4歳児クラスの「おうち作り」プロジェクトの解説です。今回は遊びを読み取る視点の一つである「ストーリー分析」を使って説明してみたいと思います。

 

無秩序な世界

今回はプラポイントとビルディングブロックを用いて、自由遊びで進めていきます。何も保育者から指示せずにスタートしたところ、各自がバラバラにまとまりもなく遊び始めました。会話もあまりなく、そこに秩序はありません。こちらのねらいとしては集団で「おうち」を作るという共通の目的を持って遊ぶプロジェクトが自発的に生まれることを期待しています。

 

大きな家の建築

序盤でなんとなく各自が並べていたものをつなげていく動きがあり、大きなみんなの家が誕生しました。「建築家」が中心になって作っていきます。こんなに早く「おうち作り」のねらいが達成できたため、残りの時間でどう遊びが深まったり広がったり展開していくのかが楽しみな流れです。

 

おうちにはネコが住み着きました

おうちの中でネコごっこがスタートしました。ネコのために家を作る男の子たち、ネコになりきる女の子たち。「ネコちゃん、ご飯だよー!」とごっこ遊びが広がります。寝るところ、トイレなどを作っていきます。

 

孤高のパン職人

おうちの外に黙々とパンを焼く「パン屋」が現れました。職人気質すぎて客引きをするなどのアピールはしません。パンを焼き、重ねる。ひたすらその繰り返しです。

 

ネコのお風呂が完成

建築家と大工によりネコのお風呂が完成しました。建築家は何度も角度や安全性を確かめていて完成度に納得の様子です。ネコたちは楽しそうにお風呂に入ります。

 

おうちが壊れる

安全性を確かめたはずのおうちが壊れてしまいました。ネコたちは壊れたおうちから避難していきます。ネコのご飯が瓦礫の下敷きになってしまいました。

 

塔の建設

建築家が壊れた家のそばに塔を建設し始めました。どこまで高く積めるかの創意工夫の結晶です。みんなで協力して高くしていきます。土台を作ったり、積む人と渡す人に分かれたり。ネコが住む場所を作るために力を注ぐのではなく自分の技術をただ発揮したいという欲求です。他人のためではなく自分のため。ごっこあそびから一時的に離れ、己の技術と向き合う高度な遊びです。また役割分担を一つの目的に向かって遊べているのも良い流れです。

 

塔もネコが住み着く

しかし、結局住む場所が無くなったネコたちが塔に住み着くことになりました。この後大量のネコの襲撃に遭い、塔は破壊されます。人類の叡智をかけて建設した天まで届きそうな塔も、動物たちの、自然の前では無力だったのです。人類の傲慢さの象徴である塔に神様から天罰が下ったという解釈もできそうです。

 

パン屋大繁盛

ご飯が無くなったネコたちはパン屋にパンを買いに行きます。ネコだったはずですが、言葉を喋り、お金を払い、二足歩行しています。いつの間にか人間に進化していたようです。ちなみにこの後パン屋も壊されてしまいます。人間の文明は一旦滅んでしまうのです。

 

電車が走る町になりました

しかしパンを食べてから急に世界に変化が訪れました。農耕社会だったはずですが、産業革命が起こったように急速に近代化が進んでいます。

車も登場

電車だけでなく車に乗る姿も見られるようになりました。ネコはいなくなり各自が人間として生活しています。誰が指示したわけでもないのに不思議な光景です。遊びが深まっているのです。

 

機関車が完成

塔を作った建築家と文明を破壊した元ネコの親分が協力して大きな機関車を完成させました。しかも機関車の中でパンを焼いています。そして機関車はネコのおうちでもあるそうです。今日の流れで出てきた、おうち、乗り物、パン屋が融合しています。遊びの着地点として最高です。

 

新たな家の誕生

壊れたおうちのパーツを使って、より立体的な新しいおうちの建設が始まりました。人類の進歩を感じます。そして建築家の作り方を見て学んだ人たちによって、新しいやり方でより洗練された文化が育まれているのです。

1日目はこれで時間が来て終了となりました。

 

ストーリー分析、いかがでしたでしょうか。

「人間と動物が同じように暮らす秩序のない原始的な社会から、パンを焼く農耕社会が生まれ、科学と知恵の象徴である塔を作るまでに成熟した文化が滅び、復興を成し遂げ、産業革命が起こって工業化が進み、新たな文化が誕生する」という壮大なお話が展開されました。人類の歴史の再現です。

 

もちろんそんなことを考えて子どもたちが遊んでいるわけではありません。たまたまそうなったのかもしれません。しかし、遊びの世界ではこんなにも面白い世界が展開されているんだという視点を大人が持ってみるのはいかがでしょうか。

 

保育士の皆さんは保育中に子どもたちの遊びをどういう目で見ていますか。深く理解しようとしていますか。保護者の方は休日に我が子を公園に連れて行った時など、子どもの遊びをぼーっと見ていたりスマホを見ていたりしていませんか。実はこんなにも豊かで複雑で面白い世界に子どもたちは生きているんだという発見が、この記事を読んで感じてもらえると嬉しいです。

 

寄り添い見守る役割の大人が、子どもたちの作る世界に、ストーリーにグッと引き込まれて「面白い」と心の底から感じている。当然、私たち保育者は自然と笑顔になっています。

その結果、部屋の中で全員が夢中になって遊ぶ雰囲気が形成されます。その雰囲気がまた遊びの質を高めていくのです。

あまりにも面白かったので、プロジェクトが終わる前にブログを書いてしまいました。