様々な困難を潜り抜け、すっかり仲良くなった3歳児。しかし、七夕まつりプロジェクトはダンスの発表です。まだダンスについては何もやってません。仲良くなるのに時間をかけたので、第四回でやっと準備に取り掛かります。まずは衣装作りからです。
♯4
用意したどんぶりをかぶり、丸く置いたセロハンテープの周りをぐるぐるみんなで走り回る3歳児たち。すっかり仲良しになりましたね。コマの興味から派生した「回転」の興味からの「ぐるぐる回って走る」というやつです。
衣装をどうしようかなと考えていたんですが、これまでの子どもたちの遊びの様子から私たちが導き出した答えは「カツラ作り」です!
様々なドラマを生み出した心を繋ぐセロハンテープ
愛の交換をすることで絆が深まった三つ編み
この2つの要素を組み合わせて「カツラを作るしかない!」と思いました。当時、通常の保育でも美容師さんごっこなどがたくさん行われていて今の子どもたちの興味関心的にもぴったりです。セロハンテープを使うのも好きですし。
保育士のみんなもノリノリで準備をしてくれました。これは楽しそう。
あえてテーブルは使わず、コミュニケーションがとりやすい形にしてみます。簡単な作り方だけ説明して、あとは自分たちでチャレンジです。
髪色を何色にするのも自由だし、どこにつけるのかも自由です。
理解が早い子はどんどん作りますが、あまり制作が得意でない子はピンときません。もちろんこういうのを作ったこともないし、構造というか仕組みがわからない。
一般的には乳児クラスだと平面の制作が多い。3歳児になってすぐのこの子たちは立体を捉える力がまだ弱い。ちょっと難しかったかもしれません。
4歳児や5歳児には衣装を自分たちで考えて作ってもらいましたが、3歳児はある程度保育士側で決めてあげないと進めることができません。保育士主導と子ども主体のバランスがすごく難しい。
だからできる限り、子ども同士の力で進めてもらうようにする。極力、保育士は手伝わない。
そうすると、苦手な子は得意な子に聞きにいくようになります。真剣な表情で説明を聞き、どうやって作っているか実物を見させてもらいます。
「わかった!ありがとう!」
三回の遊びで仲良くなったからこそ、こういう関わりが生まれるんです。
「こうやって、こうやるんだよね」
「うんうん」
教えてもらうだけでなく、助け合って作っていきます。
ちょっと作っては鏡でチェックする。それを仲間と一緒に行う。その姿に笑い合い、もっと作ろうと思う。
これまでの遊びを通して心の距離が近くなったからこそ、活動そのものに向き合えるんです。個別に作ることすらみんなで楽しめる。
一度集合して、上手にできている子を見本としてみんなに紹介してみます。
わかってなかった子も「そういうことね」という顔をしていますね。
楽しくなって走り出す子が1人現れると、それに釣られていろんな子が走り出してしまいます。制作が全然進みません。
通常の保育と違ってプロジェクト型、つまり保育士が叱ったり指示したりせずに自分たちで考えてやる時間ですので、今この子たちがやりたいのは「走ること」になってしまうと走ることが止まりません。
これを見てダメだと思うかどうか、ですよね。子どもが保育士の用意した活動に乗ってこない。この場合、基本的には興味関心が間違っているか、難易度が間違っているかの二択になる。
今回、興味関心はバッチリでしたが、難易度が間違っていたということです。私が想定していたよりも制作スキルが育っていませんでした。スキルがなくてもセロハンテープの興味で乗り越えるかなぁと思ってたんですけど、なかなかうまくいきませんね。
こうやって保育士側も間違えながら学んでいく。ピッタリきたり間違ったり。それを繰り返すことによって、子ども達の姿を少しずつ正確に捉えることができるようになっていくんです。大人も失敗を恐れてはいけません。
床にセロハンテープ台があるのに走り回るのは危険なので、テーブルとイスで制作をする環境に変えてみました。
環境を変えたことで手元に集中しやすく、また意欲的にカツラ作りに取り組みます。
叱るのではなく、環境を変えることで修正する。環境による教育とはこういう感じです。
そもそもカツラを作るというふざけた企画ですから、被ってテンションが上がるし、他の子の見た目も面白いしで、真面目に作るわけがないんですよね。私も楽しいし、まぁ、これでいいんじゃないかなと思ってしまうわけです。
楽しいのが一番。カツラは保育士が作らせるものじゃなく、「楽しいから作っているうちに完成しちゃった!」ってのが良いんですよ。理想を言えば。それが難しいんですけどね。
しかし手前の子が走り出すとみんな走り出す。元ギャングたちの影響力はすごいです。
ダメですね。子どもたちの勢いを止められません。
止められないというか、止めてないけど。保育士が止めないんだから止まるわけがないですよね。当たり前でした。
上手くできなくて泣き出す子。それを心配して駆け寄る子。優しさも、クラスとしてのまとまりもちゃんとある。
だけど、制作に向き合っていない。いや、制作に向き合わないんじゃなくて、今、お友達に興味がありすぎるって感じが正解に近いのかもしれない。物に向かうんじゃなくて人に向かいたい。それも正しいですよね。だってこれまでの3回で、人を好きになる体験をたくさんしてきたんだから。
私がそういう方向にこの子たちを導いたんだから、当然。ある意味、嬉しい誤算です。
片付けの時間になっても、片付けより、お友達同士で笑い合うことが優先される。これはこれで素敵だなと思ってしまうのは私が「できた、できない」で評価することにこだわっていないからかもしれません。
私がニコニコしてるから、みんなもこれで良いと思う。今の雰囲気は私と子どもたちで一緒に作り上げているものです。
そうは言っても片付けをしなくてはいけないし、終わりの時間も迫っています。たくさんの時間をかけて、なんとか片付けを終えることができました。
協力して片付けるというのも教育です。みんなで一つの目的に向かって協力するのがプロジェクト保育。スズランテープを全部拾うという目的に向かって協力して片付けていくというこの体験も、プロジェクト保育の一環になっています。
さて、カツラ作りは全然終わりませんでした。次の回でやったとしても同じ結果になるのは目に見えています。作るより、お友達同士で笑い合ってしまう。贅沢な悩みです。笑い合うだけでも良いんだけど、本番の発表の時に何もできていないのは、それはそれで子どもたちも「これは違うな」と思うものです。
子どもの意欲を無視して「ちゃんとやりなさい」と指摘してやらせるのは簡単です。保育士が作るのを手伝ってしまうのも簡単。でも、それでは子どもの主体性を発揮させる保育にならない。子どもが自分で「できた!」と感じることができない。
意欲を少しも減らさず、保育士からの圧をかけず、子どもだけの力で、楽しく、そしてカツラを完成させる。それを全て満たす方法・・・。
・・・一つだけありました。
それは、4歳児と5歳児と一緒に作る!これです。これしかない!
優しさとアイデアを兼ね揃えた4歳児クラスと、動物電車で下のクラスに会いに行ったりペンギンみたいに赤ちゃんを守る遊びをするような年下想いの5歳児クラス。あの子達なら、3歳児クラスの子ども達を良い感じにしてくれるに違いない。
次回、345歳児合同でのカツラ作りです!