お化け屋敷プロジェクトもついに最終回です。5歳児が取り組んだ全12回の活動の集大成となります。ぶつかり合い、学び合い、共に成長してきた子どもたち。どんな結末を迎えるのかを一緒に見ていきましょう。
それでは最終回、どうぞ!
♯12
第12回(最終回)。
気分を盛り上げるため、お化け屋敷を行う前に園長が「怖い話」と「肝試し」を行いました。
部屋を暗くして、ろうそく(みたいなライト)を灯し、低い声で「怖いな怖いなー」と言いながら話をします。オチは「あ、くまの人形!(悪魔の人形)」みたいな感じで、怖くないんですけどね。
「全然怖くない!」
「ダジャレじゃん!」
大盛り上がり。つかみはオッケーです。
次は「暗くした倉庫に行き、奥にいるお化けにお札を貼ってくる」というルールの肝試し。
肝試しの目的は、お客さんを怖がらせるというイメージを共有すること。もう一つはライトの使い方の見本を示すこと。あくまでもお化け屋敷プロジェクトが本番です。
さぁ、このあとはお化け屋敷の準備に取り掛かります。
貼っては剥がされ、壊されてきた「ろくろっ首」。最後、もう一度自分自身で確認しています。
「なんか、直されてる」
いつの間にか誰かが直してくれたことに、あらためて気がついています。劣等感で自分自身の心を閉ざしていた時には、こういうところに気がつく余裕がなかったのでしょう。
こちらも同じ。前回お休みしたので、袋のお化けが見つかって修理されたところを見ていません。だけど、仲間から事前に見つかったという話は聞いていたみたいで、実際にどこにあるのかを探しています。
自分がいない間に仲間が見つけて修理してくれた。その事実が嬉しい。
心を癒す魔法のベンチ。当たり前のように2人で運ぶ。
このベンチのおかげで引きこもりが解消された女の子がいたり、逆にベンチの位置で揉めたりもしましたね。その思い出のベンチを3歳児と4歳児の休憩場所に設置します。
看板チームの作った看板。前々回、落とし物だった看板です。
お化け屋敷のルールが書いてあるようです。あらためて仲間の作った作品を眺めています。
みんな今日が当日であることにワクワク、そしてドキドキしている様子が会場にいる私にも伝わってきます。程よい緊張感。鼓笛を思い出す。
骸骨のバス。実は体調不良で骸骨バスの作者の男の子はお休みです。
みんなが喧嘩している時に作っていた骸骨。誰よりもお化け屋敷に向き合った子の想い。
休みだけど、その気持ちは仲間が引き継ぐ。責任を持って準備をする仲間たち。
準備のためにダンボールの中に入ると、傾いている装飾を発見しました。
「ここは何もないな」
え?傾いている看板を無視するのか?
一度スルーしたけど、思い直して戻って傾きを直す。
「これでよしっと」
積極的に他の子が作ったものに手を加えることは今まで一度もなかった。そんな子も直前の雰囲気に押され、しっかりとクラスの一員として仕事をしている。
こういう地味な成長、いいですね。ちゃんと私は見ていましたよ。
ゴムパッチンの最終調整。
前回の最後に「しっぱいしたっていいんだよ」で生まれ変わったけど、あくまで今日行うのはゴムパッチンをする役になっています。内面が変わったとしても実際の行動として、お化け屋敷の活動にふさわしい形になっていません。
だけど私からは何も声をかけません。自分の力で、自分たちの力で乗り越えるところを見せてほしい。私は君たちを信じているんだから。
会場設営が終わったら各自ライトを付けていきます。
どういうところに設置するべきかはリハーサル済み。一度体験しているからイメージはみんな持っている。だけどライトの数は限られています。
どこにつけるべきか。みんな真剣に考えながら設置していきます。
自分以外の人が作ったものにライトをつけていく。
仲間の作ったものを暗闇で光らせる。
お互いがお互いを輝かせる。このプロジェクトがそうだったように。1人ではここまでできなかった。みんながいたからここまで来れた。
また揉めていますね。肩がぶつかったみたいな小さい出来事からのギクシャク。
静かに話し合う。大きな声を出すわけでもなく、責める口調にもならない。ふざけることもない。ふざけて関係ない子を犯人扱いしてみんなから非難され、ペンでダンボールに穴をあけた2人。
相手を気遣いながら、気持ちを整理しながら、ゆっくりと言葉を選んで話し合う。
話し合って2人で仲直り。
「ここに付けるのはどう?」
「いいね」
ふざけることもなく、八つ当たりすることもなく、相手を傷つけることもなく、ちょっとした揉め事は話し合いで解決できるようになりました。
前回のラストで貼り直す約束をした「失敗したっていいんだよ」の紙を貼ってあげる男の子。
第4回で踏まれてくしゃくしゃになった紙をダンボールに貼り直してくれた恩返しになっています。その時に嬉しかった思いは時を超えて恩返しという形で表出される。
プロジェクトになると、うまい具合に収まっていくんですよ。不思議です。
全員で完成したお化け屋敷を見てみる。自然に笑顔になる。
いろんな思い出がここには詰まっています。
何度もぶつかり合って、一緒に乗り越えて、ここまで来ました。
後はお客さんを迎えるだけです。
最後に再び、ガムテープの包丁をゴミ箱お化けに託す。
人を傷つけることのない、柔らかい包丁。もう傷つけ合うことはない仲間の印。
これまでの様々な思いがここに詰まっている。
廊下では3歳児と4歳児が待機しています。
「5秒前、4、3、2、1」
カウントダウンが部屋中に響き渡る。
「0、お化け屋敷スタートです!」
案内係が勢いよく扉を開ける!
いよいよ本番です!
案内係が最初のお客さんを受付に連れてくる。
受付係がチケットを確認して渡す。
ドア係がドアを開ける。
リーダー格3人の連携プレイが炸裂します。
混雑具合を見て入場制限をするために状況を受付側から整列係に伝えたい。だけど、距離があって整列係まで言葉が届かない。
「誰か、案内係になってよー」
「オッケー」
臨機応変に案内係を増やして対応します。さっき静かに喧嘩して仲直りした紫の服の2人が案内係です。誰かの影響を受けて動いてしまう傾向にあるということは、プラスの刺激にも反応するということ。つまり周囲が適切な行動をしていれば、この子はそこに反応して相乗効果で集団を輝かすことができるタイプなんです。
輝き方は一人ひとり違って良い。その子なりの輝き方を保育士は見つけていって欲しいなと思います。
骸骨バスの運転手がいないので、お化け役がバスを動かしています。
脅かすより、今日お休みの子の作った骸骨バスを優先しているということです。仲間の絆の方が大事。いいですね。
2人ずつの入場では時間がかかりすぎると判断し、3人ずつの入場にルールを変更。ちなみに保育士は何もしてません。本当に何も。全て5歳児たちが自分で考え、話し合い、その場の判断で動いています。
すごい!すごすぎる!
カメラを持つ手が震えます。
整列係はゲートの役目も果たしているようです。ここまで詳しく仕事内容を事前に決めていたわけじゃないけど、2人でその場で考えて、そうしているみたいですね。
ゴミ箱お化けのゴミ箱は何回か出たり入ったりを繰り返すことで破損。修復不可能なレベルになりました。
その場所をお化けの待機場所として活用することを思いついたようです。お化け役の男の子たちがここで待機し、お客さんが来たら脅かしに行きます。
「ここね、お化けみんなのお家なんだよ」
そうか。ゴミ箱はもうないんだ。ここはみんなの家なんだね。
そして、ゴムパッチン兄弟も今まで作ったお面を使ってお化けをやっています!
やった!こうなるのを待ってたよ!
ゲートが開く。次のお客さんがお化け屋敷に入場します。
お姉さんの作ったアーチの下を3歳児と4歳児が通っていきます。
しっかりと繋がれた手。
このプロジェクトで作られた絆の証です。
写真を撮っていたら、顔を赤くした笑顔の2人から叩かれました。
「撮らないでよ!」
恥ずかしいみたいですね。
お面にライトをつけて目を光らせるというアイデア。作ったのは前回のラストで生まれ変わった男の子。当日の、しかも終わりかけの時間に、最高のお化けのお面を作り出すことができました!
元々左の子が第2回で作っていたお面に、嫉妬した子が作っていたセロハンテープの透明な目を付け足しています。仲間2人の作品を組み合わせるアイデアを出したのがこの子です。
自分で満足のいくお面を作る必要なんてなかったんだ。仲間と一緒に作り出せばよかったんだという結論。
1人で失敗したっていいんだ。だって、みんなで作れば、こんなに素敵なものができるんだから。
3歳児と4歳児全員を招待した後は、幼児クラスの保育士たちも招待します。保育士たちにもお化け屋敷の内容は内緒にしていたので、何も知りません。
「こんなにすごいとは思わなかった」
「これを子どもたちだけで?」
素直な感動を、そのまま子どもたちに届けてもらいます。鼓笛の最後でも触れましたが、子どもは褒めるより大人の感動を伝える方が心に響きます。感動には嘘がない。魂が震える瞬間には説得力がある。
整列係はすることがなくなったので、壁の外側からジャンプして脅かすお化けをすることにしたようです。しかも2人で。
楽しさを身体中で表現しています。全員が楽しみながら、やるべきことを行い、そしてちゃんとお客さんを楽しませている。
男の子たちが作ったお化けのお面も譲り受け、カメラに向かってハイポーズ。
誰が作ったとか関係ない。お面はみんなのもの。
そう。これは、みんなのお化け屋敷なんだ!
終わった後、3歳児と4歳児が話があるというので5歳児は整列して座ります。
そこで「○○ちゃんの隣が良い」という理由で小さな喧嘩をする子たち。
それを他のみんなで諭します。
「誰の隣でも良いじゃん。みんな仲間なんだから」
「今日はさ、特別な日だから、喧嘩したくないんだよね」
「そうだよ、みんなで楽しもうよ!」
喧嘩していた2人も笑顔に。
特別な日か・・・。本当にそうなったと私は思いますよ。
扉が開くと3歳児と4歳児から「今日はありがとう!」の言葉が。
「どうしたしまして!」
素直に返事をする5歳児たち。
5歳児たちを誘いに来る3歳児と4歳児。
「え?何?!」
「どこいくの?!」
隣の部屋では3歳児と4歳児が考えたキャンプごっこの遊び場が用意されていました。
学年関係なく、一緒に遊ぶ子どもたち。
最後は3クラス合同で仲良くキャンプごっこを行い、お化け屋敷プロジェクトは幕を閉じたのでした。
お化け屋敷当日は、5歳児クラスにとって特別な日。
午前中はお化け屋敷。午後は自分たちで薪を割って火をつけて、全園児に行き渡る焼き芋を焼いてみんなで食べる。夜はキャンプファイヤー。行事として特別な日であることは間違いありません。
5歳児たちから「今日は特別な日だから」という言葉が出たのは驚きました。焼き芋やキャンプファイヤーがあるから、というのもあると思いますが、やはりお化け屋敷プロジェクトの最終回だったということも大きいんだろうと思います。
お化け屋敷は大成功!
素晴らしい1日になりました。
以上です!
いかがでしたでしょうか。お化け屋敷プロジェクトを全12回、フルで解説してみました。こうやってあらためてまとめてみると、非常に内容の濃い物語になったなと思いました。
テーマとなったのは「失敗から学ぶ」というところでしょうか。間違えたらダメなのではなく、間違うから成長する機会が生まれる。失敗する体験こそ成長に必要な要素なんですね。
大人はつい「失敗しないように」「人に迷惑をかけないように」「お友達を傷つけないように」という視点で判断したり、声をかけたり、叱ったりしてしまう。だけど、そうじゃないやり方もあるということを解説してみたかったんです。
「やってみよう」「しっぱいしたっていいんだよ」
これらの担任の想いがしっかりと子どもたちに浸透していく姿も伝わったのではないかと思います。毎日を一緒に過ごす保育士が子どもに与える影響は大きい。プロジェクトばかりを解説していますが、日常そのものが重要です。プロジェクトの様子は保育園生活の一部を切り取っているに過ぎません。
それから、もう一つ意識して解説したことがあります。子どものあまり良くない行動や喧嘩も、よく観察していれば理由があるということです。子どもが理由なく他人を傷つけたり物を壊すということは基本的には考えられません。しつけのために叱るということも必要ですが、まずは「なぜそれが起きてしまったのか」「今どういう気持ちなのか」を保育士が理解しておくことが重要です。そういう大人に育てられれば、失敗してしまって「不安」な時に大人から「安心」をもらえる。
大人が子どもの行動をただ叱るだけでは「失敗したっていいんだ」と思わなくなるから「挑戦」しなくなる。成長が止まってしまう。そして「失敗しないように」生きる術を身につけていく。ゴムパッチンで誤魔化すとか、物や人に八つ当たりする方法でやり過ごそうとする。
子どもが失敗を恐れずに挑戦するためには、大人が「失敗を肯定的なもの」として捉えている必要があるんです。
お化けは怖い存在だけど、子どもたちはみんなお化けが好きです。失敗は怖いけど、失敗を肯定的に捉えていくプロジェクトの過程は、まさに人がスリルを求めて怖いお化け屋敷を楽しむのと同じことなのではないでしょうか。
長い物語になってしまいましたが、なんとか完結させられました。だけど次のプロジェクト、もっと壮大な物になりそうなんです。
次回、2歳児3歳児4歳児5歳児の総勢40名以上で展開する前代未聞の合同プロジェクトを解説します!