遊びの方向性が大きく変わった第2回を経て、第3回ではさらに子どもたちの人間模様が大きく変化していく様子を紹介していきます。遊園地を作って遊ぼうという方向性は変わらず、しかし環境を変えずにスタートします。それでは、どうぞ!

 

♯3

女子の友情からスタート

設置する場所は違いますが、前回の続きとなるメンバーですね。遊びの内容的には第1回のコーヒーカップ遊びと同じです。

 

5歳児ゾンビたちを中心に集まっています。

 

 

俺、君のために働くよ

前回までと違うのは、これですね。ビルディングブロック。これを大量に集めている。このブロックの初期位置がここに近かったので集めやすかったのと、他に使っている人がいなかったため独占できた。おもちゃの位置は遊びの方向性を大きく変えます。

 

「ここに置いておけば良いかな?」

 

せっせと大女優のためにブロックを運ぶ3号。健気です。前回選ばれなかったことはもちろん覚えているでしょう。今度は選ばれるように、追いかけるのではなく大女優の言う通りに働きます。追いかけっこから労働へ。ゾンビから人間へ成長したようですね。

 

 

ヒトの持つ心の壁の具現化

前回との大きな違いのもう一つは、これです。壁。壁をみんな作ろうとする。

 

前回、それぞれで遊園地遊びをしていたのにゾンビ襲来によって全ての遊びが破壊された。ゾンビ遊びは楽しかったけど、本当に自分がやりたいことではなかった。だから、今回は無意識に壁を作って、外敵からの侵入を防ぎたくなっているんです。

 

そう、壁です。前回のシリーズである23歳児合同遊びのテーマになっていた「壁」がここにも登場してきます。不安が強くなると壁を作るという話をさせてもらいましたが、これも同じです。前回、全員でゾンビ遊びを行うという距離がグッと近くなりすぎる体験をした。だから、ちょっと人と距離を置きたくなっているんですよね。これ以上心の距離が近づくと、争いが起こる。だから、自分を守るためにみんな壁を作っている。

 

仲良くなるってのは、ちょっぴり怖いものなんです。

 

心の壁を作ったり、壊したり。入ったり出たり。それを繰り返してちょうど良い距離を作っていくのが人間関係です。幼児も例外ではありません。

 

 

悲しいけど、これ現実なのよね

一緒にダンボールに入りたいなと思うけど、大女優とワンちゃんは仲良く木馬に乗っている。

 

他のみんなは夢中になって何かを作っている。でも、僕が欲しいのは物じゃなくて、心なんだ。みんなと仲良くしたいんだ。

 

3号の満たされない想い。

 

 

叶わないものならばいっそ忘れたいのに

彷徨っているうちに4歳児が作っていた秘密の場所に、いつの間にか来てしまった3号。そこへ、追いかけてきた5歳児女子。あれ?この髪の毛の縛り方とゴムは、3歳児のレインボーカラー縛りと同じ!

 

調和のシンボルレインボー。この子は人と人を繋げる役割を担っているのかもしれません。

 

傷心の3号の手を握り、声をかけるレインボー。

 

 

落ち込むと寝るタイプの子のようですね

レインボーに声をかけてもらって戻ってきたけど、今度はワンちゃんと大女優が2人でコーヒーカップに乗っていますね。また寝っ転がってしまいました。

 

後ろには高い壁ができています。完全にこの仲間だけで遊びたいようです。自分たちの世界を守ろうとしている。

 

 

壁は壊すためにある!(どーん!)

「そんな壁、壊してやるぜー!」(妄想)という感じで、いきなり走り回って外界との壁を全て破壊する3号。

 

落ち込みすぎておかしくなってきましたね。ナイスです。「そんな壁、壊してしまえ!」と心の中で応援する私。「俺はいつも君の味方だぞ」と心の中で語りかけながら状況を見守ります。どういうことかわからないけど、見ている人の想いが子どもに何か影響を与えるものなんですよ。私の想い、3号に届け!

 

 

右にいる大女優の視線が怖い

今度は3号とワンちゃんでコーヒーカップに入ってはしゃぎ、落っこちました。結果的にみんなで作ったものを壊すことに。

 

「大丈夫?」と駆け寄り心配するレインボー。それをじっと見つめる大女優。

 

「もう、いい加減にして!」ついに大女優が2人に怒りました。

 

 

地味に後ろに壁が復活していますね

やっぱり怒られた、ということでプラポイントの下に潜って寝る3号。そしてそれを心配するレインボー。いいコンビになってきた。

 

いますよね、漫画とかでもヒロインの親友ポジションというか、世話好きの女の子。大女優、ワンちゃん、3号の3角関係に割って入るレインボー。いい感じで人間関係が変化していきます。

 

 

同じ落ち込み方をする似たもの同士の男の子たち

こっちも落ち込んだワンちゃんがプラポイントの下に潜っていて、それをレインボーが心配して外に出そうとしています。レインボーは全員にこういう感じですね。基本的に優しい。全方位に優しさを行動で示すことができる。素敵な子です。

 

 

協力はもはや当たり前

5歳児がそんなことをしている間に、4歳児+5歳児女子1名は、一つの場所に集合しつつありました。

 

ゾンビ1号はもう人を襲うことなく、今日は最初から女の子たちと協力しながら遊んでいます。こっちも追いかけるのではなく労働へ。ゾンビから人間へと変化しています。

 

 

なんかすごいのができてきた

それぞれが遊んでいたものを持ち寄り、一つに繋げていきます。一つの家のようにも見えるし、アスレチックコースにも見えるし、遊園地のアトラクションのようにも見える。きっと正解はないのでしょうが、みんなで一つのものを作るという意思は感じる。

 

こっちはこっちで盛り上がってきましたね。

 

 

ようこそ、男の世界へ

喧嘩して、仲直りして、一緒にバカやって、一緒に女の子に振られて、一緒に落ち込んで。そして一緒に笑い合う。

 

俺はお前と一緒にいる時が一番楽しいんだ。俺たち2人がいればなんでも出来るような気がする。俺たち2人なら最強さ。世界だって変えていける。

 

木馬というバイクにまたがり、夜の街を疾走する2人。かっこいい。

 

 

流石にこれは隣で笑わざるを得なかったです

「ああああああああああああ!」

 

急に大声を上げる大女優。これは4歳児のダンボール遊びでも警察官がやってましたね。魂の叫び。自分のために動いていたはずの男の子たちが自分から離れて楽しそうにしている。なんだか、モヤモヤする。

 

 

彷徨う日々

大女優は5歳児の仲間から離れて、4歳児が中心的に遊んでいるエリアへ。順番待ちをしています。

 

4歳児を中心に初回と同じようにみんなで不安定なところに一緒に乗るという遊びを行なっていますね。男女関係なくなっているのがポイント。最初は4歳児女子4人だけの楽しみだったのに、その枠がなくなっている。心の壁がなくなってきている。

 

 

廃墟の上の大女優

結局、そっちにも入れず、3号が壊した瓦礫の山の上へ戻ってきました。

 

放心状態で宙を見つめています。

 

 

放心状態その2

放心状態がもう1人。4歳児女子。こちらはたくさんの丸を集めて座っているだけ。4歳児の大きなアトラクションに最初は入っていましたが、何かが違うと思ったのか一歩引いてしまっています。

 

遊びは常に盛り上がるわけでもなく、集中力を回復する必要が出てくる場合があります。こういう時は無理に大人が遊びに誘ったり声をかけたりしなくて良い。自分なりに休憩をとっている。また心の力が復活すれば遊び始めるはず。焦ってはいけない。子どもには子どものペースがある。そして、仲間が復活させてくれるはず。

 

 

なぜ人は丸に心惹かれるのか

この子はシーソーを作っています。左右に丸を乗せたらどちらかに傾く。じゃあ、ここは?そんな感じでどこに何個置くと釣り合うのかを試していく。科学の実験です。

 

 

周囲の声も何も届かない。完全に1人の世界。とんでもない集中力で試行錯誤をしていく。どうすればシーソーが釣り合うのか。今はそれ以外何も考えていない。何も見えていないし、何も聞こえない。

 

これが「熱中している」状態です。子どもが一番成長する瞬間。これができる子は伸びる。ただし、こうやって集中力を発揮する力に長けている子は、適切なところに集中力を発揮できない可能性がある。例えば、誰かが話をしているのにそれを聞けずに別の何かに集中してしまうとか。

 

そうならないためには、今1人で集中しているところから、数人で集中する遊びへのレベルアップする体験を繰り返したい。そうすれば、何かに集中しつつ、周囲の人にも意識を向けられるようになるからです。

 

 

自然と入っていける子がいるから成り立つ変化

というわけで、丸を釣り合わせる1人バランス遊びから、お友達とのシーソー遊びへ。最初は丸をシーソーのはじに置いて、反対側を勢いよく踏むと丸が飛ぶという遊びを思いつき、それを1人でやっていました。するとそれを見た子たちが集まってきて一緒にやるようになり、最後はこのように人間同士のシーソー遊びになっています。

 

 

お金を発掘

シーソー遊びをしてから移動し、先ほど放心状態だった4歳児の女の子が座っていた場所へ。そこに丸が隠されているのを発見しました。黄色の丸です。初回からみんながお金として使用していたものですね。それを外に出す。

 

本人にとっては深い意味も何もない行動だったと思いますが、こういう行動が他の子に影響を与えていくんです。

 

 

黄色い丸が人々を惹きつける

戻ってきた4歳児女子。外に出ていた黄色い丸をお金に見立てて、他の4歳児が集まってきました。そして、そのお金を受け取ってメリーゴーランドのスタッフとしてテキパキ働き出しました。放心状態からの復活!

 

ワンちゃん、さっきは1人でシーソー遊びをしていた子の遊び相手になり、今度は4歳児の集団遊びのきっかけを作っている。誰かの小さな行動が、他の子に影響を与えて、社会が作られていく。みんな繋がって、影響し合って生きているんだなと思いました。

 

 

お前らがいれば俺は他に何もいらないんだ

何もしなくたって良い。みんながいればそれで良い。ただ寝っ転がっているだけで、心が満たされていく。

 

いつもは落ち込んだ時に1人で寝っ転がっていたけど、今は違う。こうやって無理をしないで力を抜いても一緒にいることができるのが、本当の友達じゃないかと思います。

 

2人の間にレインボーがいることがポイント。この子が何回も2人を見捨てずに連れ戻してくれたから、諦めずにここまで来れた。居場所ができた。人の繋がりが世界を変えていきます。

 

 

笑顔が全てを物語っている

残りの5歳児メンバー。滑り台をみんなで滑るという遊びをずっとしています。密着した遊びですね。これだけくっついて遊んでいるということは、心の壁はもうない。

 

そう。気がつけばこの部屋に「壁」はなくなっています。最初は至る所に壁があったのに、今は何もない。もう不安はないんですね。安心して遊べている。ゾンビという怪物の襲来を乗り越え、みんなの心が繋がってきています。

 

 

ずっと笑っていて本当に楽しそう

こちらも言葉はいらない遊び。向こうは寝っ転がっているだけでしたが、こちらは上に乗っていく遊びです。

 

本当に仲良くなければ成り立たない遊び方です。仲良くなければ「痛い!」「どいて!」という喧嘩になってしまう。

 

こうやって密着しても楽しいと思えるってことは、人を好きな証拠。人を好きになって欲しいという私たち保育士の願いは、こうやって達成されていく。遊びを通して。

 

 

終了時間ギリギリでの復活

ついに復活する大女優。壊れていたブロックをみんなで積み上げてスライダーを作ります。遊園地遊びであることを覚えていたようです。

 

「ここに置くと安全だよ」

 

3号が滑り台の調整を行い、スライダーが完成です。

 

 

マットは寝っ転がりたくなるもの

復活した大女優。マットの上で遊んでいた男の子たちに「どいてもらっていいかな?」と声をかけます。攻撃的でもなく、ちょうど良い感じで指摘できていますね。男の子たちが自分の遊びを邪魔をする気があるわけじゃないことを分かっているから、優しく指摘できている。

 

こんな感じで全員が復活して、遊びの時間は終了になりました。

 

 

さて、第3回では第2回のゾンビ遊びの傷を癒すかのように最初はそれぞれがやりたいことをやるという感じで進んでいきました。割と早い段階から遊びのゾーンに入り、深いところで遊びが進行しています。壁が少しずつ壊れていき、仲良くなる様子をご覧いただけたかと思います。

 

当初は遊園地を作っていくという目的でしたが、今回はお友達同士のやりとりを最重要視して、人間関係の構築をしている印象を受けました。形だけのプロジェクトより、よっぽど今の子どもたちに必要な学びができたのではないでしょうか。

 

ここまできたら最後まで子どもたちに付き合っていくしかありません。次回に続きます。