いつだって新しいことに挑戦することが大事なんだと思っています。幼児クラスでしかできないと思われているプロジェクト型の遊びを乳児クラスである2歳児と一緒に3歳児が行ったらどうなるのか。それが今回のシリーズのテーマです。もしかしたら日本初かもしれない遊びの展開を解説していきます。

 

♯1

保育士が考えた環境設定

タイトルにあるように今回は「自由遊び」です。七夕まつりに向けて何かを準備するみたいなプロジェクトは、保育士が全部お膳立てすれば2歳児でもやれているように見せることはできるかもしれませんが、それは「嘘」になるのでやりたくありません。

 

今回のプロジェクトは「一つの目的に向かって協力する体験がたくさん見られること」を狙いとしています。何を目的にするかは保育士が決めず、誘導もしない。数回遊ぶ中で自然発生的に生まれた目的に向かって2歳児クラスと3歳児クラスが協力するような動きが出てくるのか。もし、それができれば、それも立派なプロジェクト型保育です。

 

プラポイントってどういう意味なのかは不明。商品名です

プラポイントという取り外し可能な丸型の大型ブロック、ジョイントマット、箱にしたダンボール、風船。以上が今回のおもちゃの設定です。

 

基本的に1人遊びではなく複数人数での遊びが広がりやすいようなものばかり選んでいます。

 

明らかに体が小さいのが2歳児クラスの子どもです

こんな感じで遊びが広がっていきます。ダンボールは最初から箱型にして、底面をなくしてあります。4歳児のダンボール遊びの時に、中に入る遊びが多くみられました。側面のみにすることで、子どもが中に入って出てこないことで1人遊びになってしまうという問題をなくしています。子ども同士の関わりを促進したいからです。

 

 

遊びを邪魔しているのではないかと戸惑う保育士

年齢が下に行けば行くほど、遊びの時でも甘えが出てきます。今回は2歳児クラスもいますので、こうやって遊びが中断しがちです。特に優しい保育士は人気で、たくさん子どもたちが集まってきてしまいました。

 

それも想定内です。第一回なので、どういう環境なのか子どもたちも不安ですから、保育士にくっついてくる。当たり前ですよね。これもこの環境に慣れてきたり、遊びにのめり込めば、なくなっていきます。

 

子どもだけの力で課題を解決していくプロジェクト保育は、低年齢で行うとすれば、いつもより保育士の情緒面のサポートが必要になってくるようですね。やってみないと見えてこない視点でした。

 

 

自分の領域を作る遊び

ジョイントマットはおもちゃというよりホームセンターに売っているただのマットです。これも子どもたちからすれば大きなパズルのようなおもちゃになります。

 

新しい遊び、いつもと違う環境、2クラス合同の雰囲気。子どもたちからすれば、どれも緊張する要因です。不安を感じやすい子は、こんな時は自分の領域を確保しようとする。壁を作って自分の心理的安心感を作り出そうとします。

 

 

赤い丸はハンドルで、車に乗っているようです

そういう空気を読めないのが2歳児クラスの子どもだちです。3歳児が作った領域内に普通に入っていきます。良いですね。空気が読めないからこそ、何の躊躇もなく人の心に入っていける。1人遊びだったのに、2歳児がたくさん入ってきて集団の遊びになっています。実際に一緒にマットを繋げたりしていますね。

 

 

アクシデントは遊びを変化させる

そこにバランスを崩した車(ダンボール)が領域内に倒れ込んできました。せっかく安全を確保するために作った壁が破壊されてしまいました。

 

危険のないように3歳児の前の壁を守る2歳児。なかなか良い流れですね。助け合いの雰囲気が生まれそうです。

 

 

周囲への影響を考えながら遊んでいるのはすごい

壁が崩壊して2歳児の子達は解散。残された体育座りをして呆然としている3歳児の子。そこに、また別の車が突っ込んできました。倒れる遊びを繰り返していて、いろんなところで倒れてゲラゲラ笑っていた男の子たちです。

 

しかし、体育座りの子を見て、必死で事故を防ぐ周囲の3歳児の男の子たち。自分たちの倒れ込む遊びより、遊びに入っていない子に迷惑をかけないことを優先して行動しています。視野が広いというか、3歳児とは思えない大人の対応です。

 

 

あえて笑いを作って場を和ませるレベルの高い女子の技

落ち込んでいる子の近くに来て笑顔を見せる担任の保育士と3歳児の女の子2人。楽しい気持ちが不安を吹き飛ばす。

 

ちなみに壁に近い位置で遊ぶのも不安の表れですね。不安があるから、その場から動けないわけです。つまり、まだ不安で遊べない。

 

子どもが不安を感じる時ですが、愛着の問題がある場合もあるし、生まれつき環境の変化に弱い場合もあるし、家庭や園の環境の変化によって変わったりします。例えば、弟や妹が産まれた時は子どもはみんな不安定になりますよね。だからこそ、子どもは守りながら育てなければならない。保護して育てる。それが保育です。

 

 

狭いところに入る遊び

一方、2歳児クラス。1人がダンボールの中に入り、自分で蓋をしています。そこへ集まってくる仲間たち。

 

狭いところに入ると心理的安全が保たれる。子猫とかそうですよね。狭いところにいたがる。つまり、この子も不安があるから中に入っています。自分の意思です。

 

遊びで不安を乗り越える。子どもにはそういう力が備わっているんです。

 

 

優しく背中に手を当てる姿に感動

そんなことは周囲の子どもたちはわかっていないので、ダンボールをどけて「大丈夫?」と優しく声をかけます。本気で心配しているようです。

 

不安だからダンボールの中に入っていたけど、仲間がやってきて心配してくれたことで、ちょっと不安も解消されたかもしれません。

 

 

人の家に入るには許可を得ないとダメだよね、という話

一緒に入りたかっただけなんです。ただそれだけ。だけど、「入らないで!」と怒られてしまいました。

 

大体、これくらいの年齢のケンカというかトラブルは、悪気なんかない。遊びたかっただけ。でも、相手を気遣うとか、許可を得るとか、そういうスキルをまだ獲得していない子は、こういう結果になりやすいんですよね。

 

 

ちゃんと周囲を見て遊んでいるから駆けつけることができる

そこへ集まる仲間たち。3歳児新聞紙遊びでお馴染み(?)の元ゾンビ3人娘です。

 

悪気がないってわかっているんですよ。子どもたちも。大人はすぐ叱ってしまうけど、叱るだけだと、友達と遊びたかった気持ちまで否定することになりかねない。何が良くなかったなんて言語で理解できる年齢ではありません。体験で学んでいくようにします。

 

今回のシリーズはこういう感じで進みます

自然と頭を撫で、背中をさする。こんな純粋さを大人は失ってしまうんだろうなぁと思って見ていました。大人がこれをやるより、お友達にやってもらう方がずっと良い。仲間に支えられるという体験の方が大事です。子どもは子どもの世界で育つ。

 

急いで撮ったらピントが合わなかった写真

この後、「入らないで」と言ってしまった子から声をかけ、2人で一緒に遊ぶという展開になりました。良いですね。こうやって自分で仲直りしていく感じ。こうやって、仲良く遊ぶためのスキルがお互いに関わり合いながら育っていきます。

 

 

言葉で解決できない乳児の難しさ

先ほど他の子に家に入られた子。今度は2歳児の子が自分の作った家に入ってきましたが、何回言っても出ていってくれません。今度は自分が落ち込んでしまいました。

 

これが異年齢保育の良いところです。3歳児クラスならある程度言語が通じるけど、下のクラスになると言葉で伝えても解決できない。しかも自分より年下の子に怒るわけにもいかない。その葛藤が3歳児を成長させる。

 

 

線路をつなげる電車遊びの派生です

一方、2歳児クラスの子どもたち。ひたすらマットを繋げている子がいます。手前と右のしゃがんでいる子です。ずっと繋げている。普段の保育室が1クラスサイズなので、このように大きなお部屋でダイナミックに遊ぶ経験がありません。このスケール感が楽しい。環境が違えば遊びが変わっていく。

 

 

誰かの遊びに興味を持てることも成長には大切な要素です

ジョイントマットを全部繋げてしまった後にしばらく考え、プラポイントを並べていく男の子。それを見て、そういうことねって感じで手伝う女の子。2歳児の中で、協力する遊びが生まれました。

 

 

線路は続くよどこまでも

作った線路の上を列になって歩く2人。しっかりと遊びを共有しています。

 

その先には倒れる遊びをしているダンボール車の3歳児男子たち。遊んでいる時にぶつかったということでテンションが下がっている子が。それを見て話を聞いている周囲の子どもたち。真剣な表情です。

 

2歳児が作った線路の上を3歳児の車が走行中に、仲間同士でぶつかったようです。2歳児と3歳児の遊びが交わっています。保育士が怪我の確認をしましたが、特に怪我にはなっていない。びっくりしたという感じでしょうか。

 

 

悲しみのトライアングル

というわけで、片付けの時間になったのにテンションが下がって座り込む3人。

 

壁が壊された(左下)

家に不法侵入された(右下)

車で衝突事故があった(左上)

 

遊びの中だとしても、なかなかの事件が起こっていますね。大人でも実生活でこんなことがあれば落ち込みます。

 

 

君を放っておくことなんて俺にはできない

そこへやってきて一緒に座り、世間話をする男の子。女の子のほうも気が紛れて、少しずつ笑顔になってきました。このあと、一緒にジョイントマットを片付けていきます。

 

 

あたしたち友達だよね

落ち込んで動けない子の左右にドカッと座って挟み込む2人。「どうして?」という表情の子に対して「友達でしょ?」と言わんばかりの表情の子。

 

不安で壁を作りたかった子にピッタリ寄り添うことで、お友達が壁になっているんです。もちろん、そんなことは考えてはいません。それでも「そばにいたい」という気持ちが、そうさせたんじゃないかなぁと思います。無意識に安心感を与えているんですね。

 

 

写真撮影を失敗して半分しか写っていないです

一番端っこで写真だと半分切れてしまっていますが、衝突事故の子ですね。その子の横に座って話をする子が。仲間が悲しんでいた時は、決してそのままにしない。素敵なクラスだなとあらためて思いました。

 

 

光の射す方へ

3歳児クラス全員の復活後、カーテンに隠れていた2歳児の子を発見して整列を促す3歳児たち。自分のクラスだけでなく、年下の面倒も見るということも普通にできていて驚きました。

 

環境の変化は子どもを不安にさせるんだということが少しわかってもらえたかなと思います。遊びにも影響してくるんです。そして、仲間同士で問題を解決する土壌が、すでに3歳児でもできているのもすごかったですね。3ヶ月前のゾンビ遊びからは想像できないほどの成長です。

 

まだ第一回で子どもたちも様子見です。これから3歳児の優しさが2歳児に伝染していく様子をご覧いただきたいと思います。