5歳児クラスの七夕まつり合奏プロジェクト。今回は第5回から8回までの様子をお届けします。チームごとの色分けが終わり、いよいよ本格的に楽器を作っていきます。3歳児や4歳児クラスとは一味違う5歳児年長さんの様子をご覧ください。
♯5
楽器ごとチームに分かれて制作の続きを行っていきます。保育士が何も言わなくても、自然に助け合って作っていくカホンチーム。前回、箱の形と色を同じにする過程を経験して自然と仲間意識が強くなっているから、こういうことが起こるんですね。教え合い、手伝い合うのが「当たり前」になってきている。
太鼓チーム。貼り方も同じにしようと声をかける子もいましたが、それぞれが考えたやり方でビニールテープを巻いています。全部を同じにするのは個性を無くすことになるから、こういうところはこのままで良いのかもしれません。何事もバランスですね。
マラカスチームは3人中2人が休みだったので唯一登園している子は今回、太鼓チームに入って作っています(自分でそうすると決めました)。複数人で進めるプロジェクトですので、1人で作ることはしたくなかったので、良い選択をしてくれました。
チームごとに作ってはたまに全てのチームが集合して、お互いの感想を言い合う。その繰り返しで進んでいきます。他のチームの作り方を見て、自分たちのチームの作り方に反映させる場合もあるし、逆に自分たちのチームで学んだやり方を他のチームに教える場合もある。
その中では、あまりうまくビニールテープを巻けなかった子に、やり直しを提案する子も出てきます。
全体での振り返りを受けて、うまく巻けなかった子の太鼓の修正を行うことにした太鼓チーム。自分の制作が終わっていない子は続きを行い、自分の制作が終わっている子が、やり直しを手伝う。これも自然発生で起きました。保育士は何も言っていません。
落ち込んでいるやり直しの子をチラッと見て、すぐに巻き直すために箱から取り除いたビニールテープの残骸を顔につけて笑わせようとする男の子。場の雰囲気が明るくなります。ふざけているわけじゃなく、遊んでいるわけでもない。目の前の子の心を案じているだけ。優しい子です。
こういう「なぜその行動をしているのか」を保育士がちゃんと理解していないと、この子はふざけているという評価になってしまうかもしれません。もし叱ったりすれば、今後誰かに優しさを出すことをしなくなるかもしれない。大人の関わりって本当に適当にやってはいけませんね。子どもの様子をよく見ておかなければ。行動を見るのではなく、心を読む。私たち保育士は常に難しいことに挑戦しています。
他の子も自分の制作が終わったので太鼓チーム全員でやり直しを手伝います。やってもらっている子も人任せにせずに、ハサミを持って積極的に行っている。誰1人、他人事と思っていない。仲間意識をしっかり持っています。
最後は自分自身の手で仕上げを行っています。みんなも最後は手を貸さず、安心して別のチームの動向を見守っている。ちゃんと「自分で作れた」という体験になって終わっています。しかも「仲間に助けられた」という体験もセットで。すごく良い終わり方です。
保育士や教師が、作業が遅れていたり不器用な子の作品を手伝ってしまうことって、よくあるんですよ。私は小学校や中学校にも指導に行くことがありますが、学校でもよくある。それって子どもからすれば「自分でやった」という経験にならないから学びにもならないし、自信にもならない。
自分の制作が終わっていない子は自分の作品から取り掛かり、終わったら手伝いに合流する。これも素晴らしい。自分のこともやらないのに他人に首を突っ込むということもない。今回の太鼓チームの関わりは100点です。大人が見習うべきですね。
カホンチームもまたうまく作れなかった子の手伝いをみんなで行っていました。そこに合流する太鼓チーム。そして、先ほど手伝ってもらってやり直しをした太鼓チームの子が、今後は率先してカホンチームの子のやり直しの手伝いをしています。
これは感動しました。自分がされて嬉しかったことを、今度は自分が他の人に行っているわけですから。こういう連鎖が起きることを子どもたちに期待して保育をしているので、本当に嬉しかったです。
そして自然に起こる役割分担による分業での協力体制。これこそまさに共同的な作業。5歳児が目指すべき最高の姿がここにあります。一つのプロジェクト、つまりうまくいかなかった子を手伝うという目的のために、それぞれが何をすべきか考え、判断し、行動している。共同遊び。この姿だけでもこの合奏プロジェクトは成功したと言って良いでしょう。
右手前、みんなに手伝ってもらって完成。どうだった?と聞いて見たところ、顔を隠しながら「最高の気分だよ」と言っていました。なんだか感動しているみたいですね。伝わるんですね。子ども同士でも愛が伝わっている。そう思いました。
♯6
マラカスチーム。休んでいた2人が復帰して、前回いた子がお休みに。2人だからこそ結束が強くなる。2人で協力して制作していきます。前々回に手伝ってもらったことを、今日は自分が違う子に手伝う。ここでも同じような連鎖が起こっています。
こういうのは時間を超えて起こる。記憶の中に、体験の中に、嬉しかったことって残るんですよね。それが自然と未来の行動に現れてくる。
作っては集まって話し合う。今日もその繰り返しです。2人では気が付かなかった視点を仲間が教えてくれる。
この場合は、色画用紙を巻いた上の部分に「ビニールテープを巻いている」ペットボトルと「巻いていない」ペットボトルがあることを仲間に指摘を受けています。どっちにする?と聞かれて2人で悩む。
2人で悩むから良いんです。
2人が出した結論は「巻く」でした。完成の喜びに激しくマラカスをシェイクする2人。動きが激しすぎてカメラで姿が追えません。
マラカスの音出しをしてみた結果、中身の素材や入れる量によって音が違うことが気になり出した2人。何をどれくらい入れるかを話し合いながら試していきます。
カホンチーム。こちらも中身の厳選中。「1、2、3・・・」とみんなで数えながら、同じ量を入れていく。仲間と合わせていく喜びに気がついている。1人で好き勝手やるんじゃなくて、みんなで合わせていくのが嬉しい。
これが合奏の喜びの基礎になります。
中身を入れたら実際に叩いて音を確かめる。みんなで音を聞き合い、もっと入れるのか、中身を変えるのかを意見交換し合う。
太鼓本体が完成したので、バチを作る段階に。それを見越して、いろんなバチを用意しておいたところ、それぞれが自由に叩いて音や形状を確かめています。
それぞれが試作のバチを作った後に全員で確認していきます。カホンチームの子から、この形状が一番良いんじゃないかと意見が出ました。みんな、なるほどという顔をしていますね。
この後、この形状に決定し、同じように太鼓チーム全員で作っていきます。
それぞれのチームで作業に集中し、ある程度進んだら、またみんなで集まる。3チームが同時に違う制作をしているのを1人の保育士が見ていくのは大変です。昔ながらの先生が子どもに教えていくやり方ではうまくいきません。
子どもの主体性を発揮させ、子ども同士の対話により進めていく、このやり方を保育士が身につけないとうまくいかない。保育所保育指針に書かれている保育を解釈して実践すると、こういう形になりますよ、という一つの例を示しています。
熱中しすぎてマラカスとカホンの中に入れるビーズなどが床中に散らばってしまいました。それをみんなで拾っていきます。
前回のみんなで巻き直しを手伝った回も今回も、通常の遊びの時間をオーバーしてしまいました。子どもが夢中になってやったことで時間が伸びたことについては成長を第一に考えればそれはそれで良いのですが、この後の給食の時間に影響したことは保育士的には反省点です。他クラスにも迷惑がかかる。
次回は時間内に終わらせる。これを保育士の中で目標に掲げます。そして、時間内に協力して終わらせる喜びを、子どもたちに感じてもらるような回にすると頭の中に入れておく。そうするとなんとなく、子どもたちもそういう雰囲気になっていくんですよね。喋ってないのに。不思議ですが、そういうものです。
♯7
楽器作りも仕上げになってきました。前回の園長と担任の振り返りで「太鼓チームは音が小さいので演奏の楽しさを子どもたちが感じられないんじゃないか」という反省がありましたので、なんとなく音が出そうなものを用意してみました。
すぐに追加されたアイテムに気付き、手に取る子どもたち。
しかし、なぜかアルミホイルがブームになってしまい、せっかく一生懸命巻いたビニールテープが見えなくなるほど包んでいく太鼓チーム。
こういう大人だったらありえない発想が出てくるのが、子どもの面白いところ。いつ誰がこれに気づいて修正するのか。もしくはこのまま行くのか。見ている保育士もドキドキです。
ちなみの後方ではマラカスチームが音を出しているのですが、両耳を塞いでいる子がいます。どうやら、音が大きすぎるということに気がついたようです。この後、音量を下げるために中身を全部出して3人で試行錯誤していきます。ちょうど良い音量になるまでそれを繰り返していました。
アルミホイル巻きブームの中、木と金物をバチで叩く子が現れました。
「おー!」
「大きい!」
試しにあるホイルの上から叩いてみる。
「・・・なんか小さくなーい?」
みんな素材により鳴る音の大きさの違いに気がついたようです。
みんな一斉にアルミホイルを破り捨て、金物を叩く面にすることにしたようです。どうやって太鼓本体にくっつけるかを話し合いながら、そして試しながら決めていきます。
こちらはカホンチーム。1人が飾りを表面に付け出したところ、みんなで同じ場所につけることに。お友達の作品をじっと見て、自分のカホンのどこにつけるべきかを確認しながら作業していきます。
これは見本と同じ場所につけていくという視覚的短期記憶と視空間認知の訓練になっています。小学生の図形問題の基礎となる学びです。
今日は時間内に片付けまで終わらせることができました。今までは作品の工夫や、協力することの学びを得ることを第一にして行なっていましたが、今回はその一歩先、活動を時間内に終わらせることの喜びを実感することができたようです。
保育士が時間内にやらせるのではなく、自分たちでその目的に向かって協力して終わらせる。これも一つの時間内に終わらせるプロジェクトだと言うこともできます。
♯8
楽器が完成したので、いよいよ合奏する曲を決めていきます。どんな曲がいいのかを意見を出し合います。
曲決めのルールは3つ。
「みんなが知っている曲」「演奏しやすい曲」「演奏して楽しい曲」
これらを満たすかどうかを一つ一つ吟味していきながら、候補を絞っていく。
演奏する曲は鬼滅の刃の主題歌「紅蓮華」に決まりました。今更感もありますが、みんなで考えて、決めた曲ですので、保育士としてもこれでOKです。
鬼滅の刃をふわっとしか知らない子が決めた後に「僕はよく知らない」と落ち込んでしまいました。すかさずに駆け寄る仲間たち。みんなが知っていることを曲決めのルールとしていたので、どうするのかを子どもたちに聞いてみると、みんな悩んでしまいました。優しい子達です。
一度演奏してみようということで自分たちで作った楽器で演奏してみます。実際に曲に合わせて演奏してみると、なんだかしっくりくる。この曲で良いんじゃないかという気持ちになっていく。
中央の子が完全に音楽の世界に入っていますよね。一流の指揮者のような感情移入です。音楽と一体化しています。
みんなで演奏することに意味がある。やってみてわかる一体感。
第一回でタンバリンを叩いていてもよくわからなかった合奏の楽しさを、楽器作りで仲間と一緒に作り上げた今ならわかる。合奏って、心を一つにすることなんだ。
続けて衣装作りがスタート。まずは楽器と同じくチームごとに色を決めていきます。
カホンチームは楽器と同じく黄色。太鼓チームも同じ青で。なぜかマラカスチームは赤ではなく白を選んでいます。理由を聞くと「赤い楽器に赤い服じゃ見えなくなるじゃん」とのことでした。それはそれで正しい気もしますね。みんな色々考えている。
この光景、前にも見ましたね。全く同じことが展開されています。みんなで合わせるのか、自分が好きな色にするのかの視点の違い。
前回の学びが、今ここで試されています。
すぐに自分で立ち直り、「ジャーン!」と青のカラポリを持ってみんなに見せています。
それを見て「いいね!」と喜ぶ子の笑顔も素敵です。
同じようなシチュエーションだからこそ、成長していることがわかる。毎日が子どもたちを育てている。遊びは子どもを成長させている。
今回は体験によって学びが深まっていく様子を中心にお伝えしてみました。言葉じゃないんですよ。大切なのは。何を体験するか、です。
さぁ、次の「その3」で5歳児七夕合奏プロジェクトの紹介もおしまいです。衣装制作から前日までの様子をお届けします。