4歳児シリーズも今回でラストです。前回までは子どもの主体性がうまく発揮できていない状態でした。ここからどういう工夫で、子どもたちが意欲的になるのかを見てもらいたいと思います。
♯3
劇に向けて何をしたいか聞くと「衣装を作りたい」という意見が出たので、衣装作りを行うことにしました。やっぱり、保育士が決めたらダメなんですよ。全部子どもが決めれば良い。それが本来のプロジェクト保育です。ということで、この第三回から私の監修を細かく入れてあります。
好きな色のカラーポリ袋とマークを選んで作っていくという設定にしました。1から衣装を考えてもらって作る時間がないからです。本来は全部子どもたちに衣装も考えてやってもらいたいんですけどね。衣装を作るのを試行錯誤するプロジェクトではないから今回はこれで良いんです。
今回の衣装作りはあくまでも主体性を発揮させて意欲を引き出すこと、衣装を着ることで劇をやるというイメージを膨らませること、彦星チーム織姫チーム神様チームで分かれて作ることで仲間意識を育てること等を目的にしています。何のためにやるかで遊びの環境の設定も変わってきます。
素材だけ用意してあとは子どもたちに作り方も進め方もお任せです。
うまく衣装を作ることができない子が出てきました。すると、自然に子どもたちが集まってきて、教えてくれています。「こうすればいんだよ」「ここはこうだよ」と的確なアドバイスをしていく。
大人が教えすぎない。無駄に助けない。そうすると、子どもが子どもだけで解決していく。本当のプロジェクト保育っぽくなってきました。
そもそもパワーを注入していたのだって、子どもの力での復活ですしね。すでにあの時には助け合いの雰囲気があったんです。
完成した衣装を着させてあげています。青は彦星、黄色は神様なんですが、神様が彦星という人間を助けていることになりますね。
役割演技と現実の行動がリンクしています。こういうのも偶然のようで偶然じゃないんです。しかも、衣装がマントみたいだから、ヒーローみたいな心持ちになるんですよ。不思議ですよね。ヒーローの格好だと、人助けをしたくなる。
彦星が飼う牛に見立てた大きなぬいぐるみ。織姫が織る布に見立てた白い布。神様が上から見下ろすためのひな壇。物だけ用意して、保育士は何も言いません。そうすると、それらを使って自由に遊び始める。そのうち自分の役のイメージと劇の内容を頭の中で組み合わせて、自分なりの役の表現にちなんだ遊び方ができるようになっていきます。
神様チームが雲の上見立てた(神様は雲の上にいるという意味でしょう)ひな壇にマットを設置して、滑り台にして遊んでいます。彦星も滑っていますね。
雲の上から登場して、滑り台で下界に降りるという登場シーンがここで誕生しました。遊びの中から劇のシナリオや構成を変えていきます。子どもと一緒に作り上げる。保育士が押し付けない。そうすると子どもの意欲がどんどん引き出される。
試しに登場シーンをやってみることになりました。織姫チームからスタートします。
ちなみに役は全部自由にやりたいものを選んでもらっています。男の子が織姫やっていますが、それも自由。人数比がバランス悪いけど、それも自由です。
マットを滑り台のように使って登場するシーンをやってみます。スーッと滑るというより、ドシン!と落ちるように最初の子が滑っている。みんなが笑う。次の人もドシン!また笑いが起こる。笑顔が連鎖する。子ども達も早く滑ってみたいなという雰囲気が生まれます。自分たちで考えた登場シーンで、偶然起こった面白いシチュエーションを発見して仲間で共有する。良いですね。劇をやりたいなというモチベーションが生まれる。
毎回、ドシン!と落ちるので、その都度マットがズレてしまう。それを率先して直す神様チーム。神様が人間の環境を整えている。役と行動が一致しています。私はこれを狙っていたのです。本番でも、マットがズレたら直す仕事を神様チームが自発的に自分たちで行なっていました。
彦星チーム。牛を飼うというシーンで、ぎゅっと抱きしめて可愛がるという演技をしています。自分たちで考えて表現する。これが本当の劇です。大人に決められたことをするのが劇じゃない。表現というのは自分たちの内面から出てくるものです。
織姫チーム。布を織って服を作るというシーンで、自分たちが普段使っているスモックを畳むという表現になりました。普段やっている、基本的生活習慣である服を畳むという作業を遊びの中で行います。日常で獲得したスキルは遊びで活用できるようになる。日常が遊びを作り、遊びが日常を作る。良い循環が生まれています。
神様チーム。滑り台で活用したマットを、天の川として活用することを思いつきました。みんなで運びます。
それぞれが遊びの中で思いついた表現を、自分たちの劇に取り入れていきます。
どんどん意欲的になり、どんどんアイデアが出てくる。保育のやり方をちょっと変えるだけで、子どもたちが輝き出す。保育って面白い。
♯4
第四回。本番前最後の回です。彦星は牛の世話、織姫は服を作り、神様はそんな2人の働きぶりを眺めているシーン。
神様が考えたマットの天の川が、織姫と彦星が会えない様子をいい感じで表現できています。
一生懸命働く彦星と織姫の様子を見て、神様は天の川に橋をかけて2人が会えるようにしてあげます。
これも何も保育士が言わなかったんですが、子どもたちが赤い踏み台をいくつか持ってきて、橋にしていました。創意工夫ってやつです。子どもって、言われたことをやるのは嫌だけど、自分で考えて決めたことは意欲的にやるんですよね。もちろん、こちらとしても、それを狙っています。
彦星が橋を渡り、織姫に会いにいきました。そこで抱き合う二人。ダンボール遊びで抱き合う遊びがありましたが、あれがここで効いてきてます。あの時やっていたから、今になって自然の演技としてそれが出てきている。
しかし、マットがふかふかなので、マットの上に赤い台を置いて渡るのは危険があったため、神様チームが改善に取り掛かりました。マットをずらして床に直接赤い台を置く作戦のようです。これも一人でやっていないところが良いですね。知恵を出し合うというのがすごく大事です。問題を誰かと一緒に解決する体験を小さいうちにしておくほうが良い。
完成したら実際に渡ってみる。職人みたいですね。隙間がないか、曲がっていないか、ちゃんと確認しています。
手前で見ている子は、一つ前の写真では奥にいました。つまり、前に回り込んで確認している。実際に作業をする人と、客観的に様々な角度から観察してチェックをして指示を出す人。両方が組織には必要です。
さぁ、これで劇の大枠は完成しました。ざっくりしか決めていませんが、それで良いんです。発表会の劇じゃないんだから。これは劇ごっこなんです。当日はアドリブ劇を楽しみましょう。
時間が少し余ったら、ちょっとゲームでもしてみようかなと計画していたので、みんなを集めて私がゲームを行います。
劇の動きの確認をしているときに、彦星の牛を触った神様に「ドロボー!」と笑って追いかけるという遊びが出てきたので、試しに「牛どろぼう」というゲームをやってみました。この場で私が適当に作ったゲームです。
牛どろぼうが牛を盗んで逃げる。制限時間内に牛を取り返したら警察の勝ち。逃げ切れたら泥棒の勝ち。警察になるのも泥棒になるのも自由です。1ゲームごとに警察と泥棒は変更しても良い。人数差が出ても面白い。それすら駆け引きになる。
自由にさせてみると警察官の方をやりたい人が多いことがわかります。これはこのクラスがルールや秩序を重んじる子が増えたということを表しています。集団として自浄作用があるということです。つまり、集団が成長したことを表しています。
引っ張り合う遊び。警察官が協力して泥棒から牛を取り返す。これはダンボール遊びでガムテープの引っ張り合いがありましたよね。あれです。そして警察官もダンボール遊びで出てきた要素です。これまでの遊びで子どもたちから自然発生してきた要素をその場で組み合わせて私が遊びを作り出したわけです。
正直、めちゃめちゃ盛り上がりました。子どもの興味関心から保育を行うというのは、こういうことです。
ダンボール遊びの最初ではみんなバラバラで遊んでいて、ルールもあってないようなものでした。しかし、様々な遊びを共有して、イメージや楽しい思い出を共有することで、こういったゲーム的な遊びのルールも共有して遊べるようになったんです。成長を感じますね。
こうやってまとめてみると、4歳児も面白かったですね。この一連のプロジェクトの後、子どもたちはみんなで遊ぶことが増えていきました。印象に残るような、内面を変えるような遊びを行うと、子どもたちは大きく成長します。
劇の方は、保育士の押し付けではなく子どもから出てきたアイデアを自由に取り入れながら、かつストーリーが破綻しないようにシナリオを修正し続けるところに成功のコツがあります。結構難しい保育スキルが必要ですが、うまういけばこのようになります。世の中の保育士の皆さんにはチャレンジして欲しいやり方です。
子どもだけの力で解決するのが本来のプロジェクト保育ですが、4歳児であれば保育士のサポートも少し必要です。プロジェクト型は子どもを成長させることが目的の保育のやり方ですから「大人が何も手伝わない」ことにこだわると、子どもの成長が目的にならないで、大人が手伝わないというルールを守ることが目的になってしまう。ルールはあくまでも子どものためにあります。そこを間違えないことも大切です。
4歳児クラスの七夕まつりの準備の様子は以上となります。七夕まつり当日の様子は、次の5歳児シリーズが終わってからまとめてお伝えします。