4歳児プロジェクト。前回のダンボール遊びでは、ダンボールを解体してアイテムを作るという遊びが最後に展開されていました。

みんなで遊ぶことが最大の喜びであった4歳児クラスの子どもたちでしたが、個人での製作意欲が高まっていると感じました。いわゆる知的な遊びに興味が移ってきているのではないか。担任と話し合い、急遽、次のプロジェクトに進むことにしました。

 

みんなで木を作るプロジェクトです。

 

#1

 

それぞれが勝手に何かを作っていても、それは主体的・対話的で深い学びにはなりません。そこで、個人の製作意欲を満たしつつ、集団としての成長が見込めるものはないかと考えました。

 

初回の説明

子どもたちが最近興味を持っているものは何だろうかと考え、散歩中の自然物への興味を担任は思い出しました。この時の季節は秋。落ち葉、紅葉の季節です。

 

散歩中にどういう落ち葉があったかを、実際に拾ってきた落ち葉や絵本を使って共有します。季節や自然物への興味関心と製作意欲とみんなで遊ぶことが好きという3つの要素をミックスするという考えです。

 

 

作っては貼り、作っては貼る

その後は各自、作りたいものを作っては木の書かれた台紙に貼っていきます。最初は何を作って良いかわからなかった子どもたちも、じっくり1時間以上かけていくと、いろいろ試行錯誤していました。

 

大きい木の書かれた台紙に、葉っぱを作って貼っていくことで、最終的にみんなで木を作るという目的が達成されるという構造になっています。

 

 

全体としてのまとまりがない

一回目の作品です。落ち葉のイメージは頭の中にありますが、折り紙を使ってどう切ってどう貼れば落ち葉になるのかの設計図が作れないようです。適当に切ったり貼ったりしています。色も葉っぱを意識しないで好きな色を使っているのがわかります。貼る場所も木の絵と関係ない場所に適当に貼るだけです。

 

みんなで木を作るのではなく、自由工作をしたものを、ただ貼っている。そんな状態です。

 

主体的・対話的で深い学びの保育をしようと考える保育士は、みんなで一つのものを作り上げることを計画したりします。しかし、それでは子どもたちの中で対話が生まれず、何もコラボレーションしないまま終わることが多いのです。今回の作品がまさにそうです。一見、みんなで作っているから良い保育ができたと思えますが、改善の余地がたくさんあります。

 

どう工夫すると子どもが変化するのかを「説明と準備の工夫」に焦点を当てながら解説していきましょう。

 

 

#2

 

第二回を行う前に担任の保育士に「説明と準備の工夫」を提案してあります。こういう工夫が欲しいというヒントを与えてありますが、当日にどういう工夫をしてくるかは私も知りません。答えを教えず自分で考えてもらう。子どもに対しても、保育士に対しても、私の中では同じです。目の前の人が成長するかどうかに私の興味があるからです。成功することに興味を強く持っていません。

 

 

二回目の説明

前回の反省を踏まえ、改善点としては以下です。

色の理解というか意識が弱かったので、紅葉している落ち葉の代表的な3色をホワイトボードに張り出しています。3色を明確に示すことで、落ち葉の色を理解しやすくしているんですね。

実際の落ち葉だけでなくイラストも用意することで、子どもたちが作る上でヒントにしやすい形を示しています。写真とイラストでは、どちらが再現しやすいかというと、当然イラストです。デフォルメされているイラストは特徴がわかりやすいのと線が少ないので、工作で再現がしやすいんです。

そして、保育士が実際に紙を切って葉っぱの形を作り出すところを実演しています。作り出す過程を見せることで、見本になるもの、結果として出来上がるもの、この両方の間を意識させます。

 

なかなか考えましたね。

 

さぁ、わかりやすくしてみると子どもたちの作品がどうなるのか見てみましょう。

 

並行遊び

それぞれの作品は前回よりも明確に変化が見られます。作るということに集中しているので、あまり他人に興味はなく、個人の中での工夫という感じです。いわゆる「全集中」している状態ですね。一つに集中力を発揮することで大きな成果を生み出すやり方です。

一緒に作っているようですが、それぞれが遊んでいて交流がないので、これは並行遊びの段階となります。集団遊びにはなっていません。

 

 

二回目の作品

どうでしょうか。葉っぱの色を前回より意識していることがわかります。形も葉っぱをイメージした様子が見られますし、貼る場所も考えているようです。

どんぐりも登場していますね。下にあるのは「落ち葉」だと言っていました。空中にあるのは「落ちている途中」です。

 

「説明と準備の工夫」により、これだけの変化がありました。個人の中の変化や成長を十分に感じましたが、集団として育っていない。ここが次の課題になりそうです。

 

 

 

#3

 

実は第二回で終わりにするつもりでしたが、避難訓練と時間が被ってしまって作業を中断しています。そのため、前回の続きとして第三回を行なっています。

 

 

三回目

第三回では「説明と準備の工夫」を一歩進め、さまざまな秋の自然物を紹介しています。秋のイメージ、木のイメージを膨らませているんです。また、途中だった前回の台紙を今回も継続して使うことで、客観的に自分達で作った「木」を見つめる機会を作りました。みんなで作っているというイメージの共有を狙っています。

 

このように同じ保育をしているように見えても、その時間の保育のねらいがあり、それを達成するための保育士側の準備や環境設定があるのです。そして前回からの流れを踏まえて検討しています。「点」で考えるのではなく「線」で考えるのです。

 

 

他の子のやり方からの発展

同じテーブルの子が折り紙を半分に追って切ることで「真ん中を切り抜く」という手法を用いていることに気付いた子が、真似して自分でやっています。そして、切り抜いた紙を広げて下に別の色の紙をおくことで、形がハッキリ見えることを発見しました。黒い紙の下の黄色い葉っぱが見えていることに感動しています。

 

これが主体的・対話的で深い学びです。真似が良い悪いという議論ではありません、他の子に興味を持ち、やり方や手順を理解して自分で再現して、その上で自分なりの実験の中で新しい法則や興味関心を発見していく。

 

3回目にして集団遊びの要素が現れてきました。

 

 

協力プレイ

自由に自分の好きな遊びだけをさせる保育も世の中にはたくさんあります。しかし、小学校になれば興味あることだけをすることはできません。与えられた環境の中で工夫して「楽しい!」を発見できる子を私たちは目指しています。

 

今まであまり製作系の遊びに興味がなかった子もいます。飽きてしまっていましたが、そこに工作大好きの子がやってきました。

 

「ここに貼ると良いんじゃない?」

「これね、〇〇が作ったの。かっこいいでしょ」

 

笑顔で作品を見ていますね。楽しそうです。こうやって、自分と作品という関係に「全集中」していた子どもたちは、だんだんと周囲の子と作品や気持ちを共有していきました。「マルチタスク」もしくは「スイッチング」ができるようになってきているんです。

 

マルチタスクは同時に処理すること、スイッチングは切り替えて処理することです。幼児の中では高度な能力の発揮です。大人だと朝食を食べながら新聞を読みながら家族で会話をしながら時間を意識する、なんてこともできる人がいますがそういう能力ですね。

 

 

やる気を取り戻す

その結果がこちらです。やる気を取り戻し、自分1人で意欲的に活動に取り組んでいます。

育みたい資質・能力の3つの柱というものがあります。「学びに向かう力・人間性」というのが3つ目なのですが、今回の子ども同士の関わりで、そこが育まれている様子がわかります。

 

落ち葉を上手に作れるかどうかだけでなく、このように「学びに向かう力」が育ったという観点もとても大事な評価基準です。むしろ、これが一番大事と言っても良い。なぜなら、好きなことなら何度もやるので勝手に上手になるからです。大人は結果を求め過ぎます。結果より、プロセスの方が大事だというのは、これも理由の一つです。

 

 

協力する遊びへ

自分の作品を説明し、どこに貼るかを一緒に考え、それを見守る子がいる。バラバラに自分の作りたいものを作って貼る遊びから、いつの間にか協力する遊びに変化しています。

 

 

振り返りが重要

作った作品をみんなで眺めます。作った作品とは自分が作った作品ではなく、「みんなで作った木という作品」ですね。それを今、みんなで噛み締めているんです。

 

ちょっと前までは「個人が作った葉っぱ」の集合体だったのに、気がついたら「みんなで木を作る」というプロジェクトを達成していました。不思議ですね。保育士が声をかけたとか指摘したのではなく、最初の「説明と準備の工夫」をやっただけで、このような変化が生まれました。

 

 

3回目の作品

これが最終的な作品です。立体の作品があったり、鳥が鳥小屋に入ろうとしているとか、クワガタがいるとか、飛行機が飛んでるとか、細かく紹介するのも面白いと思うのですが、長くなったので今日は割愛します。

 

たったの三回で明らかな成長を感じますね。少しずつ年長さんに近づいてきたような気がします。

 

 

 

はい、これがみんなで木を作るプロジェクトでしたが、これは前回のダンボール遊びからの流れで見た方が面白いかなと思って同時公開にしてあります。

 

ダンボールの「お届け物でーす」から始まって、みんなで木を作って終わる。今気が付きましたが、ダンボールの原材料は木材ですからね。ダンボール遊びの終着点が木そのものを作り出す遊びで終わるというのが面白い。

 

ダンボールをちぎって武器を作るという原始的な遊びから、ハサミやテープやのりという道具を使って作品を作るというのも、高度な遊びに発展していることが理解できます。乳児から幼児へ、そして小学生へ向かっている感じがしますよね。

 

何よりも、「自分1人で工夫するのが面白い」と「みんなで関わり合いながら工夫するのが面白い」を両方満たすことができたのも、素晴らしい変化です。

 

さぁ、このクラスも準備は整ったようです。

 

オリンピックで気持ちが一つになった5歳児クラス。

みんなで一つのものを作り上げる喜びを知った4歳児クラス。

 

そして次回は3歳児のプロジェクトを紹介して、その後は345歳児合同プロジェクトという大型企画です。早くそこまで書きたくてワクワクしています。