズムが合わず苦戦しました。理由は音に合わせるのではなく、目で合わせようとするからです。どうしてもワンテンポ遅れてしまう。

 

そこで私のとった作戦は中太鼓の2人の動きを安定させること。本来は上から下にバチで太鼓を叩くものですが、中太鼓の2人はバチを横に振るような間違ったフォームで叩いていたのですが、あえて修正をかけませんでした。なぜなら横に振るように叩く方が、この子からよく見えるからです。

 

隣の子を信頼して同じような横のフォームの振り子で叩く。このやり方であればリズムが揃います。写真でも隣の子を見てますね。

 

正しいフォームで叩くより、仲間を信頼する経験の方が私は大事だと思うんです。

 

 

中太鼓(中央)

この子は一度習得したスキルは安定して繰り出せる。目で見て合わせる左の子の相棒としては適任の子です。

 

中太鼓3人の中で真ん中の位置になっているのはもう一つ利点がある。この子自身が緊張しやすくて不安が強いので、仲間に挟まれていた方が安心感が出るんです。

 

実は配置は偶然です。私が決めたわけじゃない。なんとなく練習するうちに決まっていった場所です。子どもたちが決めた場所。それがそれぞれの良さを引き出すドンピシャの良い位置になっていることが素晴らしいと思います。理屈を超えたところに面白さがある。

 

 

中太鼓(右)

最初から最後まで安定して間違えずに叩く力を持っています。全員が間違えていてもこの子だけは正しく叩けた。それを本人は自覚しています。「僕は今ちゃんと叩けてたよ。」そういう報告も結構ありました。

 

これはどういうことかと言うと、正しいリズムや構成が頭の中に入っているだけでなく、自分と他人の成功失敗を見極められているということです。つまり音が全部聴こえている。こういう子がリズム隊にいると演奏が安定します。

 

 

大太鼓(左)

最終的に全ての楽器のリズムや動きを全部覚えていました。夕方の練習の時に全楽器をやってみせて、しかもできていない子に教えるくらいです。小太鼓から大太鼓へ配置換えをしてもすぐに適応できたのはその能力のおかげもある。

 

だけど、この子の凄いところは、他人を思いやり、他人の成功を喜べるところ。その評価は変わりません。できるできないの世界より大事なことがある。それをこの子はわかっていると思います。

 

 

大太鼓(右)

多くを語らないけど、自分が大太鼓であることに誇りを持っている様子が見られていました。最後の最後にソロパートを成功させた時も笑顔ではないけど達成感を感じていた。実はどの動画や写真を見ても、ちゃんと指揮者や隣の子を見ている。人に合わせようという意思を持っている。

 

一生懸命だから、みんな彼が成功するかどうかを気にしてくれているんでしょう。

 

 

指揮者

そして指揮者。去年までは大舞台で緊張して固まって動けなくなることが多く、指揮者をやりたいと言われた時には「可能なのか?」と一瞬考えてしまったほどです。

 

だからこそ、この鼓笛で指揮者を立派にやり遂げられるかどうかが、この子の一生を変えるはず。この子の人生を変える覚悟でやろうと私は初日に心に誓ったのです。

 

今回の鼓笛は指揮者のホイッスルの合図、指揮棒での合図でみんなが音や動きを合わせる部分を多く取り入れ、この子が失敗すると全員が失敗するという構成に「あえて」挑みました。

 

難しいけれど、周囲をよく観察し、相手のために自分の動きを合わせ、全体の責任を負う体験ができる。これが成功すれば必ず周囲の人の気持ちを理解し自分の気持ちや行動をコントロールできる子になるはず。

 

鼓笛はただの演奏じゃない。教育の環境だという意識で取り組んでいます。保育は人を育てるために行なっているんですから。

 

 

他クラスの保護者の方にも伝わった感動

「天丼マン」「きらきら星」「Bling-Bang-Bang-Born」と連続で演奏し、細かいミスはあったけど、そんなことは気にならないくらい堂々とした素晴らしい発表を見せてくれました。

 

今年の鼓笛も大成功と言って良いでしょう。会場に大きな拍手が鳴り響きます。

 

「Bling-Bang-Bang-Born」の意味を調べてみたけど明確な答えはありませんでした。意訳になってしまうけど「ありのままで輝くために生まれてきた」というのがピンと来ました。「きらきら星」もきらきら光って輝いているし、この2曲を選んだことは偶然とも思えません。

 

本番だけでなく練習の時から、この子達は輝いていた。私にはそう思えました。

 

 

エピローグ

運動会終了後、たまたま指揮者の子と保護者の方と話す機会がありました。感動しましたというお話もいただきましたがもっと印象的だったのは「園長先生に強く抱きしめてもらったことを家で言っていました」というお話でした。

 

最後の夕方の個人練習で成功した時に思わず抱きしめた、あの時のことかな。

 

子どもに強く伝わるのは言葉ではないし、褒めることでも、叱ることでもないのかもしれない。本当に伝わるのは、もしかしたら純粋な喜びや感動を子どもに真っ直ぐに伝えたいという行動なのかもしれません。

 

5歳児の子どもたちと毎日過ごし、作り上げていった鼓笛の一ヶ月半は私にとっても大切な体験となりました。感動をありがとう!

 

 

 

以上となります!

 

結果ではなく過程の方が大事だと常々お話させてもらっていますが、そうであるなら鼓笛の当日発表に至るまでのドラマを紹介しなければいけないなと思ってブログにすることにしました。

 

子ども主体の保育に変更する園が増え、行事を減らす方向になっているのは、私のように「子どもと一緒に行事を作り上げること」ができないか、そういうやり方を知らない園なのではないかと思っています。

 

子ども主体っていうのは子どもが決めることじゃなくて、物語の主人公でいられること。私の鼓笛は一人一人が自分の物語を生きられるように意識して進めていました。

 

そして裏テーマになったのは「安心と挑戦のサイクル」ですね。子どもの育ちにとってすごく重要な視点です。安心の保証と挑戦する環境の設定。そのバランス。今回のシリーズはその解説にもなるように書きました。

 

ただ、実際にブログにまとめてみて思ったのは「普通の保育士がこれをやるのは結構難しいぞ」ということです。だからこそ、私の思考や意図、判断を丁寧に文字に起こしてみました。子育てや子どもに関わる方々の参考になれば幸いです。

 

これで七夕まつりから続いた5歳児のプロジェクトも一区切りです。

 

鼓笛は園長の私がやりましたが、次回の新シリーズでは担任が行う新プロジェクトになっています。5歳児たちの次の物語にご期待ください。