3歳児シリーズも、この七夕まつりプロジェクトで完結します。歴代キャラクター総出演の物語をお楽しみください。
今年度の七夕まつり前日祭は、3歳児、4歳児、5歳児クラスの子どもたちがそれぞれ発表をするということになりました。3歳児クラスは歌の発表です。第一回の今回はその導入となる遊びを行います。
♯1
環境設定としては七夕まつりの導入なので天の川をイメージしたお部屋にしてみました。星型の色画用紙とスズランテープ。そして川のつもりで置いたブルーシート。川として遊んで欲しかったけど、子どもには川には見えないので無視して走ってますね。それもまた面白い。この環境で面白くならないはずがないです。
担任の保育環境の設定の上手さが、最後まで読むとよくわかると思います。子どもの遊びを邪魔せずに広げていくのって、結構難しいんですよ。
ゾンビと人間が共存する世界になったのが前回でした。今日は最初からバラバラに遊ぶことはなく、いろんなメンバーが入れ替わりながら遊んでいます。お友達を意識しながら自分の遊びたいことも大切にし、仲間はずれを作らないでフラットにみんなで遊ぶ。結構、理想の遊び方じゃないかと思います。
前回の遊びで子どもたちが深く学んだということです。時にゾンビたち。固定メンバーだけで遊ぶよりもいろんな人と遊ぶ方が楽しいということを体験で理解した。大人が教えるんじゃなくて遊びが子どもたちに教えてくれます。
ありのままに生きる。簡単に言いますが、結構難しいことです。前回までは難しい顔をしていた「エルサ」ですが、今日は素直に感情を出しています。どうやら、ピンクの星をどこかに落としてしまったようです。
真剣な顔で耳を傾ける「ドクター」。前回、治療をしてくれた役割の子です。話を聴きながら視線を動かし、その落としたであろうピンクの星を探します。聴きながら相手の気持ちを理解し、一瞬で解決策を考え、話を聴いたまま紛失したものを目で探す。3歳児ってそこまでできるんですね。すごい。さすが「ドクター」です。
しかも、持ってきてあげるんじゃなくて「一緒に探しにいく」んですよ。そして「基本的には相手に発見させて相手に拾わせ、破れてしまった星だけ自分で修理して最終的に相手に渡す」という技を繰り出します。いやぁ、もう完敗です。そのへんの保育士より保育をわかってますよ。主体的に自分で解決させることで自信をつけて自分で課題を乗り越えてもらうということです。
「ドクター」恐るべし。こういうのもちゃんと見てないと、この子の凄さがわからない。ただ優しい子だね、みたいなフワッとした評価にするなんてもったいないです。
感情をありのままに出して他人に甘える「エルサ」に対して「自由人」のゾンビの男の子は再びソンビになって人間に襲い掛かります。環境が変わっても時間をおいても、子どもの世界は繋がっていることがわかりますね。
そこに右から星とスズランテープを体に身につけてプリキュアに変身した女の子が攻撃しようとしていますね。以前は「エルサ」がプリキュアに変身してゾンビをやっつけました(衣装はないので自分の頭の中で変身していた)。その時に助けてもらっているのがこの子です。それを見ていたんでしょう。プリキュアがゾンビをやっつけるというイメージをちゃんと継承している。そして今回はちゃんと変身して戦っています。ただのイメージの世界でプリキュアになっていたのに、今回は具体物を使って変身している。イメージ100%の世界から現実の世界50%くらいまで遊びが移行してきています。
ちなみにこの子は345歳児合同遊びで自分で困難を乗り越えたメロンの絵カードを持っていた「メロン」ですね。プリキュアになった「メロン」の一撃で、無事にゾンビは大人しくなりました。
変なあだ名をいっぱいつけてしまってすみません。ここに名前を書くわけにいかないし、説明の便宜上、名前っぽいものがある方が説明しやすいので許してください。
ゾンビをやっつけた真ん中の「メロン」は右の「さだまさし」と左の「革命軍」と一緒に衣装を作って遊びます。もともと、発表の時の衣装にする素材をたくさん置いておいた(星とスズラン)のですが、見事に体に身につけてプリキュアになったり着飾ったりしています。担任に衣装を着せる遊びになりました。
ゾンビと人間が共存する世界。とても良い感じです。
ブルーシートの中に潜る遊びがブームになってきました。それを遠くで遊んでいて気がついていない女の子たちに教える男の子。足の裏が黒いことをみんなに伝えてくれた通称「黒足」です。伝える役割を担っている、遊びをつなげる個性を持った男の子です。
オールスター夢の共演!
天の川のつもりで用意したブルーシートは中に潜る遊びが活性化し、中に潜る子と、ブルーシートを上からかける子に分かれて遊ぶようになりました。全員が潜る遊びから、役割分担がある遊びに進化しました。
「ゾンビ」や「黒ひげ」が中に入り、右にいる「保育士さん」「看護師さん」がブルーシートをかけています。まさに今までの役割と同じような遊び方です。
「産まれる」
「もうすぐ産まれますよ!」
「頑張ってください!」
え?何が始まるんでしょう?
「産まれましたー!!」
中から満面の笑みの「ドクター」が出てきました。こんなキラキラした目の輝き、なかなか見ることはできません。日頃から「子どもの目が輝くような保育をしよう」と私は保育士たちに話をしていますが、こういうことです。こういうこと。
母なる海へ人々は還り、そして再生していく。
天の川ってほとんど海ですからね。生命が生まれたのは海。そこからもう一度生まれ直す遊び。子どもの遊びって最終的に壮大なテーマになることがあるんですが、それが起きるには条件があります。
・ある程度同じ環境で遊びが繰り返されること。
・ある程度同じメンバーでイメージを共有して遊べていること。
・遊びが十分に広がり、深まっていること。
・そして、大人が温かく見守っていて子どもが安心感を感じていること。
これらが揃わないと最高の状態になりません。
次々と海から出てくる子どもたち。ゾンビたちも全員生まれ変わったようです。つまり、ゾンビと人間が共存する世界から、新たな生命が誕生し、全員同じ「新人類」になったということです。
まさに全員で分け隔てなく遊ぶようになった、このクラスの「今」を表現しているかのような遊びの展開です。
それもずっと「エルサ」たちを陰で支えてきた「保育士さん」と「看護師さん」のおかげです。私は主役も好きですが、こういう地味ながらも重要な役回りの役者さんが好きですね(役者じゃないけど)。この子たちがいなかったら「エルサ」はありのままに生きるところまで辿り着かなかったし、今日のみんなで生まれ変わる遊びも起きなかった。
自分達も海へ還り、生まれ変わります。全員が「新人類」へ進化していく。
生まれたばかりの新人類。赤ちゃんという設定なのか、「ドクター」「保育士さん」「看護師さん」が世話をしています。生まれ変わるだけでなく、育て直しの遊びでもあるようです。
ゾンビの世界から新人類が誕生して新しい世界が誕生するということですから、スケールが大きすぎますね。ああ、前回までは連続ドラマで、これは劇場版って感じですね。映画館で観るレベルの映像とストーリーかもしれない。
前回同様に、お掃除グッズを床に落としてしまう男の子たちの世話をやく女の子たち。
代わりに拾ってあげてます。遊びのメンバーが固定されていないのがわかりますね。
ゾンビの女の子が人間の男の子の輪の中に入ったのも、この白い箱が床に落ちたのがきっかけでした。そのイメージが男の子たちに残っているから、この遊びが始まったわけです。そして、この場所。狼から逃げて隠れた場所。ゾンビが産まれた場所。全てが始まった、あのすみっこ。遊びの展開は場所に影響されるんです。
小さいチリトリとホウキを白い箱に入れて片付けるわけですが、その白い箱を持って逃げる「黒ひげ」をみんなが追いかけるという遊びに変化しました。
ほとんどの子が参加します。「看護師さん」は海にいる子の世話が忙しくて参加できていませんね。活動に参加しないのではなく、自分の遊びをしているわけです。
一度、流れを整理しますと、最初はイメージの世界の架空の「狼」から逃げる遊びだった。次がゾンビが人間を追いかける遊びになり、プリキュアがゾンビを倒した。その結果、ゾンビはゾンビだけで遊ぶようになり、人間との断裂が生まれた。プリキュアがゾンビと人間の橋渡しになろうとしたが失敗。自由にありのままに生きるようになったところ、逆にみんな仲良くなった。そして今回、ゾンビも人間も海へ還り、新人類として生まれ変わって同種族になった。
そうですよね?
ということは、この白い箱を持った人を追いかける遊びというのは、同種族間における役割分担の遊びということです。ゾンビが人間を襲うとか、プリキュアがゾンビを倒すという一方通行の遊びではなく、同じレベルの同じ役割の新人類が、箱を取り合っている。異種族間の生存をかけた戦いではなく、人間が物を取り合って争っているわけです。人類が他の動物との生存競争に勝って地球の覇権を握った後に人間同士で戦争を引き起こすのと同じことになってます。
どんどん遊びが進化している。たった数日でここまで遊びの質が深くなるとは驚きです。
えー!
ありのままに生きるとは、そういうことだったんでしょうか!?
人類が他の生物との生存競争に勝った後の状態と同じと言いましたが、ペットを飼うというのも人間の文化というかエゴというか。なかなか深みがありますね。人間は他の生き物とどのように生きるべきかを考えさせられます。
せっかく生まれ変わったと思ったら、動物に転生したようですね。それを「革命軍」が散歩させています。王国を崩壊させたかつての仲間である青い髪留めの「エルサ」をペット扱いするとは「革命軍」はすごい大物かもしれない。凄腕の退役軍人が平和になった世界で犬の散歩をして暮らしてるみたいな感じですかね。争いとは無縁の世界。白い箱の取り合いにはあえて参加しない。
白い箱を取った人が今度は逃げる役割に変わる。自然にそういうルールになっています。ルールを共有して遊ぶことができるのが、3歳児から4歳児になるということです。
「黒足」が白い箱を持って逃げようとしていますが、後には「自由人」と手を繋ぐ男の子の姿が。この子は345歳児合同遊びで新聞紙を投げたり箱に入ったり積み木を作ったりしていた子ですね。好奇心があって何でもやってみようとするので「チャレンジャー」とでも名付けましょうか。ゾンビが発生する前に子ども同士で手を繋いで狼から逃げるという遊びがありましたが、それを再現しています。手を繋いで「黒足」を追いかけます。
動物(元エルサ)を散歩させる「革命軍」とすれ違ってますけど、特に何もドラマは起きないですね。やはり、戦いに自ら赴くことはないってことでしょう。革命はもう終わったのだから。
今度は「メロン」が白い箱を持って逃げています。わりと引っ込み思案というか、控えめな子かなと思ってたんですが、みんなの中心で堂々と歩く姿はなんだか、ジーンときてしまいました。親戚の子が成長した姿を見るおじさんの気持ちってこんな感じですかね。それとも孫を見るおじいちゃんの気持ちかもしれない。
そもそも白い箱など部屋の備品を持って逃げる遊びをしていたのもあり、善悪の判断ができなくなってきています。ホワイトボードに勝手に落書きをし始めました。悪いことって楽しそうですから、みんな集まってくる。
担任としては、ここで許すと教育活動にならないから、やんわりと「ここに書いていいのかな?」と考えさせる言葉を子どもたちに投げかけました。
「ダメ」
「よくない」
次々と止めるべきという意見が出ます。それを率先して伝えてくれたのは「保育士さん」や「ドクター」です。子ども同士で気づかせ合うのが良い感じです。
ああ、前と同じです。みんなに言われて落ち込んで座り込んでしまいました。背を向けているのは「一人にして」のサイン。心配で近くまで来た「保育士さん」も空気を読んで横を素通りです。素通りしているけど視線は向けないけど、気にしているのがわかる表情をしていますよね。なかなか高度な心の読み合いをします。3歳児すごい。
そこへ一緒に落書きしていた仲間たちが。制作する時にテーブルに敷くシートを勝手に出して広げ始めました。
私には仲間がいるわ!(ただし悪い仲間が)
自然と笑顔になる「メロン」。
というわけで、これもどこかで見たような展開に。いやもう、「自由人」の男の子は本当に自由ですね。「メロン」がめちゃめちゃ笑顔になっているから、まぁ、良いんでしょうけど。
いや、良いのかな、これ。
良くないですよね。お絵描きで使う紙もめちゃめちゃに投げてしまい、現場は大混乱。新しく生まれた「新人類」とはルールを守れない人たちなのか。
めちゃめちゃ笑って楽しそう。テンションが上がって周囲が見えていない。
そこへ3人の女の子が立ち向かっていく(中央2名と右手前)
「ドクター」「看護師さん」「保育士さん」です。
「保育士さん」はまず、制作シートに寝ている子のところへ行き、シートを回収。
悪いことをして笑顔になってもダメですから。ルールはルール。これで正解です。
続いて「ドクター」が指示を出し、「チャレンジャー」が中心となって紙を回収していきます。シートもどんどん畳んでいきます。ふざける人は一人もいません。
何でも好奇心を持つから紙も投げた「チャレンジャー」。片付けにも熱心に取り組めるんです。困難なことや嫌なことにも取り組める心を持っているから「チャレンジャー」なのです。
周囲の状況を見て「革命軍」の男の子はペットにしていた「元エルサ」を解放し、片付けに向かいます。
革命とは自分が間違っていると思う権力に対して反旗を翻すこと。ルール無用のこの世界は自分の理想とは違います。戦いを忘れてペットと散歩する平和な生き方を選んでいましたが、この状況を見て、自分のやるべきことを思い出したのかもしれません。
テキパキと片付けていく。とても頼りになります。
こちらは「保育士さん」の指示のもと、「革命軍」のペットになっていた「元エルサ」をシートの下から発見。
先ほど寝転んでいた「自由人」も中央でシートの回収を手伝っているし、左後ろでは「メロン」が自分でシートを畳んでいます。正しい行動が少しずつ伝染していく。
動物に転生してしまった「元エルサ」をもう一度海に沈める「看護師さん」。そういえば、ずっと世話をしてくれていたのも、あなただったよね。一番心配していたのかもしれない。手前では「ウォーキングデッド」も心配そうに覗き込んでいます。
星の散らばるこの天の川という海で、あなたがまた人間になることを私たちは願っている。
みんなの協力で部屋の中の「よくないもの」は無くなりました。自分達でやってしまったものは自分達で責任を持って片付ける。それができています。マイナスはプラスに塗り替えられました。世界が浄化された感じがする。
イメージの世界で「エルサ」の看病や治療をしていた「保育士さん」と「ドクター」の2人ですが、今回は現実世界でその「人の役に立つ」「人の世話をする」という役割を行いました。ごっこ遊びが現実世界の行動に影響を与えています。今まさに、遊びと現実が融合している。海と陸の間の波打ち際のことを渚と言いますが、まさに今、その状態です。ゆっくりと2つの世界が混ざり合っています。イメージの世界で人を救う遊びをしていた2人が、現実世界で人を救ったというわけです。
現実世界でも遊びの世界でも、世界を変えるのは「人を救いたい」という純粋な気持ちなのかもしれません。
ホワイトボードに落書きしてしまったという罪悪感。
床に紙を散らかしてしまったという罪悪感。
その罪悪感のある子たちが集まって、床に落ちていた星の画用紙を拾い集め、ホワイトボードを飾り始めました。ちょうど自分達が描いてしまった場所の上に。
適切な形で、正しい行動で、自分たちのやってしまったことを塗り替える。これは、贖罪の遊びです。自分で自分を許すための遊び。とても良い終わり方になりました。
さぁ、残ったのは動物に転生してしまった「元エルサ」。
無事に人間として生まれ変わってくるのか。七夕の織姫と彦星のように出逢えるのか。みんなの願いは届くのか。
ひょっこり出てきました。
「こんにちはー」
「こんにちは」
喋れてるから動物じゃないですね。ちゃんと人間になったようです。これも海に入れてくれた「看護師さん」のおかげです。それぞれの役割で、それぞれの責任を全うした結果、お互いに影響しあって遊びが変化していきます。
最後はまた、みんなで走ります。ペットじゃないから2足歩行できてますね。
星型の画用紙が床に良い感じに散らばっていて、なんだかキラキラの星の道を駆け抜けているみたい。夢に向かって、明日に向かって生きていくぞ!って感じがしませんか?
第一回は以上です!
七夕まつりの第一回というより、前回の続き回でしたね。導入としても、遊びの展開や質の高さとしても、今までの総決算という感じで、とても見応えがありました。
まさかゾンビと人間が新人類に転生して、一度世界が戦争で崩壊しかけた後に、愛によって世界が浄化されていくとは思いませんでしたね。もちろん私が意味づけた勝手なストーリーなんで、子どもたちはそんなことは考えていませんけど。
ここでファンタジーの世界で生きる子どもたちの物語は一区切りです。十分に遊び、ここから現実的な七夕まつりの準備に入っていくわけです。ここまでに遊びのルールやイメージの共有をたくさんやってきました。みんなで遊ぶという体験の良さも感じ取ってきた。ルールやぶりからの回復も今回行った。
準備は万端です。
この子たちがどう現実世界に向かっていくのか、続けて第二回の様子をご覧ください。