なんだかモヤモヤする5歳児クラスの七夕まつり曲作りプロジェクト。子どもの主体性、意欲を引き出す保育とは?そこに一つの答えが出るような展開になっています。いつだって子どもたちが私たちに大切なことを教えてくれるんです。
それでは行ってみましょう!
♯4
いきなり笑顔です。前回までとはかなり違いますね。
楽しすぎて踊りたくなって、実際に踊り出してます。
まず保育で大事なのは「雰囲気作り」です。何よりも保育士が作りだす空間の雰囲気が子どもに影響を与えます。保育士が作りだす雰囲気がどういうものが良いのかというとこれは明確に答えが出ています。「安心」の雰囲気です。
こども家庭庁も言っていますが、乳幼児期は「安心」と「挑戦」のサイクルを繰り返しながら育っていきます。課題解決に挑戦していくのであれば、安心した状態になっていなければいけません。
つまり、課題解決型であるプロジェクト保育は、保育士が子どもたちに「安心」を与えていなければいけないということです。
そもそも「安心」していないと「楽しい」と感じないし「笑顔」にもならない。「安心」を感じてもらえるような雰囲気を保育士が作っていきます。
椅子を設置したのも前回までとの違いですね。こうやって踊っていても、椅子に座ることで落ち着くことができるし、姿勢も崩れず、離席が起こりにくい。そして丸く椅子を並べていることでお互いの顔が見え、話し合いがしやすく、一体感も生まれる。
笑い声が絶えません!見ているこっちも楽しい。
七夕まつりで合奏をすることが最終目標のプロジェクトです。しかし、前回までの様子を見ていると、あまり意欲的ではない。みんなで何かを協力して成功させるという「楽しい体験」を先に経験させたい。そうすれば七夕プロジェクトに意欲が生まれるかもしれない。
そこで、次のお誕生日会を5歳児クラスが進行することを提案しました。子どもたちもノリノリで、やりたいと目を輝かせます。
七夕まつりプロジェクト、お誕生日会プロジェクト、同時並行で進めていきます。なかなか実験的な試みですが、こっちもやったことがないことに挑戦する方がワクワクします。この子たちの成長が楽しみです。
誕生日会で何が必要か、何をやりたいか、自由に意見を出していきます。盛り上がってホワイトボードの前まで来てしまうこともOK。ここは学校じゃない。私はまず、意欲を引き出したい。いずれちゃんと座って話し合いができるようになる。大丈夫。焦らなくて良い。毎回毎回評価しなくて良い。卒園式に間に合えば良いんだから。
「パンツのプレゼント」とか「おならのプレゼント」とか「きのこ」とか意味不明な意見も一旦受け入れて書き出します。否定せず、どんな意見も受け入れる。そういう体験を繰り返せば、自分の意見を言う子になる。もし意見を大人に否定され続けたら、何も意見を言わない子になってしまいます。
話し合いを重ねるうちに、「パンツのプレゼント」など不適切なアイデアは自分たちで否定し、消していきました。残ったのは建設的なものだけ。子どもたちだけの力で正しい方向へ歩き出しています。
写真は、お誕生日の子にバースデーカードを渡すところを実際にやってみているところです。お誕生日の子の椅子を用意し、ぬいぐるみをその子に見立てて座らせる。実際の場面に近い形でやってみることで、本番のイメージがしやすくなり、子どもたちでそのイメージを共有できるようになります。
ぬいぐるみは動かないからカードを受け取ることができない。そこで、みんな頭の上に落ちないようにカードに見立てた本を置いています。ちょっとしたふざけ、ちょっとしたバランス遊びです。
これで良いんです。話し合いをしているのではなく、遊んでいるんですから。ここでふざけていても本番でお誕生日の子の頭の上に乗せるわけがない。そんなことする子達じゃないんです。だから今日はこれで問題ない。
保育士側に遊び心というか心の余裕みたいなものがないと、子どもの遊びが広がっていかないんですよね。子どもの意見や行動を、保育士が心の底から楽しめる。そういうのが大事。
ダンスをお誕生日の子にプレゼントしたいというので、子どもたちのリクエストに合わせて曲を流して実際に踊ってみます。
だんだんとこの曲をやりたいという気持ちがみんなの中で統一されていきます。
1人椅子に座っている子は「私、お客さんやる!」と言ってダンスをチェックする側にまわっています。役割分担が始まっています。協同的な遊びになってきているということです。
みんなで踊るって楽しい。
そういう体験が仲間意識を育て、協同的な関わりをしたいと思う原動力になる。子どもたちから出てきた意欲を邪魔せずに膨らませることで、子どもたちは主体性を発揮し、輝き出すのです。
そのためのコツがあります。保育士が笑っていることです。
大人が子どもの姿を肯定し、楽しい雰囲気を共に味わい、笑顔になっている。それが、子どもたちに「これで良いんだ」というメッセージになる。そうすると、子どもたちはまたそういうことをやりたくなる。子どもも保育士も笑顔になる。そのサイクルをぐるぐる繰り返すことで、自分も周囲の人も笑顔にしたいと思える子に育ちます。
これが子どもと保育士が共に主体的な状態。つまり「共主体」の状態です。保育はこの状態の時に良い効果を生む。子どもの主体性とは、保育士の主体性の上に成り立っているんです。
保育士や教師のみなさんがこのブログ読むことも増えてきたので、ちょっと専門的に喋りすぎてしまったかもしれません。すみません。
一通りお誕生日会のアイデアや流れを確認し終わり、なんとなく休憩というか自由な時間っぽい雰囲気になりました。
ダンスをチェックするお客さんをしていた子の膝の上に座り、笑顔を見せる子。その笑い声がみんなの興味を引きつけます。
話し合いというより「話し合い遊び」「お誕生日会の練習遊び」をしてきた子どもたち。すっかり夢中になっていて「遊びのゾーン」に入っているので、テンションが高く、余計なことを考えずに楽しいところへ吸い寄せられていく。
みんなでくっついて座るという遊びになりました。この間まで、制作など個人の活動の時だけ意欲的だった子たちは、みんなで遊ぶことに今、一番意欲的になっています。
一体感!
これがまさに求めていた子どもたちの姿です!
椅子の後ろにひっくり返ったら危ないので、この後椅子の後ろへ保育士が待機して事故防止の動きをすることも忘れません。安全に遊べるようにするのも保育環境の工夫です。
遊びが盛り上がったので、この後何をするかみんなで考えました。歌詞作り、衣装作り、楽器の練習、お誕生日会の練習。なんでも良い。
みんなで出した結論は「遊ぶ」でした。
そうなると思ってました!
いいね。すごく良い。みんなの考えていることは、この仲良しの状態をもっと感じたいということ。楽しい時間を一緒に過ごしたいということ。練習とかじゃないよね。
椅子でみんなでくっついて遊んでいたところから、今のこの子たちは「くっつくこと」に興味関心意欲があることはわかっています。
そこで、鬼に色指定されたフラフープの中に逃げるという遊びを私が提案し、スタートしました。予想通り、くっつくことが面白いので大盛り上がりに。
何回かやると「色鬼がしたい」という意見が子どもたちから出てきました。
「色鬼やろうよ!」
「私、ルールわからない」
「説明してあげて!」
みんなで話し合い、色鬼のルールを説明して理解を深めます。実際にやってみようということになり、ルールを知っている子が鬼になって何度かやってみました。
そのうちに「こういうことか」とみんな理解していきます。
これが主体性の発揮。主体的・対話的で深い学びです。
自分の物語を生きている状態。最高です!
みんなルールを理解した上で楽しんでいます。参加しない子は1人もいません。
鬼が何を言うかをよく聞き、鬼の動きをよく見る。他の子がどこを触っているのかを把握しつつ、自分も部屋の中で指定された色を探す。
色鬼って、前回までの他のチームの歌詞の発表を聞く時と同じスキルが必要なんです。
他のチームが何をしてどんなものを作ったのかをよく観察して、話をよく聞く。他のチームの発表をもとに自分の活動の改善案を探して実行する。
他人に興味を持ち、自分をコントロールする遊びってことですね。
子どもたちは自分の課題を自分たちの遊びで乗り越えていく・・・!
♯5
第五回では、再び合奏の準備に取り掛かっていきます。ミュージックポンプーでは音が綺麗に出ないことがあり子どもたちが苦労していたので、ハンドベルも用意しました。
両方使ってみて、どっちにするか聞いたところハンドベルになりました。当然と言えば当然。ハンドベルは音が綺麗に出ますからね。
打楽器も含め、人数分の楽器を用意しておきました。
誰が何の楽器にするかも、子どもたちが決めていきます。まず「どうやって決めるのか」を決めてから「誰が何の楽器にするか」を話し合って決めていきます。
決まったところで練習タイム。練習の仕方は自由。座っても良いし、立っても良い。
打楽器の人に関しては、どういうリズムで叩くかも指定してません。完全に自由です。
練習というより「その楽器を好きになる時間」だと私は捉えています。決められた通りに再現するのなんて面白くない。あくまでも表現する遊び。音楽に正解はないと私は思います。
打楽器の子から「どこで叩けば良いかわからない」と次々に質問が出たので、みんなで叩き方やリズムを決め、実際にやってみることになりました。ここでも保育士が決めず、子どもが決めていく。
子どもが決めたリズムやタイミングですから、音楽的な理論からすると間違っています。聞いていて心地よい合奏にはならない。だけどそれで良い。綺麗に演奏することが目的じゃなくて「みんなで曲を作り上げること」が目的だからです。
やってみて「難しい」という子に「交換する?」とタンバリンを差し出しています。他人を思いやる気持ちが出てきて、みんなで作り上げたいという想いが膨らんでいきます。
曲はもともと3種類用意していましたが、本番まで時間もないことから1つに絞ることに。話し合って「きらきら星」に決定しました。歌詞については、きらきら星チームが考えた歌詞を採用しています。
初めてみんなで歌っているのでぎこちない。ひらがながスラスラ読めない子もいるので、どんな感じかをみんなで確認しながら歌っているからです。読めない子は耳で覚える。つまり、何度も歌うことで読める子が読めない子に教える形になっている。子どもの対話で育ち合う。これがすごく良い。
合奏・合唱の練習の後は、お誕生日会の練習です。
「くまのぬいぐるみが○○ちゃん!」
「えー、こっちの方が良くない?」
どのぬいぐるみが誕生日の子の誰の代わりなのか。その話題で盛り上がっています。くだらないことで笑い合える仲間って最高。
お誕生日会の練習も着々と進んでいきます。
司会者が「お誕生日の子に質問がある人!」と言えば「はい!」とやりとりを再現して練習する。ぬいぐるみに質問するけど、ぬいぐるみは答えないからみんな爆笑する。そんなやりとりを楽しんでいます。
カードをプレゼントする練習ですが、相変わらずぬいぐるみの頭の上に乗せて楽しんでいます。
後ろで椅子に座っている子で打楽器を持っている子がいますが、これは「太鼓係」です。盛り上げるために、良い感じのタイミングの時に叩くそうです。
子どもっていろんなことを考えるなぁと思いました。
自分たちがやりたいことをやれる。しかもそれが全体の成功につながる。意欲的な集団に変化していきます。
ダンスの出し物をするときに、みんなに説明する係。何を言うかも自分で考えてもらいます。
保育士が手助けする部分と、子どもに自分で考えてやってもらう部分。その住み分けというか見極めが難しいんですよね。過保護になってもダメだし、放任になってもダメ。子育てと同じです。何でもそうですが、バランスが大事。
そして踊る。とにかく楽しみます。
後ろは太鼓係。踊らずにリズムを刻みます。役割分担をしたいというのは協同的な遊びです。自由に自分たちで決めて良いという雰囲気を保育士が作ったので、自由な発想が生まれやすい。大人の言う通りに動く毎日を過ごしていたら、こういう意見は出てこない。
今日やりたかったところまで終わったので、自由時間にしました。すると椅子を並び替えて座り出す5歳児たち。
誰かが先導しているとか命令しているとかじゃない。理屈は分かりませんが、勝手にこんな一体感が生まれてきたんです。
そう。求めていた「一体感」。
「動物電車がやってきたー」と誰かが歌い出し、踊り始めました。みんなで歌い、みんなで踊る。昨年度の生活発表会で乳児クラスが踊っていた曲です。
実は一年前、4歳児クラスの時に七夕まつりの前に行ったダンボール遊びでも椅子を使ってバスを作るという展開がありました。その時は全員での遊びにはならなかった。一年たち、みんなの仲が良くなり、こういった全員での遊びに発展しているのは見ていてすごく嬉しい気持ちになりました。
動物電車は部屋の端っこまで到着。隣の部屋で遊んでいる3歳児と4歳児にドア越しに声をかけ続ける5歳児たち。
この楽しい気持ちを、みんなで共有したい。きっと、そう思ってる。
保育士が気持ちを汲んで、部屋を隔てていたドアを開けます。
突然の来客に喜ぶ3歳児と4歳児。そして5歳児。
自分たちで作った動物電車で学年の境界線を越え、部屋の壁を越え、楽しい気持ちを他の子たちに広げていきました。楽しい気持ちをみんなで共有したい。
すごく素敵な光景。こっちもあたたかい気持ちになる。
4歳児が「つなげる」クラスなら、5歳児は「広げる」クラスなのかもしれません。
以上、第五回の様子でした!
前回から大きく変化していく様子がわかっていただけるんじゃないかと思います。保育士の作りだす「安心」と「挑戦」の毎日で子どもが育ち合う。それがどういうことかわかった気がしました。
何よりも子どもたちの意欲を引き出すことが大切です。それって毎日を「楽しい」って感じることかもしれないし、仲間同士で「笑い合う」ってことかもしれません。保育士も子どもたちも笑い合える。そういう保育園でありたいなぁと、あらためて思いました。
主体性を発揮し意欲も出てきた5歳児。
次回はお誕生日会本番に向けての活動を中心に解説していきたいと思います。