3歳児「家族おままごと」プロジェクトの後編です。ほのぼのしていた前半と違い、後編は全く先の読めない怒涛のサスペンスドラマが展開されます。
この内容、保育園のブログに載せて大丈夫なんでしょうか。もっと子どもらしいストーリーだったら良かったのですが、事実なのでしょうがないですよね?炎上しないことを祈りつつ「ストーリー分析」多めで解説していきます。
まず状況を整理しましょう。
<主要人物>
・お父さん、お母さん、兄、弟、赤ちゃん(人形)の5人家族
・おばあちゃん(母方)
・二代目ドクター(元看護師)
・ギャングチーム(後で出てきます)
・新婚夫婦(後で出てきます)
それでは後編スタートです!
ある日、「お母さん」は近所の家であるものを目撃します。
息子である兄弟がギャングチームに入っているのを!
「お母さん」はショックを受け、走り去ります。そうです。今まで自分は自宅で他人をもてなすことに夢中で、息子たちが他人の家を襲っていたことを知らなかったのです。
自分の仕事に夢中で子どもの様子を知らなかったというエピソードです。子を持つ親として耳が痛い話です。
追いかけてくる息子(兄弟)たち。別に危害を加えようとか、そういうんじゃないんです。ただ母親に分かって欲しかっただけなんです。ギャングとはいえ、友達なんです。
結局、逃げられずに捕まってしまいます。ギャングチーム勢揃いです。
捕えても危害を加えることはありません。親子ですから。
そこに「お母さん」を助けに「お父さん」がやってきました。美しき夫婦愛。これを機に一旦ギャングは解散します。やる時はやる、それが「お父さん」です。
事態は思いもよらない展開に。「お母さん」が「兄」と一緒に家を襲撃しているのです。え、なんで?どうしてそうなるの?
母と息子は「やってやったぜ」という顔で遠くを見つめます。母は息子と同じ行動をしてみることで、息子の気持ちを理解しようとしたのかもしれません。
そして罪の意識という共犯意識は結束を強めます。今まで仕事に目を向けていた母親は、今初めて子どもに向き合っているのです。
どうです?何か考えさせられるエピソードですよね。教育というのは大人が子どもにするものではないんです。時には子どもから大人が教わることもあります。
その結果、ギャングチームと一緒に「お母さん」は園長というカメラマンに襲いかかってきました。倒れる園長。ギャングチームと目があっただけで追いかけられます。怖いです。
誰でも優しい「お母さん」はどこに行ったのでしょう。子どもの気持ちに寄り添った結果、完全に同化してしまっています。元々感情移入しやすいタイプの人はすぐ影響されますからね。子どもの気持ちを理解した上で正しい方向に導いて欲しかったのですが、なかなか難しいです。
ギャングチームの1人が「お母さん」の頭に注射をしています。これは、2代目ドクターの薬?そういえば、先ほど2代目ドクターがみんなに薬を配っていました。
これを機に我にかえる「お母さん」。仲間の裏切りにより、ギャングチームは解散します。
このあたりで複数の子が注射器や塗り薬をたくさん使用する場面が見られました。前編でも解説しましたが、破壊の後には再生や修復がやって来るのが子どもの遊びです。バランスをとることができるんですね。そのおかげで私も安心して見ていられるわけです。
そして次の日・・・
逃げる母、追いかける兄弟、それを止めようとする父。同じ構図に戻りました。ピンクの家は「おばあちゃん」の家、つまり「お母さん」の実家のようです。そこに逃げ込みます。
実家は安全基地として全員の中で暗黙のルールを共有しているようです。つまり、実家の中には攻撃できないというルールになっていて、これは毎回守られています。しかも、そういうルールであるという言語化がなされているわけではありません。自然とみんなが同じルールで遊んでいるのです。
こういった鬼ごっこ的な遊びに共通したルールが入ってくるのが集団遊びができるサインです。これは高鬼や色鬼と同じで、こうなったらタッチされないというルールのある鬼ごっこなんです。
実家に逃げ込んで安全だと思いましたが、どうやらすでに遅かったようです。「お母さん」は倒れてしまいます。「2代目ドクター」と「おばあちゃん」による治療が始まりました。本当に助かるのでしょうか。
遠くの家ではこんな会話が。
「ここにいれば安全だね」
「結婚しよう」
突然の新婚夫婦誕生。テントの形もどことなくハートに見えます。こんなハードな展開でほのぼのシーンが見られるとは。
独立して遊んでいるように見えてつながっています。この部屋の中では全員の中で繋がった遊びができています。3歳児クラスとは思えません。すごいです。
事態は一刻を争うようです。実家から病院へ輸送され、緊急手術が開始されました。この後、手術が成功したのに「お母さん」は目を覚ましませんでした。いったいなぜ?
おばあちゃん「私はあなたを守るためのお母さんなのよ!」
こんなセリフが出てくるなんて、どういう設定のごっこ遊びなんでしょう。面白いですね。
なぜこのタイミングで実家を襲うのか。
兄「薬ください」
なんと、ここで手に入れたのは薬です。まさか、母に渡すため・・・?
「兄弟」にしつこく狙われる「お父さん」。ネットのように使用される家で捕まえられては逃げるを繰り返します。
弟「虫みたい」
どうやら前回の虫あつめプロジェクトの影響なのか、捕まえて家に入れるという遊びのようです。子どもの中で遊びはつながっています。
家という牢獄に囚われる「お父さん」
うーん、これもどういう比喩なんでしょうか。
息子が父を超えるという思春期のテーマの再現なのかもしれません。
新婚夫婦の夫「ここにこいつを入れたら、お前らが運ぶんだ!」
兄「了解!」
え?!
園長と担任は耳を疑いました。
無関係なほのぼの新婚夫婦だと思っていた夫は「ギャングのボス」だったのです!
「お父さん」を捕まえるように命令していたのは彼だったなんて!
まさかの黒幕登場!
物語終盤で大どんでん返しです。怒涛の展開から目が離せません。
今まで何をしても目を覚まさなかった「お母さん」がついに目覚めます。それはすぐ近くで起こっていた「お父さん」のピンチに気付いてからでした。
これが愛の力・・・?
「大丈夫ですか?」
とても優しい声で「お父さん」を気遣う「お母さん」
動きを止めて母を見る「兄」。
画像では見えていませんが、兄の手には薬があります。
本当はギャングのボスの命令で父親を捕まえるのではなく母親の命を助けたかったのかもしれません。
自分の薬ではなく、夫婦愛によって治療が完了したことを悟る兄。
「ミッションクリア」
そう呟くと兄は薬を手に倒れるのでした・・・。
後ろでは「弟」が父親を解放しています。
2人はギャングとして生きるより、家族の大切さに気付いたのかもしれません。
<エピローグ>
その後は平和が訪れます。誰も物騒なことはしません。
真面目にお店で働き始める兄弟。どうやらギャングチームから足を洗ったようです。
「お母さん」と「新婚夫婦の妻(ギャングのボスの妻)」は仲良く赤ちゃんの世話をしています。包みに入っているお弁当も見えます。ピクニックにでも来ているのでしょうか。
それぞれがそれぞれの人生を歩み始めました。
そのきっかけは「家族の絆」だったのです・・・。
無事、ハッピーエンドで終了です。
どうでしたか?
まるで重厚な2時間の映画を見終わったかのような疲労感がありませんか?
もちろん、子どもたちがみんなこのストーリーを意識していたわけではありません。一つのストーリーであると仮定して分析すると様々なことが見えてくるということです。
2ヶ月前に「おままごと」をやったときは各自がバラバラに道具を使っているだけ、といった印象で相手の役割を意識してはいませんでした。
今回は相手の役と自分の役をある程度理解した上で遊びが展開されています。たった2ヶ月でこの成長は驚きですよね。
今回の裏テーマは「破壊と再生」です。
地震と復興。
生と死。
家族の解体と再統合
そういったテーマが遊びの中で複雑に絡み合い、融合しています。破壊と再生は子どもの遊びの中には度々出てくるテーマです。人間の普遍的なテーマと言っても良いでしょう。
破壊の遊びの時点で保育士が止めてしまった場合、再生という遊びが生まれないまま終わっていたかもしれません。これは問題が起きた時に自ら解決をする力や失敗しても取り返すことができるという前向きな力といったスキルが育つ機会を奪うことになってしまいます。
再生のテーマが現れるまでは時間がかかります。遊びの時間が短ければ出現しないかもしれません。遊びの設定の中でも時間が大切であることが今回の流れを見れば分かると思います。
「ごっこ遊びとは失敗をしても良いと保証された中で行う人生のリハーサルである」
有名なセリフっぽく言いましたが今適当に私が考えて作った言葉です。そういう真剣な目で子どもの遊びを見てみると、いろんなことが見えてくると思います。
子どもたちは遊びに真剣に向き合っています。豊かなごっこ遊びの環境を作れるかどうかが保育士の腕の見せ所です。