3歳児クラスと4歳児クラスはクラス単独で新聞紙やダンボール遊びをした後に七夕まつりの準備に取り掛かりましたが、5歳児クラスは遊びを挟まずにいきなり七夕まつりの準備に取り掛かっています。年長さんらしい活動の様子をご覧ください。このプロジェクトは実施回数が多いので、早送りでお届けしていきます。
♯1
このクラスで一年間何をやっていくのかを担任と園長で話し合い、音楽をテーマにしていくのはどうかという話になりました。まずは担任がサックスの演奏を子どもたちに披露します。
子どもの興味関心に合わせて活動を組み立てていくのが保育計画の基本ではありますが、保育士自身の興味関心や能力も加味して考えていかないと、保育士自身がやっていて面白くない。保育士が楽しめないと、子どもにも楽しさが伝わりません。今年度の5歳児担任が最も得意とする音楽で、合奏プロジェクトを行っていきます。七夕まつりで合奏を披露する。そういうプロジェクトです。
合奏とは何かを言葉で説明するのではなく、いくつかの動画を視聴し、子どもたちの中に共通のイメージを作っていきます。自分たちがこういうことを最終的にしていくんだというイメージを共有できないと、目的に向かって協力するという気持ちそのものが生まれません。
その後は合奏のイメージを広げるために、音楽に合わせてタンバリンを自由に叩きます。頭で理解するのではなく、実際に体験することが大事です。
しかし、すぐに飽きてしまいました。寝っ転がったり、喧嘩したりと収拾がつかない状態に。これはまぁ、当然の結果です。子どもたちが合奏の楽しさを十分に理解できていない。楽器を演奏する喜びもわかっていない。そんな中でちゃんとやるわけないんです。
普通の保育園や幼稚園なら、先生がやりましょうと言った活動を子どもたちは何の疑問も抱かずにやることが多い。しかし、うちの保育園では自分たちが輝く遊び方を子どもたち自分自身が知ってしまっている。この活動に興味が持てないので、やる気が起こりにくい。
こういうのも保育士のスキルでどうにかなりますが、経験が浅い保育士ではなかなかうまくいかないものです。このプロジェクトは、担任が子どもと一緒に成長する物語になっています。
そのうち、寝っ転がっていた子達が手を繋いで組体操みたいな遊びが展開されました。手をつないでいない子も跨いだり、くぐったり。全員で一つの遊びが生まれました。そうです。子どもたちの力で、心が一つになって遊んでいる。つまり、一つの目的のために役割分担して協力して「今が楽しくない」という課題をクリアしている。プロジェクトの形がすでにできているんですね。
組体操みたいな動きになった時に、私が笑いながら「それ面白いな」と言ったんですが、それで遊びの方向が変わりました。これも保育の技術です。誘導したわけでもなく、指示したわけでもない。ただ単に面白がっただけ。そういう相互作用の積み重ねで子どものたちの遊びが変化していくのです。
こういうスキルを保育士たちに教えるのもブログの役割だと思っています。
ちなみに5人で手を繋いで星形を作っていますが、これは五芒星と言われる形です。西洋では古くから魔法のシンボルですし、日本の平安時代では陰陽師の五行の象徴として使われています。何かが起こる予感を感じさせるスタートです。
そして、星の形。きらり美南保育園のシンボルマークです。
♯2
第一回は導入回でしたが、第二回も導入の続きです。前回は合奏とは何かというイメージを膨らませることが目的でしたが、今回は楽器作りのイメージを膨らませて興味を持てるようになる(かもしれない)ことが目的です。
それぞれが自由にマラカスを作っていきます。作り方は教えません。マラカスを作ろうという話だけをしただけです。その後は何を使っても良いし、どういう形でも良い。子どもの発想を大事にします。中に何を入れるかも自由です。それによって音が変化するのも子どもたちの発見と工夫です。
作ったらみんなの前で発表します。ただ作るだけでなく、それを人に発表するという作業を挟むことで、他人を意識する子になる。自分が作りたいものを作るという自己満足の世界から、人に自分の作品を見てもらうことで他者の世界と繋がっていく。
続いて、太鼓を作っていきます。第一回で視聴した合奏の動画に出てきた楽器から、作る楽器を選んでいます。
こちらは何も言っていませんが、「並ぶんだよ」と誰かが言い出し、自然とルールが生まれています。こうやって、大人が教えるのではなく、子どもの世界でルールが生まれ、自発的に社会性を学んでいくのがとても良いですね。
廃材の横には実際の太鼓をいくつか用意しておきました。自由に叩いて良い。それにより、どういう太鼓を作るかのイメージを膨らませることができる。こういう工夫が子どもの可能性を広げていくんです。太鼓を作ることが目的じゃない。太鼓を好きになることが目的です(ここがポイントです)。
太鼓本体だけでなく、バチになるものも探してきていますね。楽器を自分で作るということは、楽器に興味を持つことに繋がります。前回、興味が薄いことが課題になっていましたが、こうやって少しずつ楽器への興味を広げていくわけです。自分で作ったものには愛着が湧くものです。
♯3
前回は作るのに夢中になって遊ぶ時間が取れなかったので、今回は最初に自分たちが作った楽器で自由に演奏をしてみます。
子どもの成長には熱中することが必要です。お行儀よく椅子に座って演奏するのではなく、魂の赴くままに体全体を使って演奏しているのはすごく良いですね。
この後、自分たちが作りたい楽器ごとにチームに分かれて活動していきます。
こちらはマラカスチーム。何を使って作るかはチームごとに決めてもらいます。3人は大きいペットボトルで作ることに決めたようです。
しかし、よく見ると3人のうち2人は同じ形のペットボトルですが、1人は違う形のペットボトルになっています。このあと、3人で統一しようということになり、廃材のダンボールの中から探しますが、同じ形のペットボトルが見つかりません。
部屋にないので、別の保管場所からペットボトルを探すことにしました。他のチームの子も手伝っています。この中から同じ形のペットボトルを3つ発見し、無事、統一することができました。
こちらはカホンチーム。カホンとは、素手で箱を叩いて音を鳴らす楽器です。それぞれが違う形状の箱を持ってきています。手前の2人は牛乳パックですが、奥の2人はお菓子の箱とティッシュの箱。同じチームで統一感を出せていません。
ペットボトルを統一しようとするマラカスチームに影響を受けて、カホンチームも4つ同じアイテムで揃えることはできないか、廃材の箱をくまなく探していきます。
たくさんの中から同じものを探し出す。これも結構難しい作業です。正解を頭の中に留めておきながら、目の前に現れたものを頭の中の正解と照合していく。そしてそれを人数分の個数が集まるまで行う。遊びが教育とはこういうことです。
ティッシュの箱が一番たくさんあるということに集めてみて気がつき、全員で同じ箱で統一することができました。みんなで統一できたことに喜びを感じているからこその笑顔ですね。自分で好きなように作るのではなく、みんなで話し合って一つに決めていく。この作業を繰り返すことで協同的な活動を行うことができるようになっていきます。
太鼓チームも同じく、同じ形の箱を探していましたが、見つかりません。目星をつけたのは「ガリガリ君」の箱。これならちょうど良い大きさ。チームメンバー4人に対し、ガリガリ君の箱は3つしか見つかりません。この日はここで時間切れ。各自、ガリガリ君が家にあるなら箱を持ってこようという話になりました。
翌日、無事にガリガリ君の箱を4つ揃えることができました。4つどころか、いろんな子が持ってきてくれました。私もこの日の帰り道にスーパーでガリガリ君を買って次の日に箱を持って行ったんですが、こういうのも大事ですね。園にいない時も仲間のことを想って行動する。そういうのが仲間意識を作っていく。
♯4
続いて、第4回では色の統一へ。箱やペットボトルの形状や大きさを同じにしても、装飾の仕方やメインの色が違ってしまってはバラバラに見えてしまう。色や形状の統一は、見た目で一体感を出すためです。子どもは見た目に引っ張られて認識します。仲間意識を育てるなら、見た目を合わせていくことが結構大事な要素です。
保育士が用意したいくつかの色のついた画用紙や折り紙を見て、どんな色にしようか考えてもらいます。
最初は自由に各自で選んでもらいました。すると、チームで統一どころが、全くバラバラの選択に。良いですね。ここからどうなるのか楽しみな展開です。
最近の保育園では、子どもの主体性を大切にするという名目で、子どもの自由にさせているところが多すぎる。それでは社会で生きていけない。周囲との折り合いをつけながら、自由に選択して良い時は自分の自由に、周囲と合わせる必要があるシチュエーションでは周囲に合わせて行動する。それが両方できる子に育てていきたいんです。どちらかだけではだめ。人に合わせるだけとか従うだけもだめだし、自分勝手しかできないのもだめ。両方欲しい。
「この間みんなで見た動画では、合奏する人の衣装や楽器の色ってどうだった?」と子どもたちに聞いてみます。そうすると「同じ色だった」「そうじゃないと変」などと返事がありました。「サッカーも同じユニフォームだし」というチームで同じ色にするというイメージを口にする子も。
カホンチームは何色でも良いという手前の2人と、「絶対に黄色!」と主張する女子2人と、なんとなく「ピンク」にしてみた男子1名の意見のすり合わせが行われます。自分の意見を通すのか、相手に合わせるのか、仕切って解決するのか、見て見ぬふりをするのか。大人の世界と同じですよね。学校や会社で意見が違った時にどうやって対応するのか。幼児期からこういう難しい問題を体験しておくのが大切なんだと思っています。
幼児だからみんな自由で良いという「摩擦の起きない生活」を用意するのは違う。年長クラスだからこそ、小学校に向けて、こういう「問題解決を学べる」保育をしているわけです。
揉めているカホンチームの子達は、他のチームはどうなっているのか気になって後を振り返っています。いつの間にか2チームとも黄緑で統一されている。驚くカホンチーム。やっぱり同じ色の方が良いんだ、という気持ちになっていきます。
マラカスチームの子がカホンチームの話し合いに参加してきました。どうやって決めたのかと尋ねられ、答えています。子ども同士の対話が促進され、解決へ向かっていく。
続いて太鼓チームのところへ行くマラカスチームの女の子。
こちらは私が予想しなかった展開になっていました。太鼓チームとマラカスチームが黄緑で同じ色だったことを「違う」と感じた太鼓チームが青に変えていたのです。そこに納得がいかない手前の子が黄緑のまま抵抗しています。
太鼓チームは特にこだわりがない子が多いので、さっさと青に変えたわけですが、この子だけその思考の変化についていけていない。他の3人は「色を揃える」ことを第一に判断していますが、この子は「使いたい色を選ぶ」ことで判断している。実は大きな違いがある。集団の視点と個人の視点。わがままというわけではないんです。視点の違いです。
何度も色を変えていきます。誰かが変えたら、他の子も変える。それを繰り返していく。
やっと太鼓チームが揃ったと思ったら、黄色になってる。ということは、カホンチームと色がかぶっているので、やり直しになる。そういう雰囲気と流れです。なかなか決まらない。
そして今度は青で決まりそうになったところで、1人が赤を持ってきている。タイミングが悪い。それぞれが色を変えることで事態を打破しようとするんですが、そのタイミングがズレてしまうことで全員が同じ色に揃わない。
「ガリガリ君が青いんだから、青にしない?」
「いいね」
「そうしよう」
「賛成!」
揉めていたのが嘘のように4人が青を選んで決定しました。揉めたからこそ、決まった時の納得が違う。完全に納得して決まった時、集団のまとまりはすごい。ただなんとなく同じ色にしたののではなく、長い時間をかけてそれぞれが工夫した結果、全員納得で青にたどり着いた。結果ではなくプロセスが大事です。
これを私は待っていたのです。大人が介入しないからこそたどり着いた結果です。
待ってる間に暇だったからか、マラカスチームは黄緑から赤に変わっていました。赤青黄色で決定です。
赤、青、黄色は、色の三原色ですね。偶然とはいえ、この3色になったことは興味深い。この3色があれば、混ぜ合わせて何色でも作り出せる。無限の可能性。この子達のこれからの未来を暗示しているかのようです。
色画用紙は色がわかりやすいように用意しておいただけなので、実際に何を使って色をつけていくかは子どもたちに決めてもらっています。太鼓チームはビニールテープを使って箱の全面を青くするようです。
カホンチームも黄色のビニールテープを使うようです。幅があるカラーのガムテープや養生テープを使えば簡単なのに、細くて伸び縮みするから巻くのが難しく時間がかかるビニールテープにしてしまうのは効率や論理性で選んでいないから。純粋に「使ったことがない」ものを選んだだけです。この道具を使ってみたいという「好奇心」で選んでいます。
逆にマラカスチームは色選択で使用した赤の色画用紙をそのまま使うようです。手には赤いビニールテープ。道具の併用。
なんでそれを選んだのか聞いたところ「だってペットボトル大きいから、こっちの方が楽じゃん。」ということでした。効率重視ということですね。論理的に考えたというより、一瞬で本質を見抜く力がある子が揃っているのがマラカスチーム。たまに大人をハッとさせることを言ったりする。
色の統一に時間がかかったためこの日で楽器の制作は終わりませんでした。保育士が決めたスケジュールを守らせることが大事なわけじゃない。子どもたちが何を学び取ったかが大事。この色を決めるという過程に大きな学びがありました。今日終わらなくたって構わない。
さぁ、ここまでで4回です。全部で11回行っていますので、まだ三分の一ということになります。3歳児や4歳児と全然違いますよね。年齢的に他の学年とはできることが全然違う。やれることがたくさんあるし、学べることもたくさんある。保育士的にも年長クラスは本当にやりがいがある。その分、難しいですけどね。
その2へ続きます。