クリスマスツリー作りを通して大きく成長した5歳児クラスの子どもたち。休む暇もなく生活発表会の練習が始まります。

 

練習の合間、1月のある日、近隣の保育園の園長先生のご好意で、野菜の収穫体験に誘っていただきました。なんと、バスに乗って畑まで移動します。

 

青天の遠足日和

コロナ禍になってから園では遠足に行っていない。保育園でのバス遠足はこの子達は初めての体験です。大興奮で収拾がつきません。

隣を走るパトカーに手を振り、窓の外の景色に反応し、ずっと笑っている。

 

もしあの日、水族館に遠足に行けていたら、こういう感じだったのかなと少し不思議な気持ちになりました。まさかこの子達とバスに乗って出かけることができるなんて。

 

協力する姿に感動

1人では大根が重くて持ち上がらない。それを見て自然に集まる仲間たち。せーので引っ張って収穫する。

 

当たり前のように手を貸す。当たり前のように一緒に収穫を喜ぶ。

 

鼓笛、焼き芋の探偵団、クリスマスツリー作りで強固に結びついた仲間意識。もちろん、それだけじゃなく、日々の保育や運動会でのパラバルーンなど一つひとつがこの子達を作っています。

 

太陽、心地よい風、青空

雲ひとつない青空。青空が似合う子達だったんだなと、この写真を見て最初に思いました。空がすごく高く感じる。なんだか未来につながっているような気がしませんか。

 

誘ってくれた園長先生には本当に感謝です。この子達にとってバスでお出かけすることは特別な意味を持っています。子どもって周囲の大人たちの愛で育つんだなとしみじみ思いました。

 

 

それでは、生活発表会編、スタートです。

 

オズの魔法使い

発表会の劇は、教育的効果を考えて担任が選びます。理由があやふやなものは園長が認めません。

 

役を演じるということは、その役を自分の中に取り込むということ。その話を何度もみんなで演じるということは、そのストーリーを何度も疑似体験するということ。子どもは体験で育つ。何度もこのブログで言っていることです。疑似体験とはいえ、その劇の内容は子どもの育ちに大きく影響していきます。

 

担任が選んだのは「オズの魔法使い」。主人公ドロシーがカカシ、ブリキ、ライオンと飼い犬と一緒に、魔法使いオズのいるエメラルドの街を目指して冒険する物語。

 

主人公たちが求めている「知恵」「心(優しさ)」「勇気」をこのクラスの子どもたちに身につけてほしいという理由でした。

 

ペープサートでお話を聴かせます。ストーリーは様々な絵本等を参考に担任と園長で作ったオリジナルシナリオとなっています。既存のものは使いません。あくまでも目の前の子どもたちが成長できるような工夫がある劇を作り上げます。

 

イメージを膨らませる絵

これから役決めをするにあたって、どういう役なのか、どういう衣装なのかのイメージを膨らませるために、役決めまでにはシナリオ、ダンス。衣装を全て決定しています。

 

衣装案の絵を見せ、お話を読み聞かせ、実際のそれぞれのダンスをみんなで踊ってみる。その結果、自分がやりたい役が固まってくる。ちゃんと子どもが選べるようになる。

 

園長が全クラス監修しています。なかなか大変ですが、それだけ質が上がると考えています。一年の最後を締めくくる生活発表会、園長を筆頭に全職員が全力でぶつかっていきます。私が本気にならなければ、職員も子どもたちも本気にならない。

 

役決め

役は子どもだけで決めていきます。鼓笛の楽器決めと同じように譲ったり譲らなかったり、ジャンケンだったり話し合いだったり。それぞれの決め方で進みます。

 

担任と私の中では、この役はこの子になれば素敵だなというのがありましたが誘導はしません。しかし、概ね予想通りの配役となりました。子どもというのは自分の課題を無意識にわかっているものです。

 

どの役になっても必ず主役になれる瞬間をシナリオに入れてあります。鼓笛でいうソロパートですね。全員が輝かないと意味がない。人生に脇役なんていません。全員が自分という物語の主人公です。

 

 

楽しい練習が進んでいく

私は鼓笛の練習を「楽しい」で進めました。それを間近で見ていた担任は、同じように「楽しい」を中心に練習を進めていきます。意欲をどんどん引き出している。楽しいは夢中の一歩前です。

 

シナリオ、セリフ、動き、移動、衣装、小道具、大道具、曲、ダンス、全て担任と私で細かいところまで徹底して決めてあります。その役を演じることでその子が育つように考えているんです。鼓笛がバトンを繋ぐような構成にしたのと同じです。

 

文字通り「劇的に成長できるような環境」の設定、それが生活発表会の劇の練習なのです。普通の保育園ではそんなことは考えていないでしょう。

 

例えば、勇気を出して欲しい子には、1人で大声を出すセリフを入れる。そうすれば自信を持って大きな声で観客に向かって言える子にいつの間にか変わっている。簡単にいえばそういう仕掛けを劇の中たくさん散りばめてあるということです。

 

大人数の園ではまずできませんよね。少人数の園である強みを最大限活かします。

 

台本読みも意味がある

劇の練習時間だけが練習ではありません。空き時間にストーリーを理解し、セリフを覚えられるように、台本を作って渡してあります。夢中になって読む子どもたち。文字への興味を増やし、小学校の音読の基礎を確立します。

 

劇のためだけじゃない、全ては子どもたちの未来のために。

 

6色で虹色

本番で使う虹の背景を子どもたちが手作りします。色は保育園の6クラスのクラスカラーになりました。クラスカラーということは、1色が1クラス。6色で6クラス。0歳児からこの保育園にいる子は、6クラス分(六年間)の思い出を色に託して塗っているということになります。みんなで塗った虹は保育園生活そのものです。

 

オーバー・ザ・レインボウ

オズの魔法使いは、映画化された時に使われたオーバー・ザ・レインボウ(虹の彼方に)という主題歌が有名です。

 

「あの青い鳥が虹を越えていけるなら、どんな困難があっても私たちなら大丈夫よね」

 

英語で言っているから歌を聴いてもピンとこないと思いますが、日本語訳するとサビではそういうことを歌っています。

 

その虹は自分たちの六年間。「保育園の生活を越えていけるなら(卒園したら)別々の小学校に行っても、私たちなら大丈夫だよね。」このシーンはストーリー上で必要であるだけでなく、演じる子ども達にとっても意味がある体験になっています。

 

そして青い鳥は出番ではない子どもたち全員で演じることにしました。青い鳥が飛ぶのを見て勇気をもらうステージ上の子ども達からすると「青い鳥(クラスの仲間)が越えていけるなら私たちだって大丈夫だよね。」という意味になる。仲間の姿に勇気をもらうという意味に変化する。

 

つまり、自分自身のこれまでと仲間に支えられて未来へ進んでいくという2重の意味を込めたシーンにしてみました。この時の子ども達にぴったりだと思ったんです。この話、実は担任にも言ってません。初めて話します。ちょっと恥ずかしいですね。

 

5歳児クラスだけでなく、全クラスの発表内容についてもいろいろ考えています。全てを話してはいませんが、保育園での生活が全て子どもたちの未来につながっていくように私はいつも工夫しています。

 

こんなこと子どもたちはわかんないよ、そう皆さん思いますよね。はい。わかるわけがないです。でも、言葉じゃない、理解を超えた「想い」って伝わるんですよ。1%くらいしか伝わらなくても構わない。100回やれば100%伝わるってことです。問題ありません。繰り返し繰り返し、少しずつ少しずつ、「想い」は伝わっていく。

 

生活発表会本番を間近で見た保護者の皆さんなら、私の言っていることがわかってもらえるんじゃないでしょうか。

 

 

後半の練習はふざけや笑いを封印し、緊張感の中で演じるというモードに。1月は楽しい練習かもしれないけど夢中になれていなかった。子どもが本気になってなかった。夢中になっていないと輝けない。楽しい発表は乳児までです。幼児、それも年長さんであれば、それなりの輝きを求められる。担任にのしかかるプレッシャー。

 

担任は悩み、もがきながら練習を工夫します。子どもたちに「知恵」「心」「勇気」を身につけてほしいのであれば、保育士である自分自身が練習を工夫する「知恵」と一人ひとりを受け入れる「心」と本番のプレッシャーに立ち向かう「勇気」を身につけなければいけない。

 

担任が子どもと一緒に「知恵」「心」「勇気」を探す冒険の旅という側面もあるんです。

 

 

リハーサルにて(はい、チーズ)

2月中旬。やれることは全部やってきました。泣いても笑っても週末には本番がやってきます。心配していたコロナの影響もなく、万全の体制で本番を迎えます。

 

一人ひとりに合わせてサイズを調整し、来た時に本人のテンションが上がるような、かっこいい(可愛い)衣装にしていますが、ギリギリまで微調整を行います。

 

衣装を作る際には着る子のことを思い浮かべながら作るようにしています。愛はモノに宿る。私たちの愛は子どもに伝わる。そう信じています。

 

ちなみに持ち帰りで担任が衣装作りをしないよう、勤務時間内で全職員で作っています。

 

園長の押し付けではダメです。保育士たちが同じ想いで同じ目的に向かって協力しなければ。クリスマスツリーを完成させたいという想いと目的を全員重ねることができた、あの日の5歳児クラスの子どもたちのように。

 

子どもにできて、大人の私たちができないはずがない。

 

開始直前の緊張感

ついに本番です。最初の出番の魔法使いチームがスタンバイ。一人ひとりが万全な衣装になっているかを保育士たちがチェック。

 

一年の中で園児が一番輝く日にしよう。

 

事前に全職員に園長の私がかけた言葉です。必ず成功させる。保育士はあくまでサポート役。サポートできるためのシミュレーションは細かいところまで全部やった。これ以上はない、それだけやってきた。それが私たちの自信となり、子どもたちを安心させる。

 

主役のプレッシャー

主役のドロシー。いつもニコニコ笑っている子が、胸に手を当てて何度も深呼吸をしている。こんな小さな体で、こんなにも大きな責任を背負ってステージに上がる。

 

まだ始まってもいないのに、直前の子どもたちを撮影していた私がいきなり泣くところでした。危ない危ない。泣くなら全部終わって嬉し涙にしよう。

 

涙を堪え、舞台袖から会場に戻り、司会者として保護者の皆さんの前に立つ。

 

さぁ。みんなの力を見せてくれ。君たちなら大丈夫。

 

紹介VTRが終わり、会場の電気がつく。あとは私の一言で始まります。

 

「5歳児クラスの劇、オズの魔法使いです!」