令和6年度の保育の解説をスタートします!

 

七夕まつりで345歳児クラスが発表をするのも毎年恒例になってきました。もちろん、このやり方にこだわっているわけではないのですが、子どもたちがやりたいと思っているので、やらないわけにはいきません。

 

今年度の七夕まつりプロジェクトは各クラス単独の発表の準備を進めていき、当日に発表するといういつも通りの形を想定してスタートしましたが、途中で別のプロジェクトを同時並行で進めたり、3クラス合同で行ってまたクラス単独に戻ったりと、結果的に複雑な構成になりました。それもまた面白い展開なので注目してみてほしいところです。

 

それでは最初に、4歳児クラスの様子を解説していきましょう!

 

♯1

 

真剣に話を聞ける子どもたち

まずは七夕のお話をホワイトボードを使って説明していきます。活動の導入ですね。一番手前に座っている子が今年度から入園した子です。

 

先に言っておくと、この新シリーズは、この子を中心とした物語が展開されていきます。旧メンバーと新メンバーの交流が生み出す新しいこのクラスの物語をご覧いただきたいと思います。

 

 

新メンバーは黄色(ここ覚えておいて!)

様々な材質や色の布を用意し、自由に遊んでもらいます。七夕の話を聞いた直後なので、衣装のように着る子が多いですね。遊びは直前の刺激に影響されます。

 

 

悪役(?)の登場

そこへ、紙を丸めて武器にした怪しげな青いローブを纏った子が。ゆっくりゆっくりと近づき、次々といろんな子に棒で攻撃していく。

 

 

役割が交代する遊び

あっさりと棒を奪われ、正義の緑のマントを羽織る子に、逆にやられる青い子。

 

お互いに手加減し、叩くことよりやりとりを楽しんでいる様子がわかります。つまり、ごっこ遊びです。だから、武器を奪われても問題ない。攻撃する側とされる側の役割が交代しながら遊べています。4歳児クラスじゃないとなかなか起こらない遊び方です。

 

 

女の子の中に新メンバーが1人

みんな青い子から逃げるように、一箇所に集まってきました。

 

こんな感じで、誰か1人の遊びが面白くて、そのイメージをみんなが共有できると集団の遊びに変化していきます。今まで保育園生活でイメージを共有できるような体験をたくさんしてきたから起こることです。ローマは一日にして成らず。

 

1人寝ている子がいますね。たくさんの布を布団がわりにしています。自分が何色の布を集めていたか覚えていない。

 

 

争いは誤解から生じるのです

新メンバーは最初から黄色の布をメインで使っていて、途中から緑の布も使っていました。しかし、さっきまで寝ていた子は、黄色い布を取られたと思いこみ、取り返そうとしています。悪気はない。単なる誤解です。

 

黄色と緑の布を身につけて、逃げる新メンバー。

 

 

緑と黄色ってブラジルのイメージありません?

それを見ていた男の子が、新メンバーが黄色い布を女の子たちから奪ったと勘違いし、戦い(ごっこ)が始まりました。

 

新メンバーには黄色と緑の布への執着があります。別になんでも良いわけではなく、この2つの布を自分で持っていたい。だから誰にも取られたくない。物を収集して持っておくという遊びに近い。人とのやり取りより自分の好きな物を持っていたい。まだみんなと打ち解けていないし、当然といえば当然です。

 

しかし、これは遊びのルールとしては破綻しています。戦いで負けたら布を取られるという暗黙のルールが共通していればそのやりとりが面白いと感じますが、布は渡したくない気持ちの子にとっては、相手から意地悪をされていると感じてしまうからです。

 

 

左が仕立て屋さん

男の子たちの戦いには目もくれず、布で衣装を仕立てていく女の子たち。争いに興味がない。自分を着飾ることに興味がある。これも正しい遊び方です。

 

このクラス、男女別れて遊ぶことがこの時期にはとても増えていました。年齢的にそうだと言えばそうですが、あんなにみんな仲良しだったのにちょっと見ない間に変化を感じます。

 

 

3つの想いが交錯する遊び

新メンバーを庇い、守る子たちが現れました。戦いごっこというより、こちらは守る遊びですね。同じことをしているようで、目的が全く異なります。

 

追いかけている子は、黄色い布を取り返して女の子に渡したい

黄色い子は、黄色い布を身につけていたい

他の子は、黄色い子を守りたい

 

立場が全く異なる遊びが3つ同時に展開されています。同じ遊びをしているようで、目的が全然違う。こういう場合、後々トラブルになる可能性が高い。ちょっとした認識のズレが人の関係に影を落としていくものです。

 

 

物の取り合いという遊び

黄色い布を女の子に返したいと思っているので、諦めません。この子なりの正義感。見ていた私からすれば完全に誤解なのですが、この子は正しいことをしていると思っている。

 

正義とは盲目の上に成り立つのです。

 

そして、繰り返されるうちに、黄色い布を取り合うという遊びに発展していきます。

 

 

やられながらも喜んではいるので止めにくい

というわけで、いろんな子が黄色い布を奪いにやってきて、新メンバーは倒されてしまいました。

 

鬼ごっこみたいなもので、それぞれに悪気はありません。しかし、写真で見て分かる通り、集団でいじめているようにも見える。止めるべきか、続行か。なかなか保育士として判断が難しい状況です。

 

物を取り合う遊び。これは取り合うもの(今回でいえば黄色い布)が「誰のものでもない中立のアイテム」であるという共通の認識の上に成り立ちます。

 

「自分が使っていたもの」という認識を誰かが持っているだけで、それは「自分のものを取られた」という嫌な体験になる。取られた子は遊びではなく相手からの嫌がらせに思えてしまう。それはもう遊びではない。

 

 

布は奪うものではなく自分を美しく魅せるものなのよ

一方、そんなことは気にせず、自分たちのファッションショーを行っている女の子たち。床の黒い布がステージです。

 

保育士のねらいとしては、この後衣装作りに向かって欲しいので、この遊びの方向性は願ったり叶ったりです。

 

 

布がなくても向き合えるのか

黄色い布どころか、緑の布も取られてしまいました。布に執着していた子と布を取り返して女の子たちに渡したい子たちの戦い。

 

この遊びは、布を取り合う遊び。布がなくなれば遊びは終わりのはずです。

 

だけど、この子達は向き合っている。生身の人間同士の交流が生まれ始めているんですね。良い感じです。だけど、3対1で戦う遊びはあまり良いものとは言えない。

 

 

信じて待っていて良かった

すると最初に布を取り合っていた2人が仲間同士になり、2対2の戦いごっこが始まりました!

 

これで、意地悪をされているとは思わない。布がなくてもお友達同士で遊べている。布を持ち歩くよりも、誰かとのやりとりを楽しみたい。そんな表情じゃないでしょうか。新メンバーはとても嬉しそう。

 

 

第一回は以上です。導入回ですので、まだお互い探り探りって感じです。

 

 

♯2

織姫は服を作りたい

第二回では、織姫と彦星に分かれて遊んでみようという環境設定です。どちらを選んでも良いし、途中で入れ替わっても良い。

 

女の子たちは全員、織姫を選んでいます。前回の布遊びで使用した布と、衣装作りに使えそうなスズランテープや色画用紙なども用意しました。

 

織姫は洋服を作る仕事をしていたという原作のお話を聞いているので、子どもたちは自然に洋服作りに取り掛かります。

 

 

彦星は牛の世話をしたい

男の子たちは彦星のお仕事を体験します。牛を世話しているのが原作ですが、保育園に牛のぬいぐるみはないので、動物たちのぬいぐるみを用意しました。

 

特に保育士から子どもたちに説明はしていませんが、黄色と緑と茶色は餌になる草や寝床になる藁をイメージして用意しています。青は水として使うかもしれないと思って用意はしていますが、実際にどう使うかは子どもたち次第です。

 

遊び方は子どもが決めていく。これが保育の基本です。大人の決めた通りに遊ばせるなんてつまらない。子どもの可能性を狭めるだけでもったいない。

 

 

何をするのも自由です

服作りに精を出す織姫たち。そこへ、彦星のはずの新メンバーが服作りのために用意していた飾りをじっと見ています。

 

 

偶然が遊びを作り出す瞬間

飾りを大量に持ってきて、ぬいぐるみに乗せたり、寝床に撒き始めました。それに興味を持ち出す彦星たち。

 

黄色いスズランテープと星形の色画用紙の組み合わせが、偶然ですが「流れ星」のように見えています。

 

この流れ星が、この先の遊びの流れを大きく変えていくのです。

 

 

表情に注目

スズランテープと星形を合わせて「見て!流れ星!」とみんなに見せていく。何かを発見した時の子どもの表情は、本当に素敵ですね。

 

床に散らばっていた「流れ星っぽいもの」が明確に「流れ星」になりました。これにより、みんなの中で共通のイメージが共有されていく。

 

 

織姫につながる流れ星

織姫の服作り。紫の服の飾りは、流れ星になっていますね。

 

イメージは無意識の世界にも存在します。無意識にみんな流れ星に引っ張られていくのです。

 

 

彦星も流れ星に繋がっていく

牛の世話をやめて、流れ星を作っていく彦星たち。

 

2人でそれぞれ作って見せ合っています。そうすることで、より強固に流れ星のイメージが固定されていく。

 

 

興味関心が教育のスタートです

織姫の服作りに興味を持ち、あの後ずっと服を作っていました。担任に後で聞いたところ、「こんなに熱中することは今までなかった」ということです。

 

興味関心があれば、人はなんだって挑戦する。それがこの子を見ていると、よくわかります。

 

 

つながる流れ星

そして、みんなの流れ星を見て、最後に作った服に流れ星をつけました。満足そうに作品を見つめています。

 

 

4歳児クラスの名前は「ながれぼし組」。

 

みんな無意識に流れ星を作り、流れ星を持つことで仲間意識を育てている。

 

流れ星がクラスの子どもたちを繋げていき、新メンバーもながれぼし組の一員になった瞬間です。

 

 

かっちり2つに分かれていたのが嘘のよう

全体像としてはこんな感じ。彦星も織姫も混ざり合って遊んでいます。クラスがまとまってきている証拠です。

 

だけど、彦星は牛の世話もしていないし、織姫の服作りも中断してしまっています。

 

原作でも織姫と彦星が仕事もしないで遊んでいたから神様が怒って天の川で2人を会えなくしたというストーリーなんですよね。偶然にも原作通りに進んでいます。

 

 

誰かの服というより自分の衣装になってますね

一度、保育士が全員を集めて、織姫彦星それぞれの発表を見合うことにしました。

 

織姫たち。服ができている子もいれば、全くできていない子もいます。こうやって自分たちの成果物を振り返る時間を作ると、いろいろ考えて自分で気がつく子に育っていきます。

 

この後に彦星の発表も行いましたが、何もしていないので発表することがありません。そのおかげで自分たちが彦星としての仕事を行なっていなかったことに気が付いたようです。

 

 

やっと資料を活用してくれました

牛の写真を見て、実際にどうやって世話をしているのかを話し合う彦星たち。最初から資料は用意してあったんですが、その時は興味がなかったんでしょう。先ほどの発表で自分たちが仕事をしていなかったことに気がつき、参考にするために確認しています。

 

何かを参考にしていくのも問題解決のスキルです。

 

この後、餌をあげて水を飲ませ、シャワーで体を綺麗にしていました。ちゃんと牛の世話ができています!

 

 

織姫でも彦星でもなく、これはこの子自身の心の表現

遊びに集中できず、座り込み、ぬいぐるみを抱きしめる。遊びではなく、何かの不安がこの子にこういう行動を起こさせているのかもしれません。

 

子どもも大人と変わりません。子どもは子どもなりに、いろいろなことを感じ、考え、言葉だけでなく行動でも内面を表現します。

 

私たち保育士は、こういうサインを絶対に見逃しません。

 

私や担任がこの子の側に行こうとした、その時・・・。

 

 

仲間っていいなぁ

自然と集まってくる仲間たち。このクラスの子どもたちは、決して誰かを1人にはしません。

 

この子たちは仲間で支え合うクラスなんです。なんて素敵なんだろう。

 

何があってもこの子達なら乗り越える。そんな気がしました。

 

 

 

第二回は以上です!

 

 

さて、第二回までを解説させていただきました。タイトルにあるように、七夕まつりで劇を発表することがこのクラスの最終的な目的です。担任は初めてプロジェクトを体験しているので、こんな感じでゴールに辿り着くのかをすごく心配していました。

 

結果が大事なんじゃなく、この日々の積み重ねが、過程そのものが大事なんです。これを読んでいる皆様も、ゴールに辿り着くまでの物語をお楽しみください。

 

そして徐々に物語が動き出していき、最後に爆発する。今回の新シリーズはそんな展開になっています。