4歳児、ダンボール遊びプロジェクトの後編です。今回のプロジェクトでは、遊びの融合をテーマに語っています。
#3
今回のプロジェクトは短いです。なんと3回目で最終回となっています。理由は最後まで読んでもらえると思います。
大きいブロックを使った遊びの時に作っていたユニコーンを今回も作り、またがっています。本人の中に何か心惹かれるイメージがあるんでしょうね。大きいアイテムを使用する遊びは体全体を使った遊びになりやすいので、手前の子たちも家を作ったり中に入ったりして遊んでいます。
今回はさらに大きめのダンボールを追加しています。意外と大量のダンボールを用意するのって大変なんですよ。まず保管場所に困る。集めるのも大変。箱状にするのも大変。保育士の地味な苦労の一つです。
狭いところに入りたい。囲まれたい。なぜかそんな気分の時ありますよね。これを見た他の子たちが「私も入れて」「入りたい」と殺到し、大人気スポットになりました。
右下の子のなんとも言えない表情をご覧ください。悩みを抱えたOLが週末にぶらりと1人で寂れた温泉街に行き、露天風呂に入って考え事をしているようですね(妄想)。
その時はそう思ってたんですよ、私も。実はそうじゃなかったんです。
突然の「ゾンビごっこ」が始まりました。人生に疲れた人が温泉に入っていたわけじゃなかったんです。ゾンビになって「うつろな目」になっていたんです!
周囲の人間に襲いかかるゾンビ。「ウオオオオオ」
「きゃあああ!」みんなはパニックになり逃げ出します。
さらに追いかけるゾンビ。
逃げたりダンボールの中に避難する人々。
ほのぼのムービーから、ゾンビパニック映画の始まりです。
意外とルールがちゃんとしているようで、噛まれるとゾンビになるようです。それをちゃんとみんな理解しています。集団遊びがちゃんとできていますね。4歳児クラスの発達段階として良い感じです。大人が仕切らなくても自分達でルールを決めながら集団遊びを楽しめている。成長を感じます。
ただし、そのゾンビを撃退する方法がこの遊びにはありません。ゾンビ側に有利な設定です。遊びの考案者に有利なルールになるのは、子どもの世界ではよくあることです。
一方こちらはダンボールを解体するという遊びが展開されています。偶然ダンボールが壊れたのを見た2人が、どれだけ細かく細分化できるかにチャレンジし始めました。何かに取り憑かれたかのようにダンボールをちぎる2人。
ゾンビたちがこちらにやってきました。床に散らばったダンボールの残骸が、ゾンビに襲われる荒廃した世界観に非常にマッチしていますね。
ゾンビから逃げていた子たちも、ダンボール破壊遊びに気が付いたようです。
ゾンビから逃げていた人々も同じようにダンボールを細かくちぎり始めました。
ダンボールの残骸の形を見て、右の子は「お面」を表現していますが、それぞれが「これは〇〇に見える!」と発表していく遊びに変化しました。
ちぎるという感覚運動遊び(0〜1歳児)が、視覚とイメージの力を使った見立て遊びに変わっていき(2〜3歳児)、言語を使った集団遊び(4歳児〜)に変わっています。
そのうち、ダンボールから「武器」を作る子が数人現れました。そしてその武器を使ってゾンビと戦い始めるという展開に!
なるほどなぁと思いました。ゾンビから逃げている途中だということを忘れていなかったんですね。
最初はゾンビを倒す手段がなく逃げるしかない遊び、つまり鬼ごっこの派生系の遊びでしたが、襲われる側が武器を自作して対抗できる方法を身につけました。つまり、ゾンビは倒せないという常に勝者が変わらないルールの遊びから、勝敗が逆転する場合もあるという高度なルールを付加し、ゾンビごっこの世界を新しく作り替えたというわけです。
ストーリーも面白いなと思いましたが、何より遊びの質が変化していく様子がなかなか見どころがありました。やっぱり面白いクラスですね。
さて、今回は遊びの融合についてをテーマにして解説をしてみましたが、いかがでしたでしょうか?
もう一度整理してみましょう。
ダンボールに入った子を引っ張る遊びが人気だった。
人ではなく箱状の小さいダンボールを乗せて運び、お届け物をする人が現れた。
お届け物を使って作ったダンボールの上を歩くという「危険」な運動遊びを行った。
マットやキャタピラ、ダンボールの中に入る遊びが展開された。
中に入るというイメージからトンネルを作ってみんなで入る遊びに変化した。
トンネルではなく箱に囲まれるという「安心感」を求める遊びに変化した。
それを壊すかのようにゾンビが登場して逃げるだけの遊びになった。
中に入ったり壁として使用していたダンボールを壊して武器を作った。
武器でゾンビに対抗し、再び「安心感」を得ることができた。
ストーリーとしてはこうですね。並べてみると、繋がっているのがわかると思います。
「ダンボールは箱である」という常識的な枠組みから抜け出し、ちぎって自由な形を作り必要な道具を創造しました。これは問題解決能力の発揮です。困難な状況を打開する力、生きる力とも言えます。幼児期では遊びが教育ですので、教育的な効果がある遊びが展開されたと解釈して良いでしょう。
もちろんこうなったのは偶然の産物であるわけですが、100%偶然だというわけでもない。子どもたちの無意識の世界がどこかで繋がっていて、遊びに影響していくんです。
観察している大人が、無意識の影響力というものに気づくことが出来るのかというと、かなり難しいと言わざるを得ません。無意識の影響力、遊びの融合に気付けるようになるコツは、遊びを「点」で考えるのではなく「線」で考えることです。
あまりこういった考え方で物事を見る人は多くありません。起こった現象だけを切り取って判断や評価をしがちです。しかし、何事も複雑に影響し合いながら時は進んでいきます。人の影響を受け、環境の影響を受け、過去の自分の影響があって今の自分がある。そして今を生きることで未来を作っていく。何と何がどう繋がっているのか、何が影響しているのかを「線」で捉えることは重要な要素です。
「線」で捉えることができれば、深い理解ができるようになっていきます。「線」の理解は保育の質が向上するだけでなく、親子関係をはじめ人間関係全般の理解も深まるのです。
ちょっと難しい話になってしまいましたね。
さて、今回のプロジェクトは3回で終了になりますが理由は大きく2つです。
遊びの展開が双方向の勝ち負けのある複雑なルールのある集団遊びまで辿り着き、ダンボールで遊ぶ必要がなくなったため。
もう一つは、最後にダンボールから必要なアイテムを作り出すという流れになり、子どもの興味が「製作」に移っていると考えられるため。
遊びはあくまでも子どもたちの興味が主役にならなければいけません。大きいダンボールで大雑把な遊びをするのではなく、手先を使った製作系の遊びを行うのが一番良いと判断し、今回で終了することにしました。
次回はこの流れを受けて、製作するプロジェクトになります。