今年度は5歳児の鼓笛についてまとめてみようと思います。当園では運動会で年長さん5歳児クラスが鼓笛をやるのは定番となっています。
担当するのは私、園長が自ら行っていますが、園長業務をやりながら行うのは本当に大変です。大変だけど、やる価値があるんです。今回のシリーズも、子どもたちの輝きを感じていただける内容になっていると思います。
どんな素敵なドラマが生まれるかわからないからカメラは回し続けていました。いつもより画像が不安定なのは、動画からキャプチャーしている画像を使っているからです。
それでは、行ってみましょう。
運動会まで一ヶ月半。タンバリンでのリズム遊びなどを経て、初めて楽器に触ります。各自、やりたいものを選ぶ。途中で楽器を交換しながら、音を確かめていく。
先日、別の園で働く保育士の方に「鼓笛はどうやって担当する楽器を決めているのですか?」と質問を受けたので「子どもたちだけで決めてもらっています。」と答えたら驚かれていました。
大人で決めてしまうなんてつまらないと私は思います。子どもの可能性を大人が決めつけるのは良くないし、何が起こるかわからないから面白い。
「じゃあ、その子がどうしてもその楽器をうまくできなかったらどうするんですか?」と聞かれたのでこう答えました。
「教え方が正しくて練習が楽しければ、どんな子でもできるようになるんですよ。」
まぁ、楽譜も読めない打楽器の経験もない素人の私の意見ですけどね。だけど、子どもを伸ばす工夫については誰にも負けません。そう思って、そう思い込んでやっています。
そしてやってくる、楽器決めの日。
やりたい楽器のところに座ってと言ったら、すんなり決まりました。
「えー?!本当にいいの?」と驚く私と担任。
「いいの!いいの!いいの!」の大合唱。
事前に子どもたちだけで話し合っていたそうです。誰かが中心となって話したとしても最終的に全員が納得しているのがすごい。押し付けや不満が一切ない。
これはこちらも気合を入れないといけないですね。子どもたちのやる気に負けないように。
曲をどうするか。構成をどうするか。隊形移動、ソロパート、それぞれのリズム。決めなければいけないことは多い。楽器をやったことがない素人の私だからこそ、がんじがらめの音楽理論を無視して教育的な内容で組み立てることができます。何も参考にしません。全てオリジナルです。
実際に太鼓を叩きながら、各楽器のリズムや全体の構成を考えていきます。
まず、曲についてはすんなり決まりました。
七夕まつりプロジェクトの合奏と合唱でうまくいかなかった「きらきら星」と、お誕生日会プロジェクトでみんなで踊った「Bling-Bang-Bang-Born」。今年は2曲でいこうというのは、七夕まつりが終わった時から決めていたのです。2曲とも子どもたち発信ですので、保育士の押し付けにもならず、子どもにも意欲がある。このクラスでやるなら、この曲しかない。
2曲やるのは今までにない試み。大変になるのは間違いありません。
だけど、その方が面白い。常に新しいことにチャレンジしないと自分自身の成長はありません。これは子どもたちのチャレンジであり、私のチャレンジでもあるのです。子どもがチャレンジするのに大人の私が安全なところからやるのはフェアじゃないと思います。私もリスクを背負って子どもと一緒に乗り越えていくようにします。
構成やリズムは、全て楽器の担当が決まってから考えています。担当する子の顔を思い浮かべて、この子ならやれるんじゃないか、喜ぶんじゃないか、あえて少し難しくして成長を促そう、この子たちなら合わせ技が良いだろう。そんなことを考えながら決めていく。だから楽器が決まってから次の練習までの短い時間の中で原案を作っています。
結構しんどい作業ですが、子どものことを考えながら作らないと意味がないので、仕方がありません。
そして練習をしながら微調整をしていきます。子どもたちから出たアイデアを取り入れたりして、子どもたちと一緒に作り上げていくのです。保育士が教えるんじゃなくて、子どもと一緒に曲を作り上げていく。コラボレーションを楽しむように指導していきます。
基本的には私が全体指導を行い、担任が個別にサポートに入ります。得意不得意があるから、どうしても同じペースで進めると習得に時間がかかる子が出てくる。これは当たり前のことです。その子が下手なんじゃなく、習得までに時間がかかる子なだけ。そう思って接するのが指導のコツです。
私は運動が本当に苦手で鉄棒の逆上がりを小学生の時にすることがどうしてもできなかったんです。夜中に何日も公園で特訓したけどできるようにはならなかった。クラスでできないのは私だけでした。しかし、23歳のとき、軽い気持ちでやってみたら、できたんです、逆上がり。私は逆上がりができないダメな子だったんじゃなくて、他の子より15年くらい習得が遅い子だったんですね。
鼓笛だってそれと同じです。できないことの悔しさはよくわかってる。だから、人より劣るところがいっぱいある私が「君はできる」ってことを必ず証明してみせる。
そんな私の熱い想いなんて、子どもたちはもちろん知りません。熱く厳しく指導するのは中学高校くらいの部活で良いと思っています。幼児ですから、楽しくないと意味がない。
子どもたちは練習前にはノリノリで踊っています。
2曲披露する前に、入場門から発表の位置まで演奏しながら行進します。去年まではドラムマーチでやっていましたが、今年はドラムマーチに似ているリズムでアンパンマンに出てくる「天丼マン」の曲を子どもたちが歌い出したので、そっちに変更しました。
「てんてんどん、てんどんどん」
子どもと一緒に作る鼓笛です。幼児だし、こっちの方が断然良い。採用です。
家庭の都合や体調不良でお休みする子も出てくるから、練習内容や進行スピードもその日によって微調整しながら進めていきます。
楽器の中で一番難しいのは3つの太鼓がついているトリオ。子どもは「3だいこ」と呼んでます。難しいからみんなの憧れの楽器でもある。
だけど、うまくできない。みんなができているのに自分だけできていない。プレッシャーがのしかかる。みんなで踊るお遊戯やダンス、パラバルーンと違って、鼓笛は自分が失敗していることが確実にわかる。自分に向き合う時間になっていく。
だからこそ、練習終わりには開放感と達成感がやってくる。輪になって踊る。歌う。
喜びは仲間と分かち合う。やるたびに、仲間意識が芽生えていく。
太鼓に興味がある2歳児クラスの子達。興味津々で集まってきました。本当は練習時間になっているけど、声をかけずに待ちます。
叩く様子を見せる5歳児たち。喜ぶ2歳児たち。練習時間が少なくなることより、こういう交流の方が大事に決まってる。
うまくできない大太鼓の子に「代わってあげようか?」と小太鼓の女の子が提案し、この日から大太鼓と小太鼓を交換しました。どうやら、重すぎて肩が痛いことが気になってうまく叩けなかったようです。
「本当にいいの?」と聞くと「いいよ。」と言って大太鼓のパートを完璧に叩いて見せてくれました。すごい。
双方納得であれば、無理にやらずに交換するのが一番良いかもしれません。
しばらく休んでいた小太鼓の子が大きな音が苦手で太鼓の練習に不安がある様子。それを見て「じゃあさ、みんながいつもより優しく叩けば良いじゃん」と提案。採用されました。
その直後の写真。良い顔をしています。
問題が発生すれば、子どもたちの提案で解決していく。保育士主導の鼓笛の練習のはずが、子どもたちが主体となって解決していく。
行事の練習のはずが、これもプロジェクト保育になっているんです。主体的・対話的で深い学びの保育です。
というわけで、左の端っこは大太鼓から小太鼓にチェンジした子、右は大きな音が苦手な子。中央は優しく叩くことを提案した子。これが小太鼓チームです。
後ろで中太鼓チームが踊っています。寝てる子もいるけど。小太鼓だけが叩いてみる時間には、他の楽器の子達が踊ったり、笑ったり、雰囲気を明るくしてくれているんです。演奏する子が緊張しないように。優しい雰囲気が部屋を包み込みます。
トリオの子。やはりうまくできない。周りの子が和ませているけど、それすら気が付かないほどテンパっている。
大太鼓チーム。新しく大太鼓になった女の子がリズム感があるので、男の子の方も合わせて叩けるようになってきた。良い変化が出てきています。
しかし、この写真の注目は大太鼓ではありません。右奥に注目。
トリオの女の子が力尽きてうなだれています。駆け寄る仲間たち。全然できないことにショックを受けています。子どもたち同士でなんとかしようとしているので、まだ私たちは動きません。介入すべきかギリギリを見極めます。安易に声をかけません。
本番3週間前のリハーサルのリハーサル(通称リハリハ)。叩くタイミングや構成を間違えまくる。自分たちでもわかる、うまくやれていない感。明らかにできていない。その事実をみんなで共有する。
本番までまだ時間がある。ここで大失敗を経験しておいた方が良い。私の判断で助けたりはしません。
保育士たちはリハーサルで成功させようとすることが多いけど、このタイミングであれば失敗した方が良い。人生はそんなうまくいかないんだから。成功だけ体験させて育てると、失敗しないように生きる子になってしまう。
大切なのは失敗しても努力と工夫と仲間の協力で成功まで辿り着けるというプロセスを体験すること。挫折は大人になる前に経験しておく方が良い。
ここから君たちの大逆転劇が始まるんだから。今は悔しさと不安を感じていれば良いんです。
逆に、3歳児と4歳児の発表は良い感じ。5歳児は鼓笛だけでなくパラバルーンも運動会で披露するけど、そっちもうまくいっていかなかった。
保育士たちから感想をもらう時間ですが、5歳児は心ここに在らず。
あと3週間で本番です。ここから5歳児たちはどうなっていくのでしょうか。
以上、鼓笛の練習の様子の前半をお届けしました。最初は楽しいだけでやれていたけど、練習が進むにつれて実際に結果を出さなければいけない状況になってきて子どもたちは不安と向き合い、工夫しながら乗り越えようとする様子を解説させていただきました。
子どもに苦労させず、簡単な課題を与えて褒めるだけの保育や教育では、子どもに真の力がつくわけがない。失敗から乗り越えていく体験をさせたい。だから、構成やリズムについてはそんな簡単にできるレベルの内容にはしていません。
ジャンプしても届かない目標はダメですが、手を伸ばせばギリギリ届くかもしれない目標設定にする。それが子どもを一番伸ばす難易度設定です。
七夕まつりでうまくいかず、リハーサルでもうまくいかなかった。運動会本番が近づいてくる。追い込まれた子どもたちが自分たちで乗り越えようとする様子を後半でお届けします。