4歳児おうち作りプロジェクト第三回です。このシリーズでは「ストーリー分析」で解説を行っています。
前回のラストでは「戦争が起こって文明が滅び、女神が降臨する」というまさかの展開となっていましたが、さて今回はどんな遊びが展開されるのでしょうか。
この日はお休みが多く、「建築家」「パン屋」「女神」といったこれまでのストーリーの中心にいた子どもたちがいません。こういう時こそ、普段目立ちにくい子たちの面白い面が見れたりします。
さて、先に言っておきますが今回の主役はこの子です。前回「パン屋を壊したことで建築家が涙し、それを見て反省してパン屋の再建を手伝おうとしたが資材の所有権争いに敗れて断念し、続いて店舗を借りて自分のパン屋を始めようとしたがオーナーに認められずに無職になった」という例の子です。
バラバラに遊んでいた子たちがまとまって塔のようなものを作り始めたのですが、彼がやってきて壊していきます。
壊されても「〇〇くんが壊したー」と言うだけで特にトラブルにもなりません。遊びはそのまま続いていきます。壊されたパーツを使って、道のようなものを作っていきます。
塔を破壊した後に店舗を貸してくれなかったオーナーを発見し、謎の武器で攻撃を開始。前回の恨みでしょうか。もちろん本当に叩くわけではありません。コントロール状態で攻撃をしているフリをしています。つまり、これは「ごっこ遊び」なのです。喧嘩ではないので保育士が止めることはしません。
一方、せっせとおうちを作っていた子がちょっと目を離したすきに女の子たちが来て「おうちがあるよ」「ここに住もうよ」と奪ってしまいました。全く悪気はありません。子どもの世界とはそういうものです。
たった今自分の家を奪われた手前の子と、前回全てを失った奥の子。2人による「取り戻すための」戦いが始まりました。2人は特に話し合って結託したわけではありません。しかし、同じ格好で同じ武器を持ち同じ行動をしていきます。
子どもにとっての「対話」「コミュニケーション」「関わり」と言うものは言語を必ずしも必要としません。むしろ言葉を使わなくても心がつながっているのです。こういう言葉でわからない共通点だったり心のつながりを丁寧に見ていくのが保育を観察するコツの一つです。
おうちの奪還に成功しました。しかし、子どもたちの興味はおうちに住むことではなく、長い橋を作ることに変化していきました。仲間同士で意見を出し合い、橋をデザインしていきます。建築家がいなくても残された人類は知恵を出し合い新しい世界を作っていることがわかります。
おうちを取り戻した子はおうちの跡地に留まり、また何かを作ろうとしています。
ちなみに壊している子は何をイメージして演じているんだろうと思って注意深く観察してみると「ウィーン、ガシャーン、ロボットです」と小さな声で言っているのが聞こえました。
なんと自らをロボットに改造して人類にたった1人で戦いを挑んでいたのです!
おうちの奪還から橋の破壊に目的を変え、ロボットによる「壊しては逃げて隠れる」遊びが始まりました。人類側も壊されるたびに作り直していましたが、段々と壊されないためにはどうすればいいか考えていきます。
「〇〇くんが壊しにくるぞ!」「守れ!」「あそこにいるぞ!」「追いかけろ!」
壊す子と作り直す子、そして追いかける子。役割が分かれて何度も何度も同じ遊びが繰り広げられます。全員汗だくになりながら真剣に追いかけっこをしています。
突然「水を飲みなさい!」とロボットに水筒を渡す人間たち。みんなで仲良く休憩です。そこには戦いの雰囲気はありません。
もし壊されて本当に怒っていたのなら、こういった展開にはなりません。あくまでも「壊して逃げる」「追いかけて捕まえる」と言う役割に分かれて遊んでいたことが確定しました。また、遊びに集中しているようで、しっかりと水分補給を自分たちでできているというところもポイントが高いですね。成長を感じます。
ロボットの襲撃に備え、橋を壊して壁を作り始めました。
ちなみに奥の方でロボットは牢屋に入れられています。人間の見張りもいますね。遊びが深まり、ただの追いかけっこではなく複雑な設定や工夫が出始めました。
ピアノを牢屋に見立てています。ブロック以外を活用し出したのもロボットが初めてです。何でも遊び道具になる。工夫できる。ロボットのおかげでみんな視野が広がっています。
ロボットによる破壊行動から身を守るため、みんなが心を一つにして協力しています。ロボットの襲撃がなければみんなバラバラに遊んでいたはずです。
もしや、人類のためにロボットはわざと悪者役を引き受けていたのでは・・・?
なんと悲しくも優しい子なのでしょう!
「もう勘弁して」
ついにロボットは倒れ、人類の勝利で戦いは終わりました。
第一回では自然(動物)に人類が敗北し、第二回では人類同士の争いにより世界が壊れてしまいました。第三回である今回、共通の敵に対して協力することで初めて人類は平和を掴み取ることができたのです。
そうです。心優しいロボットのおかげで。
今回の遊びのポイントはロボットの子は常に相手の要求に応じているということです。
「壊されちゃう!」と言われれば壊し、「追いかけろ!」と言われれば逃げていました。つまり、敏感に相手の、場の空気を読み、必要な役割を演じることができる子だったのです。よく観察してみないとわからない部分です。
お友達の作ったものを壊す子。一般的には叱られたり注意されたりする対象になりやすいと思います。壊された方も真剣に「壊さないで!」とか言うので保育士としても止めるべきか判断に迷うところかもしれません。
今回は止めなかったことでこんなにも遊びが豊かに深く変化することができました。行動や言葉を鵜呑みにしたり決めつけるのではなく、子どものたちの遊びの世界で何が起きているのかという視点を常に持っていることが大事であると教えてくれたエピソードでした。
新しいパン屋の誕生です。平和になった世界で唯一残った建造物がこれでした。おうちを奪還した後に壁を作ってロボットからみんなを守り、その後にパン屋をオープンしたのです。
人は戦いだけでは生きていけません。食べ物があることは人類の希望なのです。
ロボットが倒れた後、瓦礫を積み重ねてその上に乗り、窓の外を見るという遊びが起こりました。つまり自分たちのいる世界(部屋)の外に意識を向けたということです。
島国に生きる日本人が天下統一の後に外の世界(大陸)を意識するみたいな意識の変革が起こっています。
おうちを作るプロジェクトのつもりで始めましたが、子どもたちの目はもっと先を見ているんだなと思いました。
さて、次回はどうなるのでしょう。とても楽しみです。