5歳児七夕まつりで合奏を披露するプロジェクトの最終回です。今回は第9回から11回までの様子を見ていただきます。残り数回しかないのに合奏をちゃんと練習していないというギリギリのスケジュールの中、どのように進んでいくのか。それでは、いってみましょう。
♯9
まずはどんなふうに叩くかの基本の部分をみんなで確認していきます。楽器制作に時間がかかり過ぎて、演奏する技術の向上や体験が行えていません。1から子どもたちにそれも全部決めてもらうには時間がない。
このへんが日時が決まっている行事に絡めたプロジェクト保育の欠点ですね。時間無制限なら子どもの力だけでゴールに辿り着けたいところですが、そうもいかない。そこで、保育士と子どもたちの意見を両方取り入れて作り上げていきます。
ただ演奏したり話し合いするだけでは飽きてしまうので、続いて衣装作りを行なっていきます。ベースとなる衣装の絵は保育士が用意しておき、イメージを共有。そこに自分たちで描きたいものや付け足したいものを入れていく。叩き方と同じく、保育士と子どものハイブリッドで進めていく。
子ども主体というと、全部子どもだけで行うと考えてしまう人が多い。だけど、よく考えて欲しいんですよ。何のためにやってるのかを。子どもの成長のためにやってるんですよね。子どもだけで行うためにやってるんじゃないんです。子どもを成長させようと思ったら子ども主体の保育になっていただけで、子どもの成長にとって保育士の関わりがあった方が良い部分に関しては、保育士も入るべきなんです。
元々の海外で始まったプロジェクト型の保育も、子どもたちが保育士や地域の人と一緒にプロジェクトを行うものです。子どもだけでやることに固執すると本質を見失う。あくまでもプロジェクト型は手段であって目的じゃない。やり方は柔軟であるべきです。
実際にカラポリで作る前に新聞紙で試作します。首の部分をどれくらいどのように切り取ればいいのかを実際に経験してみる。経験の積み重ねが技術や理解になっていくからです。
♯10
合奏途中で何度か訪れる「決めポーズ」をチームごとに決めていきます。これはおそらく同時期に野菜栽培をやっていたので、「ぐんぐん伸びるポーズ」でしょう。過去の体験が今につながるタイプの子だからこういう発想になる。つまり、何を体験させて行くかで未来が大きく変わる子だということです。
こちらは太鼓チーム。鬼滅の刃から「刀を持つポーズ」をイメージしたようです。この子達は周囲の環境に影響されるタイプだということ。つまり、出会う人たちや場所によって自分自身が影響を受けて変わっていく可能性がある子だということです。
カホンチームは「可愛いポーズ」ですね。ポーズを考える時に、自分の内面からアイデアが出てくるというのは自分の頭で考えられる子ということです。周囲に影響されすぎない。
それぞれのチームらしさが出ていて良いなと思いました。何が一番良いとか、そういうのもありません。個性があって、その個性がぶつかり合って輝く。そういうものだと思っています。正解なんてありません。
前回の終わりに新聞紙で試作しているので、実際に作る際にスムーズに行えています。本当は装飾をつけてから着るものですが、すぐに着たいので着ている。意欲的な証拠です。
続いて、装飾に入ります。前回計画した通りにビニールテープや色画用紙で飾り付けていきます。ビニールテープからでも、色画用紙からでも自由。やりたいようにやる。ただし、チームで統一したデザインにすることはみんな理解しているので、たどり着く結果は同じです。
メインデザインは星。五芒星の子もいます。第一回でタンバリンに飽きた子たちが組体操みたいに五芒星を作ったことを覚えていますか?
ここに来て繋がってくるんですよ。すごいですね。
一つの色画用紙を使って2人でデザイン案を考えています。企業の会議の風景みたいですね。真剣な顔で考えている。
小学校1年生くらいでも、こんな感じにはならないこと多いですから。プロジェクト型の学びは本当に効果がすごいです。
だいぶ夢中になって作っていますね。制作でゾーンに入ることはなかなか難しいんですが、そうなっています。
ただ自由に作るのではなく、色や素材、デザインをみんなで考えて、新聞紙で試作してから行なっているので、やり方の理解や集中力の使い方をわかっているんです。だから純粋に作ることだけに集中できる。計画と実行を分けるという問題解決のやり方を学んでいます。
完成した衣装を来て、決めポーズをやってみる太鼓チーム。良い笑顔です。
影響し合えるクラスなんですが、プラスの影響も連鎖するけどマイナスの影響も連鎖するような子どもたちです。扱いが非常に難しい。集団の流れや影響の与え合いを保育士が理解しながら進めないと容易に崩れてしまう。
子どもは自由な環境で育てれば勝手に良くなるというのは幻想です。しっかりと大人の作った環境の中で、導かれながら育つものです。
良い連鎖を産むというのがどういうものかを、このシリーズの流れの中で示してきました。自分が愛されたという体験や嬉しいと思うような経験は時間を越えて再現される。保育は、それを狙うような学びの環境を作っていくわけです。
私が大幅に監修しているとはいえ、実際に環境を用意し、進行をしてきたのは担任の保育士です。経験が足りないことは否めないけど、気持ちがまっすぐで努力家なところが良いところ。そういう目に見えない保育士の頑張りによって、子どもたちが成長していく。そして、その見えない努力はなぜか子どもたちの心に影響を与えていくんです。この写真から、担任を含めた一体感を私たちも感じることができるはずです。
♯11
本番の前日になりました。まだ決まっていなかった間奏部分の全員での踊りの「振り」を決めていきます。
実際に自由に踊ってみて、みんなが「面白い」と思って盛り上がって真似していった「振り」を採用します。
今まで決めた叩き方と決めポーズや踊りを、曲に合わせて何回か演奏してみます。何回かやることで、ここでこれをやるんだという理解が深まり、自信へと繋がっていく。
全11回のプロジェクトは全て終了。第一回で自分勝手に寝っ転がってしまった姿はもうありません。みんなでの関わりの中で、大きく成長していきました。
リハーサル後は自由に遊びました。1人が始めた頭の上に楽器を乗せる遊びが全体に広がります。
七夕まつりの準備だったわけですが、あくまでも遊びなんです。楽しもうという気持ちが溢れているのが、このクラスの良いところ。そして楽しむために工夫できる。影響し合える。本当に素敵なクラスです。
以上で、5歳児の七夕まつり合奏プロジェクトの紹介でした。3歳児や4歳児と全然違いますよね。賢いというか。違った面白さがあります。
紙面の都合上というか写真を厳選して組み立てているのでこういう感じになりますが、実際は大変でした。途中で走り出してしまうとか、集団から外れてしまう子がいたりとか。前半はそんなこともありましたが、後半はそんなこともなくなってきてご紹介の通りに活動に夢中になっています。
子ども主体と保育士主導。どちらかに偏った時におかしくなる。子どもが意欲的に主体的に活動するんだけど、保育士の教育的効果を生む環境や関わりがセットで行われる。そのコツみたいなものを担任が取得するまでは、なかなか難しい。
言うことを聞かせようとしてもダメだし、自由すぎてもダメ。保育に関してだけでなく、子育て全般に言えることかもしれません。
さて、次のブログでは七夕まつりの本番の様子をさらっとお伝えしようと思います。3歳児、4歳児、5歳児それぞれの準備の様子を丁寧にお伝えしてきましたが、それが本番どうなるのか。それを解説していきます。