5歳児による運動会プロジェクト。鼓笛とパラバルーンの練習、そして毎日の「楽しい」の積み重ねでここまでやってきました。「挑戦」がテーマの運動会。いつも主役になれない5歳児たちは、運動会で主役になれるのか。5歳児たちの運動会当日の様子をご覧ください。

みんなでここまで来れた喜び
5歳児だけ他のクラスより先に入場するようにしてあります。運動会は鼓笛からスタートするので、衣装に着替える時間を考えて先に会場入りするのです。
大好きな担任の保育士に抱きしめてもらう。子どもの主体性を発揮させる保育園という印象を持たれがちですが、私たちの保育園は保育士が子どもから距離を置く保育園ではありません。心を通わせ、愛を交換する。保育士として、大人として、当然の行いです。

指揮棒を振るイメージで歩いていますね
全員揃ったところで、本番前に実際の立ち位置や移動の動線を確認する。
事前準備はすごく大事です。前日の準備でも、実際に保育士たちが楽器を叩き、音量とのバランスや観客席からの見えやすさを考えて細かい調整を入れてあります。
そこまでやっている保育園は初めてだと、新しく来てくれた保育士が言っていました。そうだと思います。私は子どもの環境は最高の状態にしておきたい。物理的にもそうですが、それだけ子どものことを考え、努力する私たち大人の気持ちが子どもたちにきっと伝わるんじゃないかと思うんです。

衣装へのこだわり
衣装も細部まで入念にチェックする。とにかく、子どもを輝かせることに全力を尽くす。私たちが本番でできることはそんなに多くありません。安心を与えることと環境を整えることくらいです。
だから、やれることは全部やっておきたい。主役は子どもたちです。私たちは裏方としてしっかりと務めを果たします。

なんだか大人っぽく見える本番前
準備完了。控え室で待機する5歳児たち。現在、会場では園長が保護者の皆さんに挨拶をしています。時間的に、そろそろ会場入りです。
控え室では高揚感と重圧の境目の、良い感じのテンションのまま維持できているようです。
本番の園長は司会と音響を行う関係で、5歳児たちの側には行けない。ステージの上でこの子達を見守ります。

緊張がすごい伝わってくる
園長の紹介を受け、シーンとした会場に指揮者の笛が鳴り響く。
天丼マンの行進でスタート!
なんでもそうだけど、最初が一番緊張します。今日の運動会では鼓笛が最初のプログラムです。まだ会場の雰囲気も温まっていないし、子どもたち自身が会場の雰囲気に飲まれてしまっています。
だけど、それで良い。それが良い。飲まれながら自分自身と戦う。君たちにはその体験を乗り越えてほしい。ドキドキして胸が張り裂けそう。そんな体験は楽しく遊ぶだけの毎日では味わえない。
このドキドキを、思う存分味わって、そして乗り越えてみよう。

かわいいだけで終わるのか、かっこいいところを見せられるのか
立ち位置につき、いよいよ「かわいいだけじゃだめですか?」の演奏が始まります。
終始、顔がこわばっているのですが、そういうものです。楽しいと感じる余裕はないでしょう。戦っているのは会場の雰囲気ではなく、自分自身。敵は自分の中にある。真剣に自分自身に向き合っているのです。
困難な問題を避けてきた5歳児たちが、今、避けては通れない「自分」との戦いに挑もうとしているのです。

自分の内面に向き合う
小太鼓チーム。この表情は自分の内面に意識を集中しているんですね。これまでの練習で身についたものを必死で掴もうとしている。会場の雰囲気に負けず、ちゃんと自分と向き合えているのがわかる。
感覚が研ぎ澄まされて、いわゆる「ゾーン」に入っているんじゃないかと思います。集中力が最大限に発揮されている状態です。

人の数だけドラマがある
中太鼓チーム。真っ直ぐに前を見据えたり、何かを考え込んだり、周囲を見渡して何かを探したり。子どもたちにもいろいろな想いがある。みんな同じ鼓笛の舞台に立っていても、それぞれに違ったドラマがあるものです。
私たちがこの子達の素晴らしい演技を見ることができていることは、決して当たり前のことではありません。家族が病気になって見に来ることができないかもしれないし、どうしても外せない大事な仕事が入るかもしれない。
保護者の方が5歳児の鼓笛を楽しみにしているのはいつも伝わってきています。それに応えたいと子どもたちが思うのは当然のことだと思います。
だから、鼓笛は仲間との絆の発表でもあり、家族の絆を確かめる発表でもある。
私はそう思っています。

かけがえのない思い出
大太鼓チーム。何かを見ているわけじゃない。音に集中している。たくさんの見せ場がある自分たちのソロを一つも取りこぼさないという意思を2人から感じます。
「もう一回」がないからこそ、今の演技に真剣になる。この3分が過ぎたら終わり。みんなで音を合わせた日々はなくなってしまう。
小学校がバラバラになったとしても、この瞬間は永遠にこの子達の思い出になって残り続けるはずです。大人になっても思い出す時が来るでしょう。

理由なんてない
シンバルチーム。どうしてシンバルを選んだの?と楽器決めの時に聞いたら「一番軽いから」と答えていた中央の子。思わず笑ってしまいました。右の子は「隣の子と一緒にやりたいから」と言っていました。この子達に限らず楽器を選んだ理由を子どもたちはいろいろ言いますが、それがその子の気持ちを全て表していることは限りません。
自分たちでも気が付かない「何か」があるのかもしれない。私たちは自分で自分のことをわかっているようでわかっていません。
選んだ理由なんてどうでも良いんです。大切なのは今日、この舞台に立つまでに仲間たちと過ごした日々、そして自分自身に向き合った経験です。
サビ前にシンバルの合図で仲間たちが一斉に太鼓を叩き出す。全体に合図を出す大切な役割をしっかりとこなした2人です。

1人の戦い
指揮者、そしてトリオ。緊張に弱い2人が、たった1人で替えの効かない役割を立派に果たそうとしている。
誰かと一緒にやるのも素敵な体験だけど、1人で立ち向かうのも素敵な体験です。1人でしか学べないことが世の中にはあります。
笛で仲間に合図を出す。他の楽器に先行して1人だけ叩いてリズムを刻む。2人とも失敗した場合にそれがわかりやすく、とても目立ってしまう。逆にうまくいけば、かっこいい。つまり、ハイリスクハイリターンな状況です。
だから「挑戦」は素晴らしい。何かを得ようとすれば必ずリスクがある。どうせなら、やってみよう。そう考えるような子に育ってほしい。
実は私の鼓笛に「失敗」はないんです。決められた叩き方や技がうまくいかなかったとしても問題はありません。私が会場の皆さんに見てほしいのは、この子達の「挑戦」だからです。その「挑戦」は見る人の胸を打つはず。
きっともう、誰かを感動させている。

緊張を仲間が救う
一度全員後ろを向き、指揮者の笛の合図に合わせて1人ずつ前を向いていく。その後に楽器ごとにポーズを決める。中盤の山場が終わったところです。
一度後ろを向くようにしたのはカメラ席ではなく後方で見ている保護者の方や他の学年の子どもたちに顔を見せるため。そして後ろを向くことで会場の広さを感じ、たくさんの人が自分たちに注目していることを認識し、緊張をさらに増すため。
緊張が最高潮に高まった時、指揮者が笛で自分を呼ぶ。そして振り返り安心する。再びカメラ席に向きあい、カメラ席の後ろのステージ上で見守る私と目が合う。
緊張からの安心。その心の動きを表現するための構成です。1人で戦っていたはずが、ここで仲間で戦っていたこと、園長が見守っていることを必然的に思い出すことになる。
そして最後はみんなで大サビで踊るのです。

にゃー!
そして演奏が終わる。「にゃー!」の声でポーズを決める。
一瞬の静寂。
そして訪れる、鳴り止まない拍手。
感動が会場中を包み込む。温かい心で満たされる。
可愛いだけじゃないところをしっかりと見てもらえたのではないかと思います。挑戦が見ている人の感情を揺さぶり、感動を生む。実は、こういう発表って上手だから感動するわけじゃないんですよね。
歌が上手いだけの歌手って人を感動させるのではなく「上手だね」と思われるだけになるとか言いますよね。歌が下手でも人を感動させるような歌手がいます。上手い下手で子どもを導くのではないのが、私の考える保育です。
鼓笛は無事、終了。笑顔でカメラ席から観覧席に戻る保護者の方たち。子どもたちにもきっと伝わっているはず。
自分たちが誰かを感動させたということを。

絆ノ奇跡
012歳児の親子競技、3歳児の発表と続き、4歳児のよさこいの発表になりました。
発表の後に退場曲がかかる。いつも通り全力で会場中をぐるぐる走り回る4歳児たち。
よさこいを踊りきって緊張から解放された最高の笑顔で走る。走る。走る。
私も一緒に全力で走りながら「鼓笛であんなに温かい反応をしてくれた会場の皆さんなら、手拍子してくれるかも」と思いつき、手拍子を促してみたら、皆さんやってくれました。

共主体の保育による行事の在り方
ライブ会場のような一体感の中、みんな全力で走り回り、踊り切りました。
子ども主体ではなく、保育士も主体性を発揮する共主体の保育。これが今の最新の保育の考え方です。子どもも大人も輝く保育。演者も観客も輝く保育。
ああ、この会場の中には温かい人たちしかいない。園長として、すごく幸せなことだなと思いました。
そして、この4歳児の輝きは5歳児がくれたものです。ちゃんと練習しない4歳児に本気でぶつかっていき、一緒によさこいを踊り、走り回った。5歳児がいなければ4歳児の発表は違ったものになっていたはずです。
自分たちが主役になるはずが、やっぱり周囲を輝かせてしまう。それが5歳児の子どもたちなのかもしれません。

エモい写真が撮れましたよ
そして訪れる5歳児のパラバルーンの出番。
4歳児が演技後の写真撮影をしている間、5歳児は自分たちの出番を控え、みんなで心を一つにしています。

僕らはもう1人じゃない
鼓笛を乗り越えた子どもたちは、余裕が生まれています。鼓笛は個人での挑戦がメインでしたが、パラバルーンはみんなで乗り越える挑戦です。
挑戦し、乗り越えると人は本当に強くなる。たった1時間前の出来事だったのに、鼓笛を乗り越えたこの子達には、もう余裕が生まれている。
ここで流れる入場曲は「RPG」。ゆっくりと会場中央に置かれたパラバルーンへ歩いてく。
「怖いものなんてない 僕らはもう1人じゃない」
歌詞が今の子どもたちにピッタリ合っています。

未来をイメージする保育
曲が始まり、一斉にパラバルーンを手に取って5歳児の演技がスタートしました。
今では「最高到達点」という曲を大好きになっています。保育中に口ずさんだり、レジャーシートやブルーシートで歌いながらパラバルーンを再現したり。
やっているうちに好きになることがある。これも挑戦しないとわからないことです。「今」で全て判断するのは勿体無い。「未来」を見据えて保育をするというのは、こういうことです。

違った景色が見えるはず
手を繋ぎ、これまでの日々を振り返る。
特に練習を共に行なっていた担任には、さらに違った景色に見えるはずです。そして、この「運動会プロジェクト」のブログをここまで読んでいただいた方であれば、感じ方が変わるんじゃないかと思います。
このブログでは、この当日に至るまでの過程、裏側のドラマをお見せすることが目的です。メイキングを見ると本編の見方が変わる。違った視点で見ることができる。視点を変えれば今まで見えなかったものが見える。
いろんな角度で子どもたちを見てほしい。この子達には無限の可能性があるのですから。

努力の先にあるもの
「1、2のさーん!」の掛け声が、子どもたちのタイミングを合わせ、そして心を合わせていく。
心が揃わないと、パラバルーンは膨らまないのです。練習を始めた頃は、全然膨らみませんでした。カウントを合わせることを何度も練習し、やっとできるようになったのです。
そして、それを何度も繰り返すうちに、難しかったことが簡単にできるようになっている。なんだって、時間がかかる。最近は大人もそうですが、できるようになる前に諦めてしまう傾向にあります。
向いていないとか、自分に合わないとか、どうせできないとか、なんのためにやるのかとか、体調が悪いとか、人は言い訳をし始めるとキリがありません。それでは乗り越えることができない。
行動することが大切です。努力の先に新しい世界が待っているのです。

飛ばしたいから飛ばす
花火。ものすごい高くまで打ち上がる花火に、会場中がどよめきました。これも全員のタイミングが揃っていないと高く飛びません。
これだって、高く飛ばそうという指導はしていません。子どもたちが高く飛ばしたいから練習の中でこうなっていったのです。

挑戦に必要なもの
最後の大技、ダブルバルーン。
一つ目のバルーンの下に半分の子どもたちが潜り、もう一つのバルーンを綺麗に広げる準備をする。音楽に合わせて2つに分かれ、バルーンを広げる。そして膨らませる。
半分の人数で膨らませるのは難しいのですが、見事に2つのバルーンを膨らませることができました。
挑戦。それは結果がちゃんと評価できるものでなくてはなりません。成功するしないに拘らず、目標や到達点がわかりやすくなければダメです。
明確にこうすればここに辿り着く。そういうイメージがなければ努力にならないので挑戦の雰囲気が出ないのです。どこまで到達すれば良いのかをはっきりさせるのが大事です。

最高到達点
全ての演技が終わり、カメラ席の保護者の前に集まり、ポーズを決める。
みんなで叫ぶ。
「さいこう、とーたつてーん!」
そう。ここが、君たちが駆け上がってきた「最高到達点」!

笑顔の連鎖
全ての挑戦が終わり、最高の笑顔を見せる子どもたち。
向かう先は担任の保育士。その笑顔は担任に向けられる。もちろん保護者の方に見てもらいたい気持ちは大きいと思います。だけどその前に、一緒に日々を過ごしてきた担任に自分たちの頑張りを、喜びを伝えたい。
担任も同じ笑顔を向けているはずです。
子どもを褒めるのではなく、尊敬し、感動を伝える。一緒に喜べる。練習中も本番も変わりません。子どもに必要な大人ってこういうことなんじゃないかと思います。

アンカー同士のデッドヒート
最後の種目は4歳児と5歳児が合同で行うリレー。最後のアンカー同士の対決で、抜いたり抜かれたりの熱い勝負が繰り広げられました。
5歳児が最後まで会場を沸かせます。

勝ち負けがもたらすもの
勝ち負けのない運動会も良いけど、こういう表情も私は欲しい。勝っても負けても、何か得るものがあるはず。
戦わない人は成長しません。
戦うというのは他人とではありません。自分と戦う体験が必要です。
それを人は「挑戦」と呼ぶのです。

閉会の言葉
「たくさんの応援、ありがとうございました!」
みんなの応援があったから、温かい雰囲気があったから、ここまでの発表をすることができました。子どもたちにもなんとなくそれがわかっています。
運動会は、子どもと保育士、そして保護者の皆さんと一緒に作り上げるものなのです。

運動会って何なんだろう?
運動会って何なんだろう?そこまで頑張ってやるものなのだろうか?
その疑問は常に抱き続けています。
全国的に「頑張らない運動会」「練習しない運動会」が増えてきています。保育園、幼稚園だけでなく小学校でもそうだというニュースを見ました。
「楽しければ良い」という風潮は「可愛いだけで良い」というのと似ています。ですが、努力を否定する教育は、もう教育ではないだろうと思うのです。私は「努力が楽しい」という体験を子どもたちには味わってほしい。
「楽しい」と「努力」は共存します。それをわかっていない人が多い。努力は苦しいものじゃないんです。それを子どもたちが私たち大人に教えてくれたような気がします。
私も大変でしたが楽しい毎日でした。「楽しむ」という気持ちが大事なんだと思います。全ては捉え方次第。「大変」と「楽しい」も共存する。それをたくさんの人に伝えたい。
子育ても保育も「大変」だけど「楽しい」のです!

みんなで乗り越えた運動会
運動会が終わった翌週。345歳児はみんな一緒にパラバルーンを一曲やってみました。意外とできるものですね。
最高到達点は、5歳児だけが目指すものじゃなかった。3歳児も4歳児も保育士も、そして保護者の皆さんも5歳児が最高の舞台に引き上げてくれたのかもしれません。

最後のプレゼント
みんなで描いてみた運動会。
ステージの上で司会と音響をしながら見守っていた私を描いている子が何人かいます。こんなことは今までありませんでした。あの子達の鼓笛の思い出に、私が存在しているんですね。挑戦する5歳児を見守る安心の大人のイメージ。
「安心」と「挑戦」のサイクルで子どもは育つ。その言葉を思い出しました。
どうしても主役になれない5歳児。
運動会の経験を通して、ついに主役になることができました!
誰もが物語の主人公になれる保育園。
これからも、そんな保育園を目指していきたいと思います。






