4歳児の七夕まつり劇プロジェクトの第5回です。天の川とカササギの橋作りが途中のままだったので、その続きです。そして今回で一つのクライマックスを迎えます。仲良しの関係を築いてきた子どもたちにピンチが訪れるのです。

 

♯5

ランランラン

前回のイメージが残っているのか、みんなで鬼ごっこからスタートです。すっかり溶け込んでいる新メンバー。

 

 

 

本当に人を繋げる星たち

一走りした後はみんな集まり、作業に取り掛かります。最初に始めたのは、新メンバーの作った星繋ぎを天の川本体にくっつけること。みんなで協力して繋げていきます。それを見つめる新メンバー。

 

自分の物に固執しがちだったこの子が自分が作ったものを他人に委ねているのも地味に感慨深いシーンです。

 

 

僕も繋がりたいんだ

そして人に任せているだけではなく、自分自身もその輪の中に入り、星を一緒に貼り付ける。人との繋がりの輪に、自分も入っていきます。

 

星のつながりは人のつながりになり、この子の切ない願いを叶えていく。

 

 

いえーい!

嬉しさを体全部で表現しています。飛び跳ねるほど嬉しい経験、大人になってからどれくらいありました?全くないか、ほとんどないんじゃないでしょうか。彼は今、人生で最高の瞬間を生きているのかもしれません。

 

 

カササギ橋の完成

その後はカササギの橋を完成させていきます。

 

前回、一度全てのカササギを繋げるという体験を共有しているので今回はスムーズに繋げることができています。体験の繰り返しで人は学んでいくのです。

 

 

一番に止めに入る新メンバー

天の川にカササギの橋を貼りつけ、完成を喜ぶ子どもたち。一度水分補給のために離れた時、1人の子がせっかくみんなで作ったカササギの橋をブルーシートから剥がし始めました。

 

 

この子がなぜカササギを剥がしたのか分かる人いますか?

次々と集まり、なぜ剥がすのかと問いかける子どもたち。その質問に非難の雰囲気を感じ、泣き出してしまいました。

 

カササギを繋げることは正しかったのですが、天の川に貼り付けてはいけなかったのです。劇の途中で橋をかけるわけですから、最初から天の川にカササギがくっついていたら劇の進行がおかしくなる。神様が織姫と彦星が会うのを許してからカササギが来なくてはいけません。この子だけがそれを理解していたのです。

 

頭が良い人というのは、時に大多数の人々の理解を得られずに反感を買うものです。

 

この理屈を誰も理解できていない。劇の大道具を作っているという感覚がみんな薄いので、カササギの橋を作って天の川につける制作だという認識になってしまっている。誰も理解できないので、剥がした子の気持ちもわからないし、着地点がわからない。

 

 

剥がしてしまった子をこれ以上非難して傷つけてまで話を進めたいと思う子もいない。みんな優しいから、確信に触れることができない。

 

つまり、この場にいる子達では、この現状を解決することができない!

 

優しいが故に解決できない状況に追い込まれてしまいました。

 

 

現実逃避として仕方がないのかもしれません

この空気に耐えられず、鬼ごっこを始める子どもたち。数人は泣いている子のそばにいますが、それ以外の子が走り出しました。

 

誰かが泣いているのにそれを放置して鬼ごっこをするというのは、大人からすると良い行動とは思えないでしょう。叱るのが普通かもしれません。だけど、それではこの子達だけで問題を解決できずに大人が解決してあげることになってしまう。

 

私はこの子たちのさらなる成長が見てみたい。優しいだけじゃダメなんだ。君たちには何か別の力を身につけてほしい。

 

 

緊迫した雰囲気が漂う

そばにいる子たちは、剥がれている部分を直すという行為で、事態を収めようとしています。どうしていいかわからない以上、物を直すという行為でとりあえずの解決を図る。これも悪くはない解決策でしょう。

 

ただし、剥がしてしまった子との関係は壊れたままになる。

 

それがわかっているから誰も言葉を発しない。これが正しいとも思っていない。

 

 

それぞれの戦い

泣いている子を離れたところから見つめる子が1人。

 

とりあえずの解決を図るわけでもなく、現実逃避するわけでもなく、この子は何を思うのか。

 

何かを一生懸命考えています。行動の前に観察と思考。事態を切り開くヒントを見つけることができるのか。

 

 

体が勝手に動くのが真のヒーローなのさ

鬼ごっこがエスカレートし、新メンバーと他の子たちでケンカのような雰囲気になりました。

 

「ああああ!」

 

もう嫌だぁとばかりに叫ぶ新メンバー。

 

 

そこへ駆けつけたのは、さっきまで泣いていたはずのあの子でした。そばに寄り添い、体に触れる。

 

 

自分の辛さより、他人の辛さをなんとかしようと自然に体が動いたのです!

 

 

これは何かが起こる予感がします。

 

 

そして、時は動き出す

それでも落ち着かない新メンバーは、1人の子の手首を掴んで走り出しました。慌てて追いかける他の子どもたち。無理やり手首を掴んでいると思い、止めに入ります。

 

 

 

正義ってなんだろう

「手を離して!」とみんなから言われても離さない。

 

みんなは力づくで引き剥がそうとする。これも正義感。誰が正しいとかじゃないんです。

 

誰かに寄り添ってほしい。この手を離してしまったら僕はまた1人になってしまう。

 

 

僕はひとりぼっちだ

引き剥がされ、絶望し泣き出す。引き離した側の子もこれで良かったのか?という表情です。

 

そして手首を掴まれていた子も、じっと何かを考え込んでいます。

 

 

何が正解なんだろう?

僕たちは何をすればいいんだろう?

 

 

何もできず、時だけが過ぎていく。

 

 

満を持して「奇跡を起こす女の子」が登場

そうでした。みんなが悩んで動けない時に、素直に行動を起こせる子がこのクラスにはいました。昨年度の活動でも、奇跡のような物語を何度も見せてくれた子です。

 

 

悲しい時にママや保育士が自分にしてくれるように、優しく頭を撫でる。

 

 

必要なのは言葉じゃない。何をすればいいのかと考えることじゃない。

 

 

純粋に相手を思いやる気持ちを素直に出すだけで良かった。それをこの子がみんなに教えてくれているような気がしました。

 

 

部屋の中に優しい雰囲気が広がっていく。

 

 

優しさは伝染する

今度は私から手を握る。

 

あなたはひとりぼっちじゃない。

 

 

優しさが人をつなげていく

次々と集まる仲間たち。

 

自分たちの意思で手を繋ぎ、立ち上がる。

 

握る手は迷いもなく、力強い。

 

 

欲しかったものがそこにある

そして手を繋いで走り出す。

 

みんなで繋げたカササギの橋の横を。

みんなが貼ってくれた星がつながる天の川の横を。

 

 

連なる星もカササギも「人との繋がり」を願う象徴でした。

 

 

カササギや星を繋ぐように、手を繋ぐ。願いは現実のものとなっていく。

 

 

 

奇跡は起こる何度でも

孤独に負けそうな子の頭を撫でた後は、カササギを剥がして落ち込んでいた子の所へ行き、笑顔にしています。さすがとしか言いようがありませんね。

 

勝手に布を引っ張り出して遊び出す子どもたち。もちろん注意なんてしません。遊びを展開しようとしているわけですから、これが何かにつながっていくことは間違いない。私たちはこの子たちの辿り着く景色を見てみたい。

 

 

そして、2人の笑顔を後ろでじっと見つめる子の姿が。

 

この後、何かを決心して立ち上がり、歩き出します。

 

 

ブラジル再び

第一回で取り合いになった黄色と緑の布。あの時は2つとも自分で身につけていたけど、今は君と分け合いたい。君が黄色で、僕は緑。

 

それが今は嬉しい。

 

 

めちゃめちゃ笑顔の子じゃなくて、後ろの女の子のことですよ

自分が貼り付けていた飾りがみんなが走ったせいで壊れてしまい、座り込んで泣いている子が。

 

みんな自分の遊びに夢中で、誰もこの子に気がついていない。

 

 

あらやだ、なんかカッコいい

そこへ爽やかな笑顔で現れる、新メンバー。

 

何をしにきたのかと思ったら・・・。

 

 

これを見逃さなくて良かった!

セロハンテープを渡し、壊れた飾りを直すことを提案しています。

 

えええええ!

 

こんな気がきくことまで、できるようになります?

 

みんなの優しさ、しっかりとこの子の中に刻み込まれてる。よっぽど嬉しかったんでしょう。自分が優しくされたから、今度は誰かに優しくしたくなる。これが集団で育つことの良いところです。

 

 

私の涙腺はここで崩壊。年と共に涙もろくなってます。

 

 

自分でも気に入っている写真だそうです

本編に関わってこないけど、こうやっておちゃらけてみんなを笑わせて元気にしている子もいる。暗い雰囲気の後の、こういう明るさは場を和ませます。

 

 

これも気に入っている写真だそうです

テンション上がりきってますね。ゾーンに入っている。

 

子どもは夢中になっている時に成長する。

 

夢中になっている時は感覚が研ぎ澄まされ、思考や行動がより洗練されます。そして余計なことを考えなくなるのでシンプルに課題解決に集中力を発揮させやすい。

 

それがよくわかる回となりました。

 

 

観察と思考によって辿り着いた結論とは

じっと考えごとをしていた子が向かった先は、トラブルのきっかけとなったカササギ。手にはセロハンテープ。

 

 

100%誰かのために動いていると分かる

誰にも言わず、黙々と壊れた箇所を直していく。みんなが走り回って踏んだので、色々壊れていました。

 

直すだけなら、最初に心配して集まっていた子と同じですが、何か他の意図があるのでしょうか?

 

この子に刺激されて、修理するために集まってくる仲間たち。

 

 

魔法ようなアイデア

そう。他の意図があったんです。右でカササギを持ち上げていますが、これは他の人がまた天の川にカササギを貼り付けてしまわないようにしているんです!

 

ブルーシートにカササギを貼ってはいけないことを強く言うと、さっき貼っていた子達を傷付ける。だから何も言わずにカササギを持ち上げて貼れないようにして、もう誰も間違えないようにする。

 

 

そう。これが誰も傷つけずに解決する方法だったんです。

 

 

そしてこれに気がつくということはカササギを天の川に貼ってはいけないという根本の問題に気がついたということです。じっくり考えていたのは、この結論に辿り着くためだった。そして自分が何をすべきかを考え、実行している。

 

 

この子に触発されて、みんな集まってきてカササギを直す作業に取り掛かりました。しかも、持ち上げている姿を見て「そういうことだったのか」と理解が深まり、天の川からカササギを剥がしつつ、カササギ自体を繋げていきます。

 

 

担任の涙腺も崩壊(そして後から抱きしめてくれる子どもの優しさに注目)

自分の理解者が現れたことで心を閉ざして泣いていた子も天の川に戻ってきました。みんなが理解してくれたので指示を出しながらテキパキと完成させていきます。

 

第二回で不安でぬいぐるみを1人抱きしめていた時、自然とみんなが集まってくれた。そのみんなの優しさに応えたかったんじゃないかなと思いました。もちろんそんなことを今考えてはいない。だけど、優しさは連鎖する。体験は人を作っていく。優しい体験は優しい人を作っていく。

 

 

このクラスは優しすぎて解決できないと思ったけど、優しさにアイデアをプラスすることで解決してしまいました。誰も傷つけずに、なんならもっとみんな仲良くなって笑顔を増やしている。私たちの想像をはるかに超えて成長する子どもたち。

 

 

カササギの橋が、離れてしまった子たちの心をつなげてくれました。織姫と彦星が再開するかのように。

 

 

そうです。この子たちの5回の遊びは、七夕の原作通りに進んでいるのです!

 

 

この展開は見覚えがある

最後はブルーシートの下にみんなで潜ります。

 

ブルーシートの下にみんなで潜って、「産まれたー!」と言って飛び出して笑い合った一年前。あの日、ゾンビから新人類に生まれ変わった。

 

そして今日、同じ場所で、同じブルーシートの下で、あの時と1人メンバーは変わったけど、この子達はまた新しく生まれ変わったのです。

 

それぞれの個性の色が輝く3歳児の「にじ組」から、想いと人をつなげる願いがこもった4歳児の「ながれぼし組」に、新しく生まれ変わったのです。

 

 

サラリとこういうことができるのが真のイケメン

涙の止まらない私と担任の保育士。

 

そして担任にティッシュを渡す子。君は本当に昔から変わらない。心がイケメンすぎる。

 

 

満足した表情の子どもたち

最後はみんなで完成させた天の川を運びます。

 

なんか、もうかっこいいですね。4歳児とは思えない。素晴らしい時間を過ごさせてもらいました。こういうことがあるから保育は辞められない。

 

絆が深まったところで次回から、いよいよ劇の内容へと入っていきます。どんな劇になるか楽しみですね。

 

 

以上です!

 

1から4までが伏線となって第5回で最後に一つにまとまっていく感じもすごいですし、怒涛の展開が優しさというキーワードで収束していくのも予想できなくて面白かったですね。

 

 

カササギといえばロッシーニのオペラ「泥棒かささぎ」を思い出しましたが、このオペラのストーリーが「濡れ衣を着せられて処刑されそうになる少女の話」だそうです。まさに、今回のストーリーが「正しいことをしていたのに理解されないで非難される女の子」のストーリーですから、テーマ的には同じです。こういう偶然が起こるのも面白い。

 

 

そもそも全5回の展開を思い出してみると

 

織姫と彦星が仕事をしていた(第1〜2回)

仕事をしないで合流して遊んだ(第2回)

遊んでたら天の川が登場した(第3〜4回)

カササギの橋をかけることで仲良くなった(第4〜5回)

 

こんな感じで原作のストーリー通りに展開しています。このプロジェクトは七夕の劇を行うのが最終目的ですが、この5回が壮大な劇だったわけです。つまり、実はもう劇を行うという目的は達成しています!

 

この物語における織姫と彦星は女の子と男の子であると言うこともできますが、旧メンバーと新メンバーが仲良くなる物語だと言い換えることもできます。このクラスにとって今回のプロジェクトは必要な時間だったんです。

 

もう一つ、これは担任と子どもたちの物語でもある。新しい出会いには、それだけのドラマが起こるし、困難を乗り越えていくことが必要です。この物語を体験することで保育士もまた生まれ変わる。保育観、子ども観といったものが根本から変わっていくくらいの衝撃をこの子達は私たちに見せてくれました。

 

織姫と彦星の物語であり、女の子と男の子の物語であり、新旧メンバーの物語であり、子どもと保育士の物語でもある。物語というのは複雑に絡み合っていて、こんな感じで2重3重の意味を含んでいることがほとんどです。重層的な構造になっています。

 

だから、見えていることだけを捉えるのではなく、その奥にあるもの、その先にあるものを見ようとする姿勢が重要です。普通に遊んでいてもこういう展開にはなりません。私たち保育士の資質や姿勢といったものが子どもの育ちに大きな影響を及ぼしています。優しい大人の関わりの中でしか、優しい子は育たないのです。